79.ボッチPKアジトを離れる34
いろんな武器防具を広げて、一つ一つを確認しながら独り言が口から洩れる。
「これとこれを与えると水の能力が下がるか…。でも付与できるであろう能力は捨てがたいし…。……これもいい具合にいけば地の能力が底上げできるだろうし……。」
こうまで悩んでしまうのには理由がある。与えた武器や防具によって使える魔法や能力、ステータスも変わってくるし、下手したら打ち消しあって弱くなる可能性もあるかもしれない。
この使い魔は初心者専用といった扱いで、レベルも30で頭打ちになってしまうこともあって、あまり注目もされていなくて、与える武具による成長具合は明らかになっていない。
調べた限りだと、与えたものはたとえ正反対の属性や能力であっても打ち消しあって下がることはないということらしかったけど、特定の組み合わせは能力などが下がるといった情報もあり、いまいちはっきりしない。
俺の意見としては、いろんな武具を狙って与えてもすぐに頭打ちになって、使われなくなってしまう、いわばテイマーのお試し版といったものだったので、そこまで打ち消しによる能力ダウンなどの複雑なものは仕込んでこないだろうと思っている。
しかし万が一、実際に能力が下がってしまったり、使える魔法が減ってしまったりしても嫌なので、こうして頭を悩ませているのだ。できれば水と地の魔法は使えてほしい。
この世界というか<人魔大戦>では魔法やスキルの技の種類は他のこういったゲームと比べて、そこまで多くない。その代わりすべての魔法やスキルの技には熟練度があり、それが上がっていくと威力や範囲、特殊能力の追加などのカスタマイズができ、同じものでも全然趣の違ったものになる。魔法やスキルに関しても魔法言語の組み合わせやスキルなら行動設定の組み合わせでオリジナルのものを作れたりするが、これはゲームを深く理解して
いる上級者にしかできないことである。
俺がメインで使っている雷の魔法は、威力を犠牲にして相手の行動を阻害する能力と、詠唱時間の短縮をカスタマイズしているので、ほぼノータイムで相手の魔法の発動や不意打ちをつぶしてしまうことができる。しかし威力を犠牲にしているので、相手の術が完成した場合はこの術で相殺するということはできないので俺の雷の魔法は相手の詠唱の阻害しかできないということである。今までそれで何とかなっていたのであまり気にしていなかったが、これからのことを考えるとそれだけだと不十分な気がしている。
なので手ごろな魔法をこのクジラに覚えてもらおうと考えているのだ。俺自身物理攻撃特化みたいな性能だから使い魔には守り系統の魔法を中心に覚えてもらってバランスを取りたいと考えている。
そうなってくると必要になってくるのは防御よりの魔法が多い土が水の魔法がいいかという結論に至ったというわけだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、広げていた武具に目を向けた時だった。
……ない。……なくなっている!!
目の前に並べておいたはずの武具が全部丸ごとなくなっているのだ!
風で飛ばされるような軽いものでもないし、アイテムボックスに戻した覚えもない。それにこの辺りには自分たち以外には何も気配がなかったので、ほかにもっていく奴なんて………………
………ん?
ふと、目の前の使い魔を見ると口が動いている。それはもうモッシャモッシャと微妙な音が小さく響いている。
お……、お前かーーー!
なんで勝手に食ってんの?ていうかそんなモッシャモッシャって食えるもんなの武具って?
いろいろ突っ込みたいが、一度口に入ってしまったものはもうどうしようもない。取り戻したり、キャンセルはできない仕様だったはずなので諦めるほかない。
俺には装備できないし、これからも使えるようになることはないであろう武具だったけど、こういうことに使ってしまうのにはもったいないと思ってしまう。貧乏性と言われればそれまでだが、ここまでのレアリティの武具にするにはそれなりに時間と苦労が必要になってくる