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98,合流即戦闘18

 人はどんな環境にも慣れてしまう生き物である………………。

 それはすべての人間に言えることである………………。

 ライガー達がこの世界に来て十年近くの月日がたっていた。彼らは<人魔大戦>のゲームではレベル80台のプレイヤーで、これはプレイヤー全体で言うと中堅クラスのレベル帯である。つまりゲーム内ではそこまで注目されることもない、その他大勢とひとくくりにされてしまうような存在であった。

 もちろん彼らには家庭や仕事があり、トッププレイヤーの先をいく者たちはそれぞれ多かれ少なかれ私生活を犠牲にしてその地位を維持していたこともあり、ある意味では仕方ないことでもあった。

 異常なのは私生活を犠牲にして廃人プレイしている者達であり、自分たちはあくまで私生活とのバランスを維持しながら進めていく一般的なプレイヤーなのだと…。

 そんな言葉で自分たちを納得させていたが、やはりトッププレイヤーたちが新しい発見や、ボス攻略などをしたという情報を聞くたびに歯がゆい思いをいだいていた。

 ゲーム自体は時間を忘れてプレイしてしまうほどに楽しい。だがこういったMMORPGではやはり周囲からも注目されて一目置かれるような存在になりたいという欲求も出てくるものである。彼ら自身も限られた時間の中でどうにかトップに追いつこうといろいろなことに挑戦してきた。しかし普通にやっていてはどんなに頑張っても先に行く者達には追いつけず、次第に普通ではないほかのプレイヤーの足を引っ張ってその隙をついて報酬をかすめ取るような、明確に禁止されているわけではないがマナー違反とされるようないわゆるグレーゾーンの領域の行動を繰り返し、攻略を進めていくようになった。

 この行為により他のプレイヤーからは嫌われるようになったが、効果は目覚ましいものがあり、もう少しでトップの背中が見えるというところまでの地位まで上り詰めた。

 しかしこういった行為はすぐに情報共有されて対策をされていき、次第に誰も引っかからなくなり、自分たちの話はだれも信用しなくなり一時期はあと少しのところまで行っていたトッププレイヤーとの距離もどんどん離されて結局差は元と同じかそれ以上に開いてしまった。

 もともと今組んでいるパーティーメンバー以外とはパーティーを組む気はなかったので、ほかのプレイヤーから信用されずにパーティを組んでもらえなくてもそれほど不便も感じなかった。

 彼らが一番悔しかったのは、人から恨まれるようなことなどでもできることは何でもやってトッププレイヤーに追いつこうとやったのに、結局自分たちの評判を落としただけで、差はむしろ若干開いてしまった感じになってしまったのである。

 こうなってしまってはゲームに対するモチベーションも下がり、いつしか鬱屈した感情を抱えたまま惰性でやり続けているような状況が日常になっていた。

 こういった状況にずっと甘んじてきた彼らにとって、この世界はまさに理想郷といえた。

 周りの冒険者のレベルはほとんど20から30代で50にも成れれば超一流か伝説クラスの冒険者といわれている世界である。さらに自分たちを知っているものはほとんどいない。

 厄介なのは魔獣の強さは<人魔大戦>の時の強さと遜色ないことだが、自分たちが普通に戦ってヤバいのはそもそもこの世界のほかの冒険者にとっては鼻から相手にならないレベルだからそもそも無理して戦う必要もない。

 自分たちが苦労せず倒せる魔獣だけをゆるりと駆るだけで周りが称賛してくれるのだ。これ以上楽なことはない。もともとの性格もあってそこまで大それたことはできないが、好き勝手やっても許される。そんな夢みたいな環境だったのだ。

 表向きは自分たちとおんなじ者たちと一緒に元の世界に帰ることを目標にしていたが、このまま帰れなくてもいいとも考えていて、そこまで元の世界に関する情報集めもそこまで本腰入れてやってはいなかった。

 そんな環境で十年近くも過ごしてきたからだろうか………………。

 いつしか彼らの頭から危機感というものが抜け落ちていた。

 もしも<人魔大戦>時代に同じ状況になったなら彼らは、決して積極的に前に出ず、なりふり構わずほかの冒険者に助けを求めて人数を集めて集団戦で戦おうとしていただろう。

 この世界での楽園のような十年はシグマP9というPKの脅威の記憶すらも記憶のかなたに消し去ってしまっていた。不意をつけたからといって直撃させられるわけでもないし、仮に当てられたとしてもそんなことで仕留められるなら今までに仕留められなかったわけがない。

 彼らはそんな自分たちの致命的な油断に気付くこともなく逝ってしまったのだ。

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