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金髪ツインテールと風紀委員会  作者: クロモリハルト
第1章
2/6

邂逅そして遭遇


春!俺は晴れて高校生になった!

真新しい制服に、真新しい春のそよ風。

俺はウキウキしながら、まず体育館に向かった。

体育館で入学式が執り行われる為、そこに向かってるのだが、受付をしている在校生に名前を言って、そこで初めて自分のクラスが判明する。

そそくさと受付を済ませた俺は、自分のクラスの場所に向かった。

1年c組。それが俺の新しいクラス。

所定の椅子に座るり、スマホをチェックすると1件のメッセージが来ていた。

母ちゃんからだ。


--夏夜、入学おめでとう。母ちゃん、入学式には行けないけど、楽しい高校生活にしてね。あとあんまり無茶しないでね。友達たくさん作るんだよ。


母ちゃん……。

俺の家は所謂母子家庭で、俺が小さい頃に父ちゃんと別れた母ちゃんは、女手ひとつで俺を育ててくれた。

看護師の仕事をしている母ちゃんは、休みがバラバラで救急救命に配属されているせいか、休みも少ない。

そのため不規則な生活をしている。

まあそれも、俺の為って母ちゃんは言うだろうし、弱音ひとつ吐かない母ちゃんを、俺は尊敬してる。

ありがとな、母ちゃん。俺は立派で素晴らしい息子に育ってるよ!


ちょっと涙目になりながらも、俺は素晴らしいスクールライフを過ごすと、改めて決意した。

すると--後ろから、気だるそうに俺の名前を呼ぶ声がする。


「夏夜ぁ、夏夜ぁ」


俺はその声がする方向に顔を向けた。

青髪で眠そうな猫目、ちょっと猫背で歩く姿が印象的な幼なじみ、長谷川冬馬はせがわとうまが俺の横に座った。


「よ!冬馬。もしかして同じクラス?」


「らしいね。夏夜と同じクラスで退屈しなくて済むから嬉しいよ」


「俺も同じくだ」


「そういえば、最近女の子助けたんだって? 黒鬼が人助けしたって噂になってたよ」


「あぁ、あのことな。たまたまだよ、たまたま」


「へぇ、夏夜も物好きなことするんだね」


俺と冬馬は幼なじみで小さい頃からよく一緒に遊んでいた。

気だるそうなのは昔から変わらないが、黒鬼と呼ばれている俺を友達と言ってくれる、数少ない友達だ。

昔聞いた事あるっけ? なんで俺と一緒に居るんだって聞いた事。

シンプルに言ってたな。面白そうだからって。


そんなフワフワしている冬馬だが、怒ると俺以上に怖いってのはナイショの話。

普段怒ることは無いが、自分の意にそぐわないことや道理、理屈が通ってないことがあると怒ってしまう。

まあ、普通のことではあるが、怒ると歯止めが効かなくなってしまうから、みんなは冬馬を怒らせないように!これ、試験にでるからね!


「物好きって、俺だって困ってる人が居たら助けるぜ?」


「助けられた方は逆に弱みを握られる可能性があるから、たまったもんじゃないよね」


「お、おい!冬馬、俺をなんだと思ってんだよ!」


「泣く子も黙る、生ける伝説、黒鬼」


「それひどくね? 逆に俺が泣いちゃうよ」


「夏夜の泣き顔見たくないから、入学式終わったら教えて。寝る」


「は!? お前、入学式くらい起きとけ!」


俺の耳も貸さず、冬馬は直ぐに眠りについた。

着ている白いパーカーに首まで埋もれ、音もなく寝る冬馬。

冬馬らしいっちゃ冬馬らしいが、入学式が終わる前に起こしてしまったらキレ散らかすからそっとしておこう。

にしても、この間俺が助けた女の子、元気にしてるかな。

馬面はワンパンで仕留めたけど、報復の矛先があの子に向くっていう可能性もある。

どうか、報復の矛先は俺であってくれ!


そんな事を考えてると、いきなり体育館の照明がパタッと消えた。

周りの新入生たちはソワソワしていて、正直俺も状況が読み込めない。

すると、前にある壇上にスポットライトが灯される。

そこには、同じ制服を着た男が立っていた。


「新入生の諸君、我が学園、聖麗学園入学おめでとう」


どうやら、入学式が始まったらしい。

にしても、斬新な始め方だな。

こいつ、一体誰なんだ?


「ふふふ、ははは! 諸君覚えておくがいい、この学園を牛耳るフィクサー、そしてトップオブザトップの男! その名も! 生徒会長の興梠こうろぎぃ〜だっ!! だっ、だ……」


いや、セルフエコーやめろよ。

絶妙にダサイって。

新入生のみんなは口を空けてポカンとしていた。

無理も無い。この学校は地元では有名な進学校で多くの著名人を排出しているエリート中のエリート学校。

堅真面目が集う学校で、生徒会長が入学式でふざけてるのだ。

こんな状況、誰が見たってポカンとするのは当たり前だ。


「驚くのは無理も無い話だな。だが直に慣れる!なぜなら、このわたくしがっ!! 生徒会長のぉ〜! こ!う!ろ!ぎぃ〜!! だっ!! だっ、だ……」


だからセルフエコーやめろ!ダセェよ!


「んっ……。ったくうるせぇなぁ。人が寝てるってのに騒ぎやがって」


あ、冬馬くん起きちゃった。おはよう。


「夏夜、あのバカ誰?」


おっと、冬馬くん、起きて早々お怒りの様子です!


