90,合流即戦闘10
クロイサス=ガルフォード。
見た目は30くらいであろうか、身長は170後半くらいのやせ型の体形であるが、並々ならぬ雰囲気を醸し出している。それに加えて目は見開いているが、その目には水晶体や瞳孔などの視覚を得るためのものがなく、白目だけなので少し気味が悪い。
これはこの聖霊紋の聖霊の力を得るための代償ではあるが、代わりに聖霊から視覚情報が得られるのでこの代償によるデメリットはほとんどないといえる。
商業都市国家サラミスの南のガルフォード地方を収めている領主のはずである。この地はゲームでは語られないが、海の向こうの国と交易をして利益出している都市であり、領主はもちろん部下も優秀な人物をそろえており、普段から海賊狩りなどをして海の治安を保っているので、この地方の軍隊は海戦では無類の強さを誇っている。俺がこの人物について知っていることはこんなところだ。
この世界では、職に就いている人間はいるが、この世界に来ているプレイヤーにはレベルや練度において差がありすぎてほとんど脅威にはならない。それはこの世界で自我を持って活動しているNPCも一部を除いて同様である。
そしてその一部というのが彼らのような聖霊を宿した聖霊紋を持つ聖霊使いである。この聖霊というのは、この世界で自然発生して発展してきたとされる精霊とは違い、聖霊は古き神が力を失ったものや、別の世界から流れてきた神などあるが共通していることは神様が力を失ったものであるということだ。この中には邪神なども含まれるが、力のほとんどを失っているので波長の合う人間に力を与えて共生している状態である。
そして力をほとんど失っているといっても神様なのでその力は強力で、大体の職よりもはるかに強く、そのスキルも便利なものが多い。そのためNPCでありながら普通のプレイヤーよりも断然強い。
………と、このようにこのキャラについて語ってきたが、この種類のNPCは特殊NPC(特N)と呼ばれていて、この辺りのキャラは運営の用意したお助け用のキャラである。
<人魔大戦>では、普通のストーリー以外にもいろいろなバラエティーに富んだイベントクエストが組まれていたが、ものによっては人の集まりが悪かったりしてムリゲーになってしまうものも時々出てきてしまうが、こういうときにその状況を打開できるようにするために作られた便利なお助けキャラ的なNPCだ。そのためかなりの強さを誇っている。
そしてここで一番厄介なのはクロイサスの強さが分からないということだ。お助けキャラとして出てくるときは、その時の敵のレベルに合わせて変化しているので強さが固定されていないのだ。そのためどのくらい強いのか今の状況でははっきりしない。
弱い想定よりも自分よりも強いと仮定して立ち回ったほうが、こういう場合はいい気がしたので距離を取ったが、少し失敗したかなとも思う。クロイサスはといいうかこういったお助け的なキャラは万能型が主なので、どの距離で戦っても厄介だが弓使いなので近距離よりも中距離から遠距離のほうが得意だろう。そのため思わず距離を取ってしまった今の状況はよろしくない気がする。
「これでテメエも終わりだなぁ!!せいぜいあがいてくれよなぁっ!!ギャハハハ」
転移者(名前は知らん)の勝ち誇ったような顔で言ってくる。こいつさっきまで必死で説得しようとしてきたのに、すごい掌返しだなイラっと来るよ。そう思うと俺の心の奥で何かのスイッチが入る。
(やるしかないなら全力でやるだけだ。)
静かに覚悟を決め、剣を構える。
さあ始めようか。




