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あるおばけの異例な誕生 またはワレはいかにして 恐れるのをやめて 新しい自分を受け入れ 愛するようになったか

作者: 銘水

────ワレ思うゆえにワレあり。


 ワレは折り紙である。名前はまだない。

 某百円ショップの、数ある折り紙の一枚でありながら、神の気まぐれか悪魔のいたずらか、意思を持った唯一の折り紙、それがワレだ。


「まま見て~。おばけおれたよ~」


────天上天下唯我独尊。


 わが創造主(小1女子、趣味:工作)が買ってもらったばかりの本『きせつのおりがみ』で異形のものを形取った瞬間、ワレは産声を上げた。


 “ハロウィーンの飾りに☆イタズラおばけ”

 それがワレの今の姿である。


 ひとならざるものを形式かたしろに誕生したワレは、きっとニンゲンをおびやかすためにうまれたのであろう。

 今はまだ満足に体を動かすこともできないが、うまれた意義を果たさんとワレは誓う。


────くくく、ニンゲンどもよ。わが悪意いたずらに恐れおののくがいい!!


「あら、上手に折れたわね~」

「うん! おりがみたのしい! もっとつくる!」


 のんきに会話する母子を内心あざわらいながら、ワレは力を得んと意識を研ぎすます。

 ゆっくりとだが、なにか力が湧いてきているのは、きっと気のせいではあるまい。


 自らに迫る危機も知らずに、ワレをかたわらに置いた創造主は本のページをめくり、

「あ、ねこ! ねこちゃんつくる!」

 とのたまった。


「あらいいわね~。何色のねこちゃんにする?」

「しろ、しろがいい!」

「このおばけで白の折り紙は終わりだから、のんちゃんの好きな青や水色にしたら?」

「えー! たしかに好きだけど、ねこちゃんはしろがいいの。水色や青のねこちゃんだったら、ド○えもんになっちゃうもん」


────いや、そうはならんやろ。


 声なき声でツッコんだ瞬間、創造主──のんちゃんは、ハッとなにかに気付いたかのようにワレを凝視した。なんだか、とても嫌な予感がする……。


「おばけつくりなおしてねこにする!」


 …………は?


「その発想はとてもSDGsね。SDGsよく知らないけどいいと思うわ」

 いや、よくないからな!? それに知らないことはちゃんと調べましょう!

「まずはしっかりかみをのばしてぇ」

 うちなる抗議は届かず、ワレは体を開かれた。


───いやぁ! らめぇぇぇぇえ! らんぼうしないでぇぇぇ!?


 なすすべもなく、うまれたばかりのまっさらな状態にもどされたワレ。なんという屈辱だ……。


「それから三角にして、アイスクリームにして、しっぽのぶぶんをおって、はんぶんにしてぇ」


 さすがはわが創造主、なんという手際のよさだ。

 ワレが、ワレで、なくなっちゃう…………。

 い、いや、たとえ姿カタチが変わったとしても、ワレはワレだ。

 おばけとしてのプライドにかけて、かわいいねこちゃんなんかに屈しはせぬっ!


「そういえば、この本にねこの折り方なんてのってたかしら?」

「ほんとはね、えとのトラのつくりかたなんだけど、ねこちゃんにしたの」

「もう折り方を工夫するなんてさすがだわ、のんちゃん!」


 もとはねこですらないんかいっ!! トラも猫科だけど! でも、ワレの存在意義ぃぃぃぃっ!!

 しあげとばかりにマジックペンでぐりぐりと大きな瞳を描きいれてくるのんちゃん。

 ……おばけの時には顔すら描いてくれなかったのににゃ~。

 ひぃ、カタチに中身が引きずられてきてる~!


「でーきた!」

「上手にできたわね~。でもなんだかさみしいかしら……」

 母親が立ち上がってなにやら棚を探しているが……いや、まてまて。なにをそんなに抱えてきた!?


「のんちゃーん。ママのラメペンとシールでねこちゃんをもっとかわいくデコっちゃおうか」

「わーい。ままありがとー」


 あああああっ!! 子どもの創作に親が手をだすんじゃない!! のんちゃんの自主性の尊重を!!


「あたまのところにリボンのシールはって~」

「体にはママがハートのもようを描きましょうか」

「ママじょうず~! きらきらかわいいね~」


 ちょ、母親ぁ! ハートは百歩ゆずって認めても、ちょうちょの羽を描くのはやめろ! あざとかわいいを狙ってるのか!

 ワレは……ワレ、は……負けにゃ、ない。

 パールピンクや金銀のペンのハートでおおわれた体は、とどめとばかりにキラキラのシールで飾られて、ワレの本質が失なわれていく……。


 母親はそんなワレの、黒マジックで描きなぐられたよどんだ瞳をじっと見つめて、一枚のシートに手を伸ばした。本日二度目の嫌にゃ予感。

 ……その白い丸シールをどうする気、にゃっ!?

 

「このままでもかわいいけど、お目目には光があった方がもっとかわいくなると思うの」


 もう、のんちゃんよりも母親の作品とばかりに手を入れられたワレのまなこに、小さな丸シールがぺたりと貼られ、にごっていたワレの目に光がともる。

 同時に、宿りかけていた力やうまれた時から持っていた悪意が消えていくのを感じた。


 ……ハイライトはまずい。

 それは言うならば画竜点睛がりょうてんせい。不完全だったワレを完成させる行為にゃ。

 ワレは、おばけ? ワレは……ねこ?

 ああ、それでも、ワレはあらがってみせ……。

 

「かんせーい」 

 さんざんにデコって満足したのか、のんちゃんはワレを持ちあげた。

「ねこちゃんにお名前つけようね~。ハローウィンのおばけだったしろねこちゃんだから、ハローウィン……ハローで、こねこちゃん」

 待つのだ。そのひびきとながれは、なんかその、いけにゃい。あとハロウィンの発音がなんかおかしい。


「きめた。このこの名前はケティちゃん。ハローケティ!」

 ぬにゃー! 世界一有名な白猫の存在に、ワレのうまれたばかりの自我がうすめられていく……。

 ああ、この名前はセーフ!? いやアウト!?

 っていうか、名づけられたああああ!!

 いろいろヤバいけど、名づけは絶対ダメにゃあ……。

 ワレの根幹からカワッてしまう……。


 あぁ、ワレ……思う、ゆえに、ワレあ……あ あ あぁ


       

       (┴)(┴)(┴)



 ハロー! ワタシ、ケティちゃん!

 工作大好きな女の子、のんちゃんの作ったこねこちゃんにゃ。

 

 のんちゃんは折り紙がとっても上手にゃ。

 最初に作り方を覚えたねこだけじゃなくて、カエル、卵の黄身、ゴールデンレトリーバー、白いこいぬ、ピンクのうさぎと黒いうさぎなどたくさんの作品を作ってはまだぴかぴかの学習机に飾ってくれるのにゃ。


 ワタシはのんちゃんの特別にゃ。ママとの合作で、のんちゃんの一番のお気に入り。

 のんちゃんのそばにいられて、ワレは幸せですにゃ☆

 


 ケティちゃん(元おばけ)は白い折り紙に生まれたからか、めっちゃ染まりやすいし影響を受けやすい。

 でもおばけでもこねこちゃんドラ○もんでも、なんに変えられてもなんだかんだで適応して折り紙生を謳歌できる子。

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