「ははっ……。なんか入学式で堅くなってる新入生にフランクな挨拶してんだとよ……」


「ん? そうなの? そんなの要らなくね? 寝る」


助かった……。このまま冬馬がキレ散らかしたら、入学式はおろか、冬馬が退学になる所だった……。

心の中でホッしている俺だが、生徒会長の興梠の話はまだ続く。


「この学園は自由な校風だ!まあ、楽園と言っていい。法に触れることをしなければ、何をしたって構わん!ただ、自己責任が伴うことは忘れちゃいやーん」


いやーんは要らねぇだろ。

真面目に喋ってるのが台無しだよ。


「ただし! この聖麗学園は世間から評価されている通り、トップクラスの進学校だ。各界の著名人はこの学校の出身者も多い。その偉大なる諸先輩方の顔に泥を塗る行為は許されない!なーのーで! 勉学を疎かにするものはそれ相応のペナルティもある事を忘れずに!」


ハイテンションなことには変わりは無いが、急に真面目なことを言い出した興梠。

確かに自由な校風を売りにしている学園だからこそ、勉学に対してはストイックに取り組めというのは理解出来る。

実際の法律でも、秩序の中に自由は存在するし、それから逸脱したら犯罪だ。この学校からしたら、それこそ勉学が法律であり、その勉学を疎かにしたら罰がある。

この興梠ってやつ、ふざけてる割には、結構真面目なこと言ってるから、案外聞き逃せない。


「長話しは好きではないので、ここで私の挨拶は終わらせて頂こう。そして最後に一つだけ言わせてくれ」


なんだ? いきなり興梠の顔つきが変わったぞ。

異様な雰囲気に包まれる。


「改めて、我が学園、聖麗学園に入学おめでとう。君たちは将来有望のエリートの卵たち、170名だ。ここは自由な校風で休み時間にゲームもしていい、お菓子を食べていい。好きな子とイチャイチャしてもいい。だが、勉学だけは手を抜くな。勉学はどれだけ取り繕っても正直であり嘘は付かない。だから、どれだけ辛くても勉強しろ。全ては君たち自身の未来のために」


さっき言ってたことを真面目に言ってる感が否めないが、ヘラヘラしていた周りの新入生も、これに限っては素直に話を聞いていた。隣の冬馬くんは相変わらず寝てるけどね。

でも、これだけ念を押すぐらい勉強のことを言ってくるんだから、本当に勉学に力を入れているのだろう。

これでいい。これでいいのだ。

街でも学校でも因縁つけられて喧嘩ばっかしてた中学時代の俺とおさらばして、ここのエリート学校で勉学に勤しみ、友達もたくさん作って、憧れ、夢のエンジョイスクールライフを満喫するんだ!

この学校には俺の理想と夢が詰まってるからな!

3年間楽しんで楽しんで、楽しみ尽くしてやる!


「それでは新入生の諸君! これでこの学園のトップオブザトップ!生徒会長の話を終わりにさせて頂こう!でーもーこのままじゃ尺的に余ってしまうので、なんかしたいんだけど、なんかしよ……グハッ!!!」


「生徒会長が入学式で遊んでんじゃないわよ!」


なんだ?いきなり。下手から女子生徒が走って入ってきては、飛び蹴りをかましたではないか。

その衝撃で興梠は横に吹っ飛び、女は咄嗟にヘッドロックをかます。


「あんたね、生徒会長のくせに真面目にできないわけ!? 確かに最後は真面目に話してたけど、最後なによ!尺がどうとか、あんたバカにも程ってものがあるわよ!」


「そんなにバカバカ言わないでy……シアワセ。これでも頑張って……キモチィ」


ん? 興梠様子おかしくない?

なんか頬紅くして喜んでるけど……。

あ、あれか、ドMか。

それを察知した女子生徒は突き放すように興梠を離した。


「彩花くん、私を誰だと思ってる!生徒会長のこ!う!ろ!g……グハッ!!!」


「知ってるわよ!キモイからやめて!」


「途中で遮るな!そんでもっと蹴って!もっと罵ってぇー!」


うわーきもちわる……。

興梠とやりあってる彩花って人も、ドン引きしてるし。


「おっと君たちに紹介しておこう、生徒副会長の金川彩花かながわあやかくんだ!」


「気持ち悪い生徒会長のご紹介にあずかりました、生徒副会長の金川彩花です。みなさん、宜しくお願いします。」


深々と頭を下げた副会長。

良かった……真面目な人で。

いや、入学式に生徒会長に飛び蹴りアンドヘッドロックかましてる時点で真面目とは言い難いが。

モデル体型でスラッとしていて、身長も165センチぐらいか、茶髪のショートボブでメガネを掛けている。

うん、間違いなくこの人はモテる!

シンプルにかわいい!


「さて、金川くん。そろそろ時間も無くなってきたので退散しよう。私は先に行くよ」


「あんた自分勝手すぎるでしょ。きもちわる」


「なんだと?いいぞ!もっと言え!!」


「…………」


金川先輩は侮蔑の目をしながら、下手に引き上げて行った。

ひとり取り残された興梠もご満悦の表情をしながら、その場を後にしていく。

この数分、一体何だったんだ?

