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それは即ち、腐れドラ息子の不祥事を自身の保身も含め、親が揉み消してるってことだよな。
確かに清春くんは昔からやんちゃばかりしていて、まともに勉強ができない。
中学時代、テストで0点取ってもヘラヘラしているような人で、自分のクラスの授業を放っておいて、別クラスの体育の授業に混ざってサッカーをしていた。
そんな自由な人だからこそ、俺と冬馬は憧れたって部分はあるけど、でも、今の清春が起こしてる行動には、一切大義がないのだ。
いや、そもそも大義などなくて面白半分でやっていたのであれば? その線は大いにあるが、ここまで落ちこぼれを組織して行う理由はどこにある?
しかし、これだけでは興梠が清春に手を出せないって理由には少し弱い気がするな。
まだ何かがあるかもしれない。
「興梠、それだけじゃないだろ。あんたが清春を捌けない決定的な何かがある筈だ」
「もちろん、それだけではないさ。金川くん、話して差しあげなさい」
「なんで毎回私が話さなきゃならないのよ。まったく……」
深い嘆息を吐いた金川先輩。
もうさ、可哀想でしょうがないよね。
それくらい自分で話しなさいよと言わんばかりの侮蔑な目で興梠を見ながら、金川先輩は話し始める。
「ここに居るゴミ会長と加藤先輩は、生徒会長の座を賭けて選挙で戦ってるのよ。もちろんゴミ会長の圧勝だったけど」
ゴミ会長って……それはさすがに可哀想だなも……。
でもそれだけだったらただの因縁で片付きそうだが、金川先輩の話しは続く。
「でも、加藤先輩が当時打ち出した公約がおかしかったの」
「と、言いますと?」
「彼は現行している制度をより強化し、優劣をハッキリさせようとした。またクラス分けを上流下流としっかり区分し、上流階級のみ学校運営に参画や学校生活における最優先の優遇をできるように主張したの」
簡単に言うと、より明確な格差を生み出し上流階級の生徒にのみに与えられる特権を作ろうとしたのだ。
もちろんそれは一般の生徒は反対するに決まってる。
この学校はエリート校とは言われてるが、もちろん、中には一般で学力のみで入学して来た人間が大多数を占める。
外部進学組がそうだ。
俺や東雲、冬馬も有紗も外部進学でこの学校に入学している。
考えてみれば興梠が生徒会長になったほうが幾分マシかもしれないな。
でも、俺は許さない。
だって!俺の幸せなスクールライフを、このおかっぱクソメガネに奪われたんだからな!
変なことには巻き込まれるし、怪我するし身体痛くて起き上がれないし!
どれもこれも、このおかっぱクソメガネが悪い!
返せ! 俺のマイスウィートスクールライフ!!
ここでずっと黙り込んでいた東雲が口を開いた。
「あの、興梠先輩、私が推察するに、興梠先輩って何か弱味握られてますよね?」
あら姫奈ちゃん、それは少し気になるわね。
お母さん黙って聞いてるから話して差しあげなさい。
「加藤先輩が裏で愚行を重ねることは、生徒会選挙で負けたという動機が1番納得出来ます。ただ、興梠先輩は先程、なぜ頑なに加藤先輩の話を遮ってまで退室しようとしたのですか?」
確かに、これまでの話で考えれば、興梠や金川先輩が話したことは清春がなぜこういうことをするようになったかの動機の推察だけであって、興梠自身が清春のことを話したくないということには繋がらないよな。
「親が国会議員で自身は好き放題できて、生徒会選挙に立候補したが負けて、裏から自身の帝国を築き上げようとした。ここまでは動機として理解できます。ただ、あなたが加藤清春という人物に目をつぶっている明確な理由がない」
東雲は興梠に指を差し高らかに言い放つ。
「興梠生徒会長、あなたは加藤清春の手下だ!!」
…………………………えっ?
ちょ、ちょっと待って?
んっ? 違くない?
まあ確かに、あからさまに逃げてた節はあるけどさ、それはそれでなんか違うと思うよ?
皆がキョトンとしている中、東雲は1つの真理を解いたみたいな顔をしてドヤっていた。
まじでさ、この空気どうしてくれるの?
「私、東雲姫奈はずっと考えてた。興梠生徒会長、あなたは加藤清春をずっと庇ってる。だから加藤清春の名前が出た瞬間に逃げようとした。そこにいる金川彩花委員長!あなたも同罪よ!」
姫奈ちゃーん……もうやめてー……。
○田一少年見すぎた?
それとも探偵○園?
