95,合流即戦闘15
<………が発動しました。>
俺の頭の中に<人魔大戦>時代から聞いてきた懐かしいアナウンスが響く。
<人魔大戦>時代はことあるごとに聞いていたアナウンスだが、この世界に来てからは全く聞くことがなかったのでいやに新鮮に聞こえる。
(やっと発動したか、しかし今の状況ですぐに行動するわけにはいかないな。あいつらはこのスキルのことは気づいていないはずであるが、タイミング次第では形勢逆転とはいかなくなってしまう。)
3人がかりの連携に翻弄されながらも冷静にチャンスを探すことに徹する。失敗してしまえば一気にやられてしまうだろう。
今の俺の職はアサシンで上級職であるが、彼ら二人は最上職で間違いないだろう。そして聖霊使いのクロイサスも似たようなものだと推測できる。
この世界では最上職はトップの一握りだけがなれる職業という認識だが、<人魔大戦>のプレイヤーの4割くらいは最上職になっていた。なのである程度やり込んでいるプレイヤーにとっては最上職になっていることは当たり前のことなのである。
そしてこれまた当たり前のことではあるが、上級職と最上職ではステ倍率にかなりの差がある。なので上級職が一人で最上職の3人を相手にした時点でほとんど詰みの状況なのである。
そしてそのことはライガーとデルタの二人も理解しているのだろう。少しづつ防御や回避の意識が薄れて攻撃一辺倒になってきている。
そうこうしているとクロイサスが放った矢をまともに受けて俺は大きく吹き飛ばされる。
ここがチャンスと思ったのだろう。デルタとライガーが距離をつめてくる。
「ライガーッ!!ここで決めるぞっ!!」
「おうっ!はでにぶちかましてやるぜぇーー!」
<人魔大戦>のゲームの時はともかく、今の現実になっている状況で今から決め技を放ちますよと伝えるような行動は勝機を疑うほどの稚拙な行動といえた。
しかしもう勝利が目前にある状況で、しかも相手は<人魔大戦>時代に散々挑んではやられてきた憎んでも憎み切れないほどの因縁があった。そのため稚拙で悪手であるとわかっていても、少しでも今までのうっ憤を晴らすために、絶望を味あわせてやりたかったのだ。
「この瞬間を待ちわびたぜ………。」
デルタは魔法陣を周囲に展開しながら語りかけてくる。こいつはおそらく魔法を拳にまとって戦う魔法剣の拳バージョンの職魔拳士の最上職魔拳帝だろう。おそらく突進系のスキルで一気に決める気だろう。
「真っ二つにしてやる。」
ライガーのほうは斧を大上段に構えて力を開放している。こちらも攻撃が被らないように注意しながらも同時に距離をつめて仕掛ける気なのだろう。
…………ああ………。
「さあ覚悟はできたか?」
デルタが語り掛けてくるが、会話をしようという様子はみじんも感じられない。少しでも絶望させたいのだろう。
…………よかった…………。
クロイサスのほうはイレギュラーに備えて弓を構えてこちらを警戒している。そんな状況をちらりと確認したライガーのほうも準備ができたとばかりに顔を喜びにゆがめながらつぶやく。
「死ね。」
そんな独り言ともいえるような小さなつぶやきだったが、そんな言葉とともに二人がとんでもないスピードで突っ込んでくる。
先に肉薄してきたのは、一番前に出てきていたデルタだった。拳で戦うという巣たるのために最も前に出て戦うことが多いこともあって間合いをつめる速度は群を抜いている。
「氷牙猛撃!!」
そしてそのままの勢いで氷の冷気をまとわせた拳を振りぬいてそのまま棒立ち状態の憎い怨敵のシグマの体を貫いた…………はずだった。
しかし直前までとらえていたはずのシグマの姿が一瞬で消えていた。
見失ったシグマの姿を探そうと顔を振ろうとした瞬間視界の上のほうに何かが見えた。つられて上を見上げると飛んでいたのは自分の振りぬいたはずの腕であった。
「なっ」
びっくりして声を上げたが、その瞬間横腹に衝撃が走り声が止まる。横からものすごい勢いで蹴られたのだ。その勢いでデルタは横に吹き飛ばされる。そしてその飛ばされた先にはにはデルタと同じように突っ込んできていたライガーの姿があった。
「がっ!」
突然突っ込んできたデルタに反応できずに、勢いよくデルタとぶつかってしまう。お互いが激しくぶつかって両者は体勢を崩して転んでしまう。
いち早く体を起こしたライガーの目の前に、シグマが猛スピードで迫ってきていた。
「紫電一閃」
その言葉とともに繰り出された刃に、ライガーはとっさのこともあって碌な反応もできず、迫りくる刃を見ていることしかできなかった。
そしてリンゴでも落とすかのようにあっさりと、何もできずにライガーは首を落とされていた。
「じゃあな...。」
そのあまり感情を感じさせない物言いは、ライガーの耳にいやにはっきりと不気味に聞こえて自分の終わりを痛感させた。
………………こんな奴らなら、俺もこいつらを同じ転移に巻き込まれたものとしてではなく、ただの敵として処理できる………………。
シグマは自分にそう言い聞かせていた。