ここがエリート学校ってのは間違いないが、あの生徒会長本当にこの学園の生徒会長なのだろうか……。

本当に生徒会長だったとしても、金川先輩相当苦労してるんだろうな。俺が同じ立場だったら、何回も地獄を見せてるだろうね。うん、間違いなく。


それから入学式は進み、程よく飽きてきた頃、冬馬が起きた。


「んー、よく寝た」


「おはよう、冬馬」


「ん、おはよう。あれ? まだ終わってなかった?」


「あとは新入生代表の挨拶で終わりだよ」


「なーんだ、それまで寝てれば良かった」


「タイミング悪かったな」


「それでは、新入生代表の挨拶、東雲姫奈しののめひめなさん、登壇してください」


司会進行の先生がそう言うと、ひとりの女の子が登壇していく。

身長は155センチ程度か、金髪にツインテール、スカートは膝まで下ろされてて、いかにも真面目ってタイプだ。

でも、どこかで見覚えが……。

いや、気のせいだろう。

ああいう人は世の中にたくさん居るし、特別珍しいってわけでもない。

でも、周りの一部の生徒はソワソワしていた。


「なぁ、冬馬。なんで一部の人間がソワソワしてんだ?」


「理由なんて簡単だよ。外部入学で1番入試の成績がよかったからだよ」


「は? どういうこと?」


「この学校って付属の中学があるでしょ? でも、全員がそのまま高校に上がれるって訳じゃなくて、内部入学でも100人までって振るいに掛けられるらしいんだ」


「中学の生徒数ってわかるか?」


「わかるよ。知り合いの情報によると、僕たちと同い年で内部入学を希望したのは300人中270人。ほとんどの人が内部受験をしてるってことになる」


270人!?

それで合格した100人を差し置いて、外部入学のあの子が新入生代表に選ばれてるのか。

そりゃソワソワするって話か。


「この学校の内部進学者はプライドが高いからね。外部進学者は、内部と関わらないようにって言われてるくらいだよ。夏夜も気をつけて」


「お、おう……」


そんなデカい障壁があるのかよ、この学校は。

って考えると、あの新入生代表に選ばれた子は大変だな。

これからの学校生活、色々と目の敵にされて強制的に学力レースに参加させられるのか。

お気の毒に。アーメン。


「以上、新入生代表、東雲姫奈」


そんなことを考えてると、新入生代表の挨拶が終わっていた。

長かった入学式も終わり、これから自分たちの教室に行くわけだが、こんなに長かった入学式だ、ものすごくトイレに行きたい。

自分たちのクラスの退場になると、俺は冬馬と別れトイレに向かった。

トイレに入ると、おかっぱ頭でメガネを掛けている、ヒョロガリの男とばったり遭遇する。

こいつ、あいつだ。生徒会長、興梠。

興梠と目が合ったが、俺は無言で隣に立ち用をたす。

すると、興梠は俺の事を一瞥もせずに口を開いた。


「まさか、君が入学してくるとはね。黒鬼」


「なんだ、あんた俺のこと知ってたのか」


「もちろんだよ。黒鬼……いや、日向夏夜ひゅうがなつやくん」


「名前まで知ってて貰えて光栄だな。生徒会長」


「敬語を使わないのが、なんだか君らしいな」


「俺が敬語を使うのは、本当に尊敬してる人と年上の女性だけだ。残念ながら、あんたは尊敬に値しない」


「言ってくれるねぇ。でもまあいい。国内トップクラスの入試の成績を見る限り、君はただのバカじゃないって証明されてるからね。今後の君には期待してるよ」


「勝手に期待すんな。駄賃もクソも出ねえよ」


「本当に君は面白い人間だ。興味がそそられる。君とはまた会いそうだね」


「気持ち悪いこと言うなよ。極力会いたくねえけどな」


俺はそう言うと、手を洗いトイレを後にした。

トイレから出ると、目の前にまた見覚えのある人物が立っていた。


「あ、金川先輩」


「あんたは、黒鬼?」


驚いた顔をしていた先輩は、俺が付けられているあだ名を口にする。

てか、街じゃ有名の黒鬼の正体が俺って、ヤンキー以外じゃ限られた人間しか知らないのに、良くもまぁ知ってるものだ。


「おっと、人を忌み名で呼ぶのは失礼だったわね。日向夏夜くん。入学式で名前は知ったと思うけど、私は金川彩花。よろしくね」


「はい、宜しくお願いします。あと、あだ名で呼ばれるの別に気にしてないですよ。でも俺が黒鬼だってこと、あまり口外しないでください。この学校ってそういう底辺の世界知らないでしょ?」


「確かに、この学校にバリバリのヤンキーが居るってのは信じ難い事実になってしまうわね」


バリバリのヤンキーでは無いですけどね……。

喧嘩嫌いだし。痛いの嫌だし。争いとか醜いって思ってるし。

でも、端から見たらそう思われるのは仕方ない。

どうやったらそう見られなくなるんだろ。

考えるだけ無駄だからやめておこ。


「でも、日向くんとはまたどこかで会いそうね。私、あなたには期待してるわ」


「それ程でもないですよ」


なんだか、思ったより柔和な先輩だ。

入学式のインパクトが強い割には、こうして対面してると、真面目な生徒副会長って感じがする。

対象の相手が相手なだけに、真面目さが際立つ。

そしてかわいい!