「東雲さん!あなたなにを!!そんな筈無いじゃない!私があの加藤先輩と仲間なんて百歩譲っても有り得ないわ!」
「黙りなさい!デカパイ!」
「ちょ、今はおっぱいのデカさは関係ないでしょ!」
金川先輩もそこに引っかかったらダメでしょ。
金川先輩もそこそこ大きい方だけど、金川先輩は巨乳っていうよりかは美乳に近いだろ。
あれか、東雲は自分よりデカい人は全員デカパイなのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
話が脱線しないように俺は有紗に目配せして東雲を黙らせた。
「姫奈ちゃん、ちょっと静かにしようね?」
「なんだデカパイ!ん?なんやお嬢ちゃん、自ら乳差し出すなんざええ度胸しとるやんけ、ほなワイがテイスティングっちゅうもんしちゃるけの」
「ひ、姫奈ちゃん……今日はいつもより……んっ///」
ごめんなぁ……有紗。
厨二病おっぱい星人黙らずにはこれが1番良いんだ。
有紗の犠牲を無駄にしないよ。
金川先輩もこの光景を見てドン引きしていた。
「とりあえず、興梠、東雲の言う通り俺もあんたが清春に弱味を握られてるっていうのには賛成だ。じゃないとあんたが清春の事について話そうとしなかった理由が見つからねえ。どうなんだ?」
「私は……私は……弱味など握られてない……」
「そうか、そう言い切るんだな」
「私は完璧な生徒会長だ。常にこの学校のため生徒のため、強いては自らのため、とにかく努力し功績を上げてきた。私がこの学校1番の功労者だ。なのに……なのに……あの加藤清春という下劣は親を隠れ蓑にして好き放題暴れて、この学園の品位を損なう云わば癌なのだよ!!」
興梠の気持ちは分かる。
この学校はエリートが故、学校内外から大きな注目を浴びている。
それは日本の教育学会から見て、この聖麗学園は全ての学校の模範であり、象徴でなければならないからだ。
そんな学校が、加藤清春ただ1人のせいで瓦解しようとしているのだ。
興梠がそれを阻止しようとしたい気持ちは分かるし、俺だって清春の愚行蛮行は阻止したい。
裏を返してしまえば、清春さえ居なければ、俺は楽しいスクールライフを送れてたかもしれないんだからな。
「だから私は正義の為……」
するといきなり、病室のドアが空いた。
皆の視線が入口に注目する。
そこには、冬馬が立っていた。
「冬馬!お前目覚めたのか!?」
確か意識不明の重体だったはずでは?
見た感じ、凄く元気そうにしているけど、本当に大丈夫なのか??
「目覚めたって、俺ずっと起きてたよ」
「は?どういうこと?さっき意識不明の重体って……」
「あー、それはそう言っといてって金川先輩に言っただけ。ちょっと用事があったからね」
「ちなみに僕も居るからな」
後ろからひょっこりと相澤が顔を出す。
「なにがし……」
ちょっと目がうるっとしたよ?
なにがしくん、すぐ気絶するから死んだかと……。
「いや、相澤樹な!!いい加減覚えろ??」
「でも、冬馬、さっきはすまなかったな。かなり痛かっただろ?」
「あー、大丈夫。僕もどうかしてた。そんなことより、今すぐ欲しい情報あるけど居る?」
「今すぐってどういうことだ?」
「ちょっと外でチラッと聞いてたんだけど、興梠会長が清春くんに対してなにも出来ない理由、僕もってる」
病室に戦慄が走った。
俺は興梠を一瞥(あまり見えてない)すると、明らかに動揺している雰囲気だった。
冬馬は興梠に近づき胸ぐらを掴む。
「完璧聖人気取ってる割には、ちゃんと裏でキモいことやってんじゃん。僕あんた嫌い」
「な、な、な、なんのことだね。別にやましいことなんて……」
冬馬は自身の胸ポケットを取り出すと、1つの音声を再生させた。
『ったく、こいつらどんだけしぶといんだよ。昔から喧嘩だけはゴキブリ並みの生命力だよな』
その声の主は清春だった。
時系列を考えるに、俺らが敗れて気絶したあとの会話だ。
『でもよ、興梠も後輩使ってモグリやらせるなんて卑怯な手を使うようになったよな。ま、あいつ自身俺に弱味握られてるからなにも手出し出来ねえけどな』
『清春くん、興梠の弱味ってなんなんすか?』
『あ? 特別に教えてやるよ。あいつな……』
興梠の表情がより一層余裕の無い表情になり焦り出す。
だが冬馬は興梠を突き飛ばす。
「や、やめてくれ……」
「うるさい、黙って聞いて」
『あの野郎、風紀委員会委員長の金川彩花って居るだろ? あいつにゾッコンなんだよ。興梠の弱味ねえかなって思って、あいつが体育の授業中にこっそりスマホ見たらさ、何があったと思う? あいつ、金川の写真撮りまくってんだよ。キモくね??』
興梠の顔面は蒼白していた。
抵抗する気力も喪失している。
『もちろん証拠として写真撮ったけどさ、なにがヤバいって金川が着替えてる写真とかも収めてて、さすがに盗撮は犯罪だなぁって思ったわけ。そこで俺は良いこと考えたわけだよ。これを出汁にゆすりかければ、俺は学校内外で好き勝手やってもあいつは俺を裁けなくなるってな。裁こうどしたところで親父が守ってくれるけどな!』
