胸に光る宝石の色
「ベリアス様」
頭頂部から離れた唇は、頬に、まぶたに、そして唇へと落ちてくる。
全身が、熱く燃えるようになるのを感じて、強くまぶたを閉じたルナシェは、ペンダントが急に外されたことに驚き、目を開ける。
「……何をしているのですか?」
「驚くほど、同じ形をしている……。偶然にしてはできすぎているな」
ベリアスは、ナイフを使って器用に台座から瑠璃色の宝石を外し、代わりにくすんだ赤色の宝石をはめる。簡単な作りのペンダントは、色を変えてルナシェの胸元へと戻る。
「――――これ」
「ガストが見つけてくれた。礼は、この地に黒鷹商会の本拠地を、ということだ」
「魔塔に……本拠地ですか」
まるで、元からそこにあったかのように、赤い色合いの宝石はルナシェの胸元で輝いている。
何度も、ルナシェの涙を吸い取った瑠璃色の宝石は、代わりにベリアスの手の中だ。
「少なくとも、ジアスと俺は、生きている」
「…………ベリアス様」
そう、本当であれば、副団長のジアス・ラジアルはもういないはずだ。
それに、結婚式の後、ベリアスが命を落とすはずの戦いは、すでに終結している。
「方法は、あるはずだ」
「っ、そうですね」
ようやく微笑んだルナシェに、ベリアスが笑顔を返す。
「ところで、その宝石はどうするつもりなのですか?」
「そうだな……。瑠璃色の瞳に魔力が宿るというなら、ルナシェの祈りを、この石に込めてくれないか?」
「……そんなの、ただのおまじないに、なってしまいますよ」
「俺にとっては最高のお守りだ」
ベリアスの手のひらで輝く瑠璃色の宝石。
台座を失った今、どこか寂しげに見える。
ルナシェは、大きな手のひらにのっている宝石に、小さな白い手を重ねて目を閉じた。
「そうですね。……願いが叶って、もう一度会えたから。今度は何を願いましょうか」
「ずっと一緒に、それが俺の願いだ」
「奇遇ですね。私の願いも、同じです」
重ねられた手のひらと、自然と寄せ合った唇。
瑠璃色の宝石から現れた光が、二人の手の間からあふれだし、赤い宝石に吸い込まれていく。
けれど、瞳を閉じた二人が、その光景を見ることはなく、目を開けたとき、塔の最上階には、ランプの明かりだけが輝いていた。
「ルナシェ? その瞳……」
「え?」
暗闇のせいなのか、ルナシェの瞳の色が、いつもと違うように見えてベリアスは思わずつぶやいた。
けれど、光の加減だったのだろうか。その言葉を発したときには、すでにルナシェの瞳はいつもの瑠璃色をしていた。
「気のせいか……」
ベリアスは、軽く息を吐くと、もう一度ルナシェを抱き上げる。
「あの、本当に階段くらい降りられます!!」
「……夜が明けてしまうだろう?」
「そんなはず!! 明日、筋肉痛になってしまいますよ?!」
「なるはずがない。この程度で筋肉痛になるようだったら、訓練のたびに死んでしまうだろう」
「……え、騎士の訓練って、そんなに過酷なのですか?」
黙り込んでしまったルナシェを愛しく思いながら、ベリアスはやはり軽快な足取りで、階段を降りていったのだった。