「あー、すっきりした。……おや?おやおや? なんだね金川くん、私を待っていたのかい?」


うわ……出た。クソキモ生徒会長。


「あんたが遅いから迎えに来ただけですけど? あんたのせいで会議が始められないの。わかってる?」


さっきと打って変わって、冷たいオーラ全開の金川先輩。

うん、すげぇ怖い。話しててあんな柔和な先輩だったのに、凍てつく氷の女王みたいになってる。


「私は御手洗いに行くと断りを申し出たはずだが? そんなに遅かったかね? ……にしても、何やら日向くんと話し込んでたようだが、興味をそそるなぁ」


「なんでもないわよ。大した話はしてないわ」


「そうかい、てっきり君が過去n--」


「--あぁぁぁあ!! なんでもないの! 日向くん! 楽しい学校生活を送ってね! それじゃあ私たちは行くね!」


「ちょっと待て金川くん! 私の話はまだ……もっと強くひ引っ張って!!」


ドM発言の後に金川先輩が強烈なボディブローを入れたのは言うまでもない。

でも興梠が言いかけた言葉、少しは気になるな。

過去になんかあったのか? でも、多分俺には関係無いことだ。俺はそれ以上は気にせず、自分のクラスに足を運ばせた。



教室に入ると、何やら騒がしい。

目の前には人だかりが出来ていて、とにかく賑わっている。

俺が戻ってくるのに気づいたのか、冬馬が俺に寄ってきた。


「冬馬、なんだよ、この騒ぎ」


「なんか、ちょっと不味いことになっててね。早く夏夜戻って来ないかなぁって思ってた」


「なんだよ不味いことって。とりあえずそろそろ先生来るし、止めに入るか」


人だかりに寄ってみると、どうやらクラスの男子が女の子を囲っていた。

中には別のクラスの男子も居るみたいだ。


「はい、ちょっと通してねー! はい、どいてどいて」


人混みをかき分けると、真ん中には金髪ツインテールの女の子が怯えながら目を潤ませて立っている。

確かこの子、新入生の挨拶の子だ。

すると、ひとりの男が俺の肩を掴む。


「ちょっと待てよ。みんな順番守ってるんだから、割り込みするなよ」


「そうだそうだ。順番も守れないって、君世の中ルール無視して生きてきたのかい?」


「見るからに不良って感じだね。なんでこの学園に入学出来たのだか。もしかして、替え玉受験かい?」


周りはどっと笑いに包まれた。

こいつら言いたいことを心無く言いやがって。

ちょっとムカついたかも。

でもここは冷静に、対処しなきゃ。


「お前らなぁ、別に俺の事は好き放題言ってくれて構わねえけどよ、女の子怯えてるだろ。さっさと解散しろ」


「自分の順番が遠いからってひがみですかぁ?? みっともないですねぇ!」


「そうやって助けてあげて、自分の株を上げようとする見え透いた行為をやってて恥ずかしくないのかぁ?」


今の発言は俺の琴線に触れるかも。

俺は肩を掴んでる男の胸ぐらを掴んだ。


「てめえ、俺が誰だか分かってて言ってんだろうな?」


「お、お、お、お、お前、ぼ、ぼ、ぼ、暴力は良くないぞ! た、た、退学になりたいのか!」


「あ? 上等だよ。てめえら、俺に対して言葉の暴力ぶつけて来ただろ。それと力の暴力、何が違う。言ってみろ!」


俺に胸ぐらを掴まれた男は恐怖のあまり、口をつぐんでしまった。

周りの人間たちも言葉を失ってる。

俺は男を投げるように突き放した。


「どいつもこいつも腰抜けばっかだな。いいか、寄ってたかって女の子囲んで、人の気持ち度外視して自分たちだけで楽しんでる光景は胸くそ悪ぃんだ。現にこの子は怯えてるじゃねえか。それでもこの子を寄ってたかって迷惑かけるってんなら、俺を潰してからやれ」


