87,合流即戦闘7
狙ってはいたが、正直成功するとは思っていなかった。彼女にとって俺は本来こんな感じに話す間柄ではないはずだし、俺の提示した提案もそんなにいいものとは俺には思えなかったからだ。
なのでさらに聞いてみた。
「行っといてなんだが、いいのか?あっちには転移者仲間がいるんだろ?この状況からするとそいつらと敵対する可能性が高いぞ?」
対して彼女の返答はあっさりしたものだった。
「あ~いいのよ。あいつら金払いも悪いし、こちらには帰れるということ以外、重要な変える方法なんかは何一つこちらには教えてくれないし、そんな奴ら信用するほうがおかしいわよ。
私はとりあえず甘いものがもらえればこの世界もまだ我慢できるし、そちらにつくわ。」
「だが、そうなるとあいつら転移者と戦う可能性があるぞ。いいのか?」
「それはあちらについていても同じよ。この世界では人を殺さずに生きていくのは難しいし、この十年でいろいろあったし、まあ覚悟はしているわ。あなたもそうでしょ?」
「まぁな…。」
この世界では元の世界と違って、町から一歩離れればそこはもう無法地帯といっても差し支えないほど荒廃している。なのでこの世界で生活していれば争いとは無関係ではいられないし、俺たちのような身元のはっきりしない転移者が働けると言ったらまず冒険者しかない。
客商売などはその土地の風土を知らないとどうしようもないのでまず無理だし、ほかのところは大体が身元の確認が重要視される。そうなってくると選択肢に上がってくるのは、冒険者か非合法な組織かということになる。大体の人間ならば危険もあるが、知識もある冒険者としてやっていくだろう。
そうして冒険者となると、人との争いは避けては通れなくなる。依頼中に盗賊などに襲われることは日常茶飯事だし、ギルドの大規模依頼に盗賊団のせん滅依頼などもあるのでどうやっても対人戦は起きるのだ。
だから俺が、冒険者を続ける過程で人を殺す覚悟を決めたように、この世界に来た他の転移者も各々覚悟を決めたのだろう。
「じゃあそういうことなんで、私は向こうにつきまーす。」
彼女は振り返ると、周りにいた聖騎士たちに高らかに宣言した。
するとその聖騎士たちの奥から怒号が響いた。
「ケイコオオオォォォ-。テメエ!俺たちを裏切るつもりか?どうなるかわかってんだろうなぁ!?」
かなりの声量で迫力ある脅し文句だが、彼の両頬にはうっすらと紅葉が張り付いている。おそらくさっきの俺の攻撃で気絶して、着付けのためのビンタで目を覚ましたのだろう。
っていうか、さっきの攻撃無防備で食らってたの?ビンタで目を覚ますっていうのはかなりかっこ悪くね?
なんとなく思い出したけど、こいつほとんど記憶に残らないほど弱かったような気がするけど、この場を率いるのは力不足のような気がするんだけど。ケイコのほうが印象が強かったから警戒していたけどこいつが率いている程度なら正直問題にならない気がする。
いちおう気になることがあったのでケイコに聞いてみる。
「彼氏?」
「まさか!」
………違うらしい。まあそれなら遠慮なくやれる。
小声で言った気がするが、聞こえていたらしい。さらに顔がヒートアップした感じで、真っ赤になっている。
「てめえら覚悟はできてんだろうな!!てめえらの皮をはいでミンチにしてやるからなぁっ!!」
かなりどすの利いた声でヤバいことを口走っているが、両頬に残ったうっすら紅葉のせいでいまいち緊張感がない。しかしここで押されると被害が拡大してしまうのでいちおう言い返すことにした。
「お前こそわかってんのか?この世界ではリスポーン機能なんてないぞ。俺を相手にこの数で足りると本気で思ってんのか?」
そこまで脅した感じではなく、いつも通りの声で言ったけど効果はてきめんだったみたいで、相手は少したじろいだ。
「………っおい!全員で囲んでかかるぞっ!」
「はっ!」
その声とともに、聖騎士たちは散開して囲まれることになった。だがこの感じからしてそんなに脅威とは思えない。勝つためではなく何らかの時間稼ぎだろうか?
「これでテメエは終わりだなぁ!!」
本気で勝てると思っているらしい。ただの馬鹿だったか………。




