92,合流即戦闘12
矢を躱しながらもう一人のほうの転移者の男の動きを確認すると、なぜか離れた位置に移動していた。いやな予感がしてクロイサスのほうを見ると上空のほうに弓を向けていた。
そしてその弓から一本の黒い筋が放物線を描きながらこちらに向かってくる。しかもその黒い筋は1本から2本、4本、8本、16本、32本………………とどんどん増えていって、最終的には数えきれないほどの矢の雨になってこちらに迫ってきた。おそらくだが俺の今の位置を中心に広範囲に展開していて普通に走っていくだけで効果範囲から抜けられるような甘いものではないだろう。
彼の弓矢は【黒き隼】という聖霊の権能で具現化しているので、彼の魔力が尽きない限り矢が尽きることはない。しかし聖霊を宿す彼の魔力は、この世界の人間はもちろん<人魔大戦>の一般プレイヤーの魔力をもはるかに凌駕する魔力を誇っている。
その有り余る魔力を武器にこの広範囲の矢の雨を降らしてるのだ。しかもその一本一本にかなりの魔力が込められている。これはこちらに特大のダメージを与えて勝負を決めようという決意の表れだろう。しかしこの攻撃をしのげれば彼の魔力もさすがに底をつくか、少なくとも大技は打てなくなるだろう。
ここで俺は重大なミスをしてしまう。
人は日々がどんなに過酷でも、緩やかな日常であったとしても、長くいればその環境にどんどん慣れていってしまってその前の環境に戻ったとしても、その環境にすぐなじめるわけではないのだ。
俺は驚くの広範囲の矢の雨に少しビビってたのもあるが、早めに効果範囲に逃れようとそのまま縮地のスキルの連続使用で効果範囲から逃れようとして縮地を発動してしまったのだ。
縮地のスキルを発動した次の瞬間には、目の前に地面が迫ってきていた。とっさに両腕を顔の前でクロスさせて顔面から地面に激突するのを防ぐ。腕に鈍い衝撃が伝わりクロスさせた両腕から地面に突っ込む。しかしそれだけでは勢いを殺しきれずにそのまま地面を転がっていく。
そのまま5メートルほど転がったところで止まったので、体を起こして後ろを見ると俺が地面に激突した手前の地面が岩で隆起していた。妨害されたのだ。
前に説明したように縮地の高速移動は便利なスキルではあるがもちろん欠点もある。それは自分でも認識できないほどの高速で移動しているために、こういった妨害をそのまま食らってしまうのだ。だが不幸中の幸いかおそらく地面の隆起し始めの時に通ったらしく転んで足にダメージを受けるだけで済んだようだ。もし完全に隆起した後にぶつかったのなら、俺は弾き飛ばされて大ダメージを受けていただろう……というかそれが彼らの狙いだったのだろう。
結果的に狙った効果は出せなかったようだが、これは彼らが悪いわけではなく縮地の特性によるもののせいである。
どういうことかというと、縮地はスキルの特性上ほとんど一瞬で短距離を移動するスキルなので妨害には弱いが妨害するほうもタイミングが難しいのだ。早すぎれば相手に感づかれるし、遅ければ相手が通り過ぎた後に妨害が発生してしまうことになる。つまりどちらにとってもタイミングが重要になってくるスキルなのだ。
なので<人魔大戦>のおれは発動前にいくつかフェイントなどを入れてタイミングを取りづらくしていたが、しばらくそういった妨害などとは無縁の生活を送っていたためにすっかり忘れてしまっていたのだ。
すぐに起き上がろうとするが右足に激痛が走る。折れてはいないと思うが結構ひどい状態になっているみたいだ。
しかしそんな状況でもお構いなしに、辺り一面に放たれた矢がこちらに迫ってきていた。