「な、なんだよカッコつけやがって。お前なんか、俺の先輩に言えばイチコロなんだよ」


「あ? だったらその先輩呼んでこいよ」


男の額に俺の額を付けて睨むと、そいつは地面に尻もちをついた。

俺は誰にも負けない。喧嘩で負けたことがない。

喧嘩は嫌いだが、誰かを守るための喧嘩なら、喜んでやってやる。


「夏夜ぁ、そこまでだよ。みんなかなりビビってる」


冬馬の声に我に返った俺は、辺りを見回すと、他の男性陣は恐怖のあまり、後ろに引いていた。

尻もちしてるやつなんて、股間辺り湿ってるし。

これは3年間のあだ名確定しましたね。おもらしくん。


「悪ぃ冬馬。すぐ終わらせるわ」


「入学早々、退学はごめんだからね」


俺はおもらしくんの目の前に屈み、胸ぐらを掴んだ。


「おい、おもらしくん。俺が居る限り、悪さ出来ねえからよ、よーく、覚えとくんだな」


「な、な、な、なにヒーローぶってんだよ。お前みたいなやつ、1年も学校に居られるか定かではないね! どうせ低脳のお前は授業に着いて行けなくて落第するのがオチさ!」


「んだとゴルァ!! もういっぺん言ってみ……」


「夏夜、そこまでだって。同じこと言わせないで」


高く上げた拳を、冬馬は止めていた。

冬馬の表情が怒りに満ちてる。

やべぇ、これ以上はライン超えだ。


「悪ぃ冬馬。……とにかく、出しゃばったマネすんなよ」


「う、うるせーよ」


「てめえ!」


咄嗟に冬馬が俺を引き剥がし、おもらしくんに耳打ちをしている。

おもらしくんの顔がみるみる青ざめていくのがわかる。

何を言ったんだ?冬馬。


「わかった? おもらしくん」


「は、はい、わ、わ、わかりました!わかりました!」


おもらしくんは立ち上がるとドタバタと教室を後にしていった。

周りの男性陣も何事も無かったかのように霧散していく。


「てかあいつ、自分の股間が湿ってるって気づいてんのかな?」


「あー、彼ね。教室に入ってくるやいなや、持ってたジュースこぼして、アーヌレチャッターオモラシミタイジャーンって騒いでたよ」


「なんだよ。本当に漏らしたわけじゃねえのか。なんでおもらしくんのあだ名乗っかったんだし。あとすげえ棒読みな」


「え? センスないあだ名が面白かったから」


「あと、冬馬、お前あいつになんて耳打ちしたんだよ」


「あー、簡単だよ。この学校には黒鬼が出るから気をつけなって言っただけ」


「お前なぁ! それは言っちゃダメなやつだからな!てか、言わない約束だろ!」


「そうだっけ? でも誰が黒鬼だかは言ってないよ」


「そういう問題じゃなくてだな……」


冬馬さんの天然っぷりには脱帽です……。

そろそろ先生が来ると思い自分の席に着こうとするが、なにやら、次は俺たちが囲まれてるみたいだ。

ん? どういう状況? しかも女子生徒に。


「あ、あの!カッコよかったです!」


「正直男子には迷惑してたんで、助けてあげてくれて感謝してます!」


「良かったら、連絡先交換してくれませんか?」


「えぇー!ずるい!私も交換したい!」


なんだよ!なんだよ! この夢のハーレムは!

やっぱ人助けすると、いい事が待ってるもんですね!

そんな俺の事奪い合いして、俺も罪な人間ですよ!

なんで結婚するのはひとりだけなんですかね? もういっそ、一夫多妻制を法律を覆そうよ!

そうだ、俺が国会議員になって、婚姻に関する改正法案を提出しよう! そうしたら、色んな女の子に告白されてひとりにしなきゃいけないって頭悩ませてる、イケイケの男子が救われる!


「連絡先ですか--」


「--お願い!冬馬くん!」


「私も冬馬くんの知りたい!」


「冬馬くぅぅぅぅん!!」


おい、待て。

なんで冬馬なんだ。

ふざけるな。

もう一度言おう。

なんで冬馬なんだ。

違うだろ!助けたのは俺!この泣く子も黙る黒鬼、日向夏夜!

確かに最後に冬馬に美味しいとこ持ってかれたけど、1番先に止めに入って助けたの俺だからね!?


「あ、いや、あ、あの……」


「ちょっとどいて!」


「あう!」


なんで冬馬なんだ……。

自然に輪の外に放り出された俺。

なんだか泣きそうです。

そして、男子たちが悪い顔をして俺を嗤ってる。

こいつら全員ぶちのめすぞ!

まあでもしょうがない。

昔から冬馬はモテるし、こういうのには慣れてるから、助けなくていいか。

本気でめんどくさくなったら、勝手に席に戻るだろうし。

俺も席戻ろ。


「おい、お前」


席に戻ろうとした時、女の子に声を掛けられた。

俺はその声の方向に振り向くと、そこには、金髪ツインテールの女の子が立っていた。

背は155センチくらいで、パッチリとした瞳。スっとした鼻に、自然な色合いをした金髪ツインテール。

そう、俺の目の前には、さっき男性陣から助けた金髪ツインテールの女の子、そして、入学式で新入生代表の挨拶をしていた、東雲姫奈しののめひめなが立っていた。

え? めっちゃかわいいんだけど。

お人形さんみたい。


「ん? 俺? なんか用か?」


「あんた!後で話がある!逃げるんじゃないわよ!」


ちょっとお怒りの様子だった。

なんで怒ってるのかは分からない様子だが、俺なんかしました?

すげえ怖いんだけど!


「今じゃだめなんか? 」


「少しは考えなさいよね!ここじゃ人の目があるし、もうそろ先生が来るの! それじゃ、待ってるから! ふんっ!」


そういうと東雲は自分の席に向かってしまった。

おい、席隣かよ。

行くの気まづいだろ……。

俺も席に着くと、やはり、東雲は驚いた顔をしていた。

そりゃそうなるわ。


「なんで、あんたが隣の席なのよ!」


「たまたまだよ!」


「ま、なんでもいいけど、不用意に話かけないでよね」


「こっちから願い下げだよ」


なんだよこいつ! かわいいのはお顔だけですか?

性格全く可愛くないんだが!?

しかも助けてあげたのに、お礼の一つも言わないなんて、性格ひん曲がってるのか?

とりあえず、ここは怒りを抑えて、やり過ごそう。

ひとりで行き場のない怒りを抑えてると、ようやく冬馬が戻ってきた。


「おかえり冬馬」


「おかえりじゃないし。なんで僕が囲まれるの? 助けたの夏夜じゃん。僕なにもしてない。助けてくれたっていいじゃん」


「冬馬なら自分で切り抜けられるって思ったからだよ。んで、女の子と連絡先交換したのか?」


「まあ、教えないと解放されなかったし、全員と交換したよ」


こ、こいつ!! やりますな……。

俺は誰ひとり見向きもしなかったのに。

モテる男は罪だ!犯罪だ!無期懲役だ!!


「す、すげぇな……」


「連絡来ても無視するけどね。無意味なやり取りなんて時間の無駄だし。それはそうと、さっきの金髪の子じゃん」


「……ふんっ!」


「もしかして、僕って嫌われてる?」


「大丈夫、俺にもこの態度だから」


「ならいいや。助けたのは夏夜だからね。僕はなにもしてないから」


冬馬はそう言うと前を向き、机に突っ伏した。

おいおい……、まだ寝るんですか?

ここまで来るとナマケモノだよ?


