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ギスト・ヴィアネロは偉大なサッカー選手だった。ナルニコ共和国出身で唯一の「キングズリーグ」制覇者で、「ヴィクトリア」も優勝するかもしれないと、国中が口を揃えてナルニコ共和国の10番を応援していた。
この頃、ナルニコ共和国はエルガン帝国と一触即発の危機にあった。西側諸国との膠着にしびれを切らしたエルガン帝国が東に勢力を拡大させようとする動きは、東側の小国であるナルニコ共和国にとって恐怖以外の何物でもなかった。政治のニュースは段々と刺激の強い内容になっていき、大物政治家や有名芸能人の記事なんかも、目に見えない恐怖で支配されていった。
翌年、東側で帝国に対抗していたグリンノロン共和国とナルニコ共和国含む周りの国々の間で同盟が結ばれ、グリンノロン共和国連邦が誕生した。ナルニコ共和国の選手は連邦の選手になり、国際親善試合では連戦連勝。10番を任されたギスト・ヴィアネロは連邦サポーターから「グリンノロンの大砲」と呼ばれるようになり、「ヴィクトリア」優勝への期待はどんどん大きくなっていた。
しかし「ヴィクトリア」の開幕直前、ギスト・ヴィアネロは飛行機事故で死亡した。チームの要を欠いたグリンノロン共和国連邦はまとまりを失い、あっけなくグループステージ敗退。連邦の同盟国は負けた責任を死人に擦り付け、「ギスト・ヴィアネロは裏切者」と見出しを付けた記事も散見された。
ギスト・ヴィアネロには息子が一人、名はジリ・ヴィアネロ。この物語の主人公である。