清春の高笑いが木霊する。
怒りに震えた金川先輩は興梠に近づき、思いっきり頬を叩いた。
乾いた音が病室に響く。
金川先輩が離れると次は冬馬が近づき、興梠のスマホを取り出す。
興梠は抵抗することなく心神喪失状態に陥っていた。
「あー、あったあった。確かにスマホのフォルダは金川先輩の写真ばっかだ。見ます?先輩」
「見たくもない!気持ち悪い!!」
「ですよね。とりあえずデリート」
冬馬は興梠のスマホを床に落とし、思いっきり踏んずけた。
スマホはバリバリと音を立て破壊される。
「これで、証拠はなくなったわけだけど、僕の推察はこうだよ。興梠会長は自分の弱味を潰したい一心で清春くんを潰そうとした。しかし、逆に彼から脅しをかけられなにも出来ずに居た。けど、夏夜が入学すると聞き清春くんを排除する計画を思い立つ。でも中々尻尾を出さない清春くんだから、彼が支配している落第クラスの人間を排除すれば、清春くんが表舞台に出てくると踏んだ。あえて騒ぎを夏夜が起こし夏夜を犠牲にしてまで清春くんを告発すれば、彼はこの学園から去ることを余儀なくされる。いくら父親の隠れ蓑があるとはいえ、清春くんのやったことを明るみに出せば庇いきれないと思ったんだろうね。そうでしょ?興梠会長」
興梠は無言で頷いた。
結果的に俺は都合の良い道具だったってことだ。
興梠の私的な感情に振り回され、命令され、それを実行に移していた。
つくづく呆れるよ。
全て手のひらで踊らされてたって訳だからな。
「それで、夏夜はどうしたい?」
「どうするって?」
「このまま清春くん排除の片棒を担いで最後まで遂行するのか、ここで引くか」
正直どうしたらいいのか分からない。
確かに、清春のしたことは許されない。
許すつもりもない。
でも、このまま興梠の私的な感情を理解した上で動くのも癪だ。
もし仮にここで引き上げてしまえば清春は勢いづいてエスカレートする方向に走るだろう。
そうすればこの学校の末路はカオスな展開になるだろうし、俺たちだけで抑止できなくなる。
「興梠の保身の為に動かされてたってことは癪だしムカつくけどよ、もしこのまま清春の好き勝手やらせてたら、この先どうなるかわかったもんじゃねえ。でも分かんねえんだ」
「簡単よ。加藤先輩もこのクソメガネも排除すればいい。私は絶対にこいつを許さない」
「そうよ。女の子の敵よ。この人は」
「盗撮なんてサイテーなのだ!」
金川先輩の怒りはご最もだ。
このまま清春を排除して興梠が勝ってふんぞり返ってるのも見るに耐えられない。
ならばこれはどうだ。
「清春は排除する。あまりにも危険分子すぎるからな。でも興梠も排除する。私的に身を任せて色んな人を振り回したからな。幸い金川先輩は生徒会副会長兼風紀委員会委員長でもある。任期満了まで興梠を傀儡に据えて、次の世代までの土台作りをすればいいんだ」
「それは名案ね!おい、クソメガネ」
「は、はい……」
「これからは私がこの学園を仕切ります。あなた今まで通り会長職についていて構わないけど、一切口出しをしないって約束しなさい」
「か、かしこまりました……」
興梠の目からうっすらと涙が零れていた。
泣いたところで興梠の自業自得なのは変わりないが、これで一つ問題は解決したと言えよう。
興梠が打ち出した前期の行動指針、落第クラスの撲滅は少し時間がかかりそうだがそれはもういい。
当面の目標として集中すべきなのは、加藤清春の排除だ。
「そろそろ面会時間が終わるかしら。今後のことに関しては、学校が再開され次第話すとしましょう」
「了解っす、金川先輩」
次々と面々が病室を去っていく。
俺は1日この病院に入院することになってるから、留まるが、まだ興梠だけがセミのぬけがらみたいに自失していた。
「興梠、帰らねえのか」
「…………」
興梠から返事は帰ってこない。
それもそうだ。
自分がひた隠しにしていたことが明るみになって、事実上の失脚を余儀なくされたんだ。
自分が築き上げてきた帝国が崩壊すれば、誰だってこうなる
でもしかし、こうもずっと居られると俺まで気まづくなるじゃん?
できれば無言でこの病室から去って欲しいんだけどね。
そんな様子は無い。
「なんか喋れよ」
「……日向夏夜」
あ、ようやく喋った。
「なんだよ」
「私は、間違ってたのか?」
「間違ってるも何も、あんたのせいでどれだけの人間が不幸になってると思ってんだよ。俺のことはどうでもいいけど、1番の被害者は金川先輩だろ」
「私はね、彼女が好きだったんだ」
うんうん、誰だって恋はするよね。
知らず知らず目で追ってしまっていて、いついかなる時も好きな人のことを思ってしまう、そんな瞬間。
今何してるのかな? 誕生日っていつなんだろ。彼氏、彼女いるのかな? ってさ。
ま、俺は初恋まだだけど。
彼女いない歴=年齢です。
おい、嘲笑するな。