やがて先生が来ると、さっきまでの騒がしさが一瞬にして静かになる。

先生の自己紹介と、提出物が配られて、明日のスケジュールを言い渡される、思いのほか事はスムーズに進み、今日は解散になった。

ちらほらと帰っていく生徒たち。

それを眺めていると、ぱさっと折りたたまれたノートの切れ端が目の前に落ちる。

そういえば、東雲が話があるって言ってたな。

その東雲はノートの切れ端を俺の目の前に落とすやいなや、近くの出入口から去って行った。

俺は切れ端を確認する。

そこには東雲のメッセージが書かれていた。


「校内の非常階段で待ってる」


それだけ書かれていただけで、あとはなにもなかった。

てか、これだけ伝えるなら、口頭で良いだろ。

まだ怒ってるのかな。


「冬馬、あのさ」


「ん、どうしたの?」


「ちょっと、東雲に呼び出しくらったから、行ってくるわ」


「なにそれ、面白そう」


「別に大した用では無さそうだけどな」


「待って。僕も行く」


「は? なんでだよ」


「面白そうだから」


冬馬くん、気分屋すぎますよ。

好奇心旺盛なのは嬉しいけど、相手は東雲姫奈。また怒られるのが想像できる。


「お前、怒られても知らねえからな」


「心配しすぎ。どうせ空気になるから」


「ならいいけど」


俺と冬馬は、東雲が待つ、非常階段に向かった。



非常階段に着くと、ふくれっ面で腕を組んだ東雲が待っていた。

俺は東雲に近寄る。


「悪ぃ、待たせたな」


「なんで、彼も居るのよ!オーディン!」


オーディン!?

なに言ってんだ?


「彼は呼んでは無いはずよ!私が呼んだのはオーディンだけ」


待て待て待て。

状況が読み込めない。

なんでいきなり北欧神話のオーディンが出てくる。

俺は理解に苦しんだ。

冬馬に助けを求めて後ろを振り向くが、冬馬は今にも笑い倒れそうになっていた。


「おい待て。オーディンってどういうことだよ東雲」


「ま、まさか!あなた、記憶を失ったの?嘘でしょ……」


その嘘でしょ……は俺が是非とも言いたい言葉だ。

とりあえず、この茶番は置いといて、俺は本題に入る。


「とりあえず、俺を呼び出したのはなんだ?」


「オーディンに記憶が無いとなると、現世で起きるラグナロクに対抗しうる策は数少ないと思われ……ブツブツ」


聞いてねえし。

まあ、ひとりごとを聞いて勝手に解釈させて頂くが、これはあれだ。厨二病ってやつだ。

厨二病ってのは、学生時代に、自分には特別な異能の力がある。自分は来る終末に迎え異世界から召喚された、大英霊だとか、何かとイタい設定を盛り込み、なりきるという……アレです。

まさに東雲がそのイタいアレで、関わったら痛い目を見る人種なのだ。

俺は悪くはないだろうし、想像力豊かだなぁって思うけど、そんな率先して絡みたくはないよね。

ヲタクの中でもヤバい部類って言うし。


「おい、東雲。話聞いてんのか?」


「おっと、これは失敬。オーディンよ、さっきは私を助けてくれてありがとう。私のことを覚えてない事に先程憤りを隠せなかったが、貴様に記憶が無いのなら仕方あるまい。許してくれ。私はヘイムダルだ」


おいおいおい、すげぇ入りきってんだけど?

これマジで有り得るのか?

なわけねえだろ。神話はあくまでも人の心の拠り所を作るための創造物にすぎないんだ。

そんな神話の登場人物が転生して現代社会に舞い降りるなんて、昔のデーン人も驚きだよ!

そんなことあったらヴァルハラサイコー!ってなるやんか!


「まあ、なんか謝罪されたし、感謝も言われたからなんでもいいけど、そのオーディンってあだ名はやめてくれ。恥ずかしくなる」


「そうかそうか!まだ我らは現世に転生して15年余りだもんな。記憶が蘇る速度は人それぞれだ」


「そうじゃなくて!」


「密会する時以外は夏夜と呼ばせて頂く。夏夜も私のことは好きに呼んでくれて構わん」


「はいそーですか、東雲さん」


「むー、なんだか距離を感じるなぁ」


またふくれっ面になる東雲だが、この顔は可愛かった。

こんな可愛くて色々恵まれてるのに、厨二病かよ。

マジで天は二物を与えずってことだな。


「そこのお付きの従者よ、名を名乗れ」


お付きの従者?

あ、冬馬のことか。

お付きの従者って、冬馬そんな事を思われてたのか。

冬馬は真面目な顔つきになり、胸に手を当ててお辞儀をする。


「ヘイムダル様、私はトールでございます。私も最近記憶を取り戻しましたが、ヘイムダル様に会えて感激極まりません。どうか以後、お見知り置きを」


「そうかそうか!貴様がトールだったか!従者と勘違いをして申し訳なかった!我が友トールよ、会えて嬉しいぞ」


おい!冬馬!何乗っかってんだてめぇ!!!!

東雲は凄くご満悦な顔してるし、冬馬は俺を見てニヤリとしてるし、絶対面白がってるだけだよね? こういう悪ノリするときの君は、かなり饒舌になるよね!?

ねえ、誰か教えてくれ。

俺の素晴らしいスクールライフはどうなるの??


「どうした夏夜。早く行くぞ」


「夏夜、頭抱えてどうしたの?」


君のせいで頭を抱えることになってしまったんでしょうが。


「なんでもねえよ。帰ろうぜ」


でもまあ、東雲が厨二病ってこと以外は普通の女の子ってことを知れたのは収穫だ。

新入生代表の挨拶の時はあんなにピシッとしてたのに、今の東雲を見ると、ヒーローごっこを楽しんでる子供みたいじゃないか。

俺、ヲタクでもなんでもないんだけどな。

アニメは好きだけど。

どうしてこうなってしまったんだろうか。

それを考えるのは時間の無駄だからやめておこう。


荷物を取りに教室まで戻ると、さすがに教室の中は静かだった。

だが、ひとりの女の子が顎に手を付きながら、黄昏ていた。

俺と冬馬はその人物が誰なのか、すぐ分かった。


「有紗、どうしたんだ」


「夏夜も冬馬も遅い!何してたの!?」


「悪ぃ、東雲と話ししてたわ」


茶色の髪の毛に赤いリボンで綺麗に纏まったポニーテール。

160センチ程度の身長とは思えないくらいの美脚で、出るところは出ていて引っ込んでるところは引っ込んでいる、グラマラスな体型。

幼なじみの秋山有紗あきやまありさは、俺の腕に自身の腕を絡ませていく。

ほ!ほ!ほぉぉぉお!!!

む、胸!ムネ!mune!!

アタッテルンスヨー!アタッテルンスヨー!!

俺のリトル夏夜が暴走しないように、有紗を引き剥がす。


「いきなりなんだよ!東雲に俺ら呼ばれたからついてっただけだよ」


「それ教室で良くなかった?」


「仕方ないだろ。東雲の事だから人の目もあるし。な? 冬馬」


「なんでも良いんじゃない?」


あんだけノリノリだったのに、今はもうシラケてんのかよ。


「冬馬が言うなら信じるけど」


テキトーな返事を信じるんですか?有紗さん。


「でも、東雲姫奈ちゃんだっけ? 実物見るとお人形さんみたいで可愛いわね。あたし秋山有紗。よろしくね」


「出たな!フレイヤ!貴様!そんな胸を晒してどういうつもりだ!」


おいおいおい、有紗にまでその厨二病設定貫く気か?

有紗はその手の事には疎いから、効かないぞ?

有紗は困惑した表情をしたが、一息ついて、東雲の頭をポンポンと撫でた。


「何言ってるかわからないけど、この子かわいいわね」


「やめろ!デカパイ!」


「なによ!あたしはちっぱいにも魅力はあると思うわ」


「おい、2人とも、俺らがいる前でその話はやめてくれ!」


「なぁ、夏夜、ちっぱいってなんなのだ?」


マジですか? 姫奈さん。


なんだろう。こんな純粋な眼差しで疑問を問いかける東雲に、俺は何故か背徳感を覚えていた。

確かに、有紗に比べれば東雲のは慎ましやかではあるが、慎ましやかであるからこそ、そこに美というものが存在する。

だが、東雲が気にしていることだった場合、それを改めて説明するのは、人としてどうなのだろうか。

こめかみを抑えて悩んでいると、冬馬が口を開いた。


「麻雀の用語じゃないかな。僕も詳しくは知らないけど」


「おー、私それなら分かるぞ!麻雀やった事ないが上がりが揃ってる状態で流局した場合だろ? それをちっぱいというのかー! 」


「それはテンパイな! 冬馬!変なこと言うな!」


「ごめん、個人的に類似してる言葉を選んだんだけどな」


「似てるのはニュアンスだけだ!」


「もしかして、姫奈ちゃん、ちっぱいって意味が分からないの?」


そーですよ!?有紗さん!

ちなみに俺は急な下ネタにテンパってます!


「普通に教えてあげればいいじゃない。姫奈ちゃん、ちっぱいってのはね……」


おい、有紗!やめろ!

お前はデカいからいいかもしれないが、小さいひとからふると、デカい人から言われると、普通に尊厳が踏みにじられる感覚になるんだ!

なんでお前がそんな事言ってるかって?

ラノベで読んだ!以上!


「ちっぱいってのはね、胸が小さい人のことを言うよ」


さらっと言ってしまった有紗。

東雲は握り拳を握りながら俯いてしまった。

有紗がそんなこと言うから、おそらく東雲は傷ついてしまったではないか。

だが、顔を上げた東雲は笑顔だった。

なんでだ?


「そのことは受け入れてるさ。我が家系は代々胸の発育が乏しい家系でな、お母様も叔母様もおばあ様もそのちっぱいですよ」


なんだ気にしてなかったのか。

いや、待て?

気にしてなければ、受け入れるって発言はしないぞ?

もしかして……。


「だが、貴様に言われる筋合いはないぞ!! このデカパイ!アバズレ! そんな無駄なものひけらかして、数多の男を誘惑してるんだろ! フレイヤは昔からけしからん女だったのだ!」


あーあ、やっぱ気にしてましたか……。

でも北欧神話の設定続けるんですね。

そろそろ飽きてくると思ったんですが。

ちっぱいと蔑まされた東雲は涙目になりながら、自身の胸あたりを抑えてる。

東雲も東雲で酷い言葉の使いようだが、これは悪意がなくとも有紗が悪い。

しかし、ここまで言われて有紗も黙っている女ではなかった。


「なによあんた! あんたが言葉の意味を知らなかったから人が親切に教えてあげたのに、アバズレ呼ばわりするなんて聞き捨てならないわ!」


「そんなデカいものぶら下げてまるで説得力にかけるな。どうせ小さい私を見下しながら、心で嗤うように説明でもしてたのだろう!」


「そんなわけないじゃない! 本当に私は言葉の意味を他意も何も無く教えただけよ!そんな事で怒らなくてもいいじゃない」


「ええい、うるさい! デカパイの言葉など信用できんわ!フレイヤ、貴様が昔からそういう人間だと私は知っていたから、これ以上怒る気にもならんわ!」


「なに意味わかんないこと言ってるのよ! 大体フレイヤって誰よ。私の名前は秋山有紗よ!」


「黙れ!これ以上は埒があかん。おい!デカパイ!揉ませろ!」


お前!それが本音じゃねえか!

なんだかんだ色々言っておいて、最終的に、揉ませろとか、別れた後に身体目当てで会いに来る元カレみたいになってるぞ。


「ひ、姫奈ちゃん!? やめっ、ちょっ、そこは……んっ」


東雲は有紗の胸を両手で揉みしだいている。

なに見せられてるんだ? 俺ら。


「おうおう、ここがええんやろ?ほな、ここが敏感ちゅうのは分かっとるさかい。ワシがよーけ可愛がっちょるわい」


ド変態関西オヤジ出てきてるって。

これ以上は見てられないので止めに入ろうとするが、何故か冬馬に止められる。


「なんだよ冬馬。そろそろ止めないとダメだろ」


「夏夜は分かってない。ここは花園」


「花園?何言ってるんだ」


「百合の花園だ!!止めるのは許さない!」


えー。冬馬さんそういう趣味があったんですか?

腕組みしながら、睨むように2人を見ていて、頬は若干紅い。

これは所謂、視かn……おっと、これ以上言うのは止めておこう。


「こういう場合、大人っぽい有紗が子供っぽい東雲さんを責めるってのが定石だが、東雲さんが逆に有紗を責めるのはここれはこれで見物。しかし、ここで求められる……ブツブツ」


熱入りすぎだよ。

冬馬とは長い付き合いだが、こんな趣味があったなんて正直驚きだ。

でもこれ以上、トロトロになった有紗を見たくないし、東雲が完全にオッサン化させるのも良くない。

みんなには悪いが止めさせて貰おう。


「そこまでだ」


「なんやあんちゃん、お前さんも揉みた……あうっ」


俺は東雲の頭にチョップを入れて有紗から引き剥がした。

自身の胸を揉みしだかれた有紗は、息切れしながら、全身の力が抜けたかのように崩れ落ちる。

でもなんか、満足気な顔してない?

冬馬は俺を睨んでるけど気にしないようにしよう。


「大丈夫か? 有紗」


「うん……へ、平気……。大丈夫よ……」


本人が言うなら大丈夫だろうが、我に返った東雲がしゅんとしながら有紗に近寄る。


「まだ足りてへんようやのぉ〜。もういっぺんわしが……あうっ!」


「東雲もいい加減にしろ」


懲りずに有紗に襲いかかろうとした東雲を、俺はもう一度チョップを入れて引き剥がした。

後ろから冬馬のどす黒いオーラが伝わるが、気にしないでおこう。


「夏夜、べ、別に私は欲に駆られてこのような暴挙に走った訳では!」


「いいのよ姫奈ちゃん。私気にしてないから」


「感謝するぞデカパイ。そなたを私の友と認めよう」


「ちょっと!そのあだ名は嫌よ?」


確かに有紗を毎回そのあだ名で呼ぶとなると、色んな目があるから容認はできないな。

東雲は一応これでも首席でこの学園に入学している立場でもある。

立場上、ふざけた言動は慎まなければならない。

まあでも、俺たちといる時は大いにふざけてもらって構わないのだが。


「どうした? 東雲?」


急にモジモジし始めた東雲。

何か虫の居所でも悪くなったのか?


「私はその.....」


「どうしたの? 姫奈ちゃん」


「な、な、なぁ!!」


東雲の近くに寄った有紗。

東雲はびっくりしたように、咄嗟に有紗と距離を取った。


「どうしたんだ? 東雲。顔が真っ赤だぞ」


「気にすることなく言って? 私たち、もう友達でしょ?」


「な、なら言わせて貰うが、わ、私は友達が少ない故、こ、こういう事には慣れていない! だ、だから! どうしたらいいのか分からないのだ.....」


そんなこと信じられるかよ。

初対面の女の子の乳揉むくらいの行動力がある人間だぜ?

そんな人間が寄られてびっくりするほどの奴かよ。

あ、でも、東雲って厨二病だったっけか? それなら納得できるが、厨二病全開の東雲は俺らしか見てない。

つくづく分からない人だよ、東雲姫奈。


「そうなのね。じゃあ、私のことは有紗って呼んで? そうしてくれたら、はしたないあだ名で呼んだことは許してあげる」


なんとも大人っぽい対応だ。

昔から有紗にはお姉ちゃん気質があるから、妹っぽい東雲には良い友達になれるだろう。


「わ、わかった.....。有紗.....」


「うんうん! よろしくね、姫奈ちゃん」


「よろしくなのだ!有紗!」


遠くから見ていたら良い姉妹に見えそうだ。

そんな微笑ましい状況でも、東雲は両手をガシガシしながら有紗の乳を揉もうとしているが、本当に懲りないやつだ。

もし、知り合いでもなんでも無かったら、おっぱい星人とあだ名を付けてたな。

そんなこんなで慌ただしい高校生活初日を終えた俺たちだったが、この先、俺の輝かしいスクールライフに暗雲が立ち込めていた事を、この時は知る由もなかった。


第2章へ続く.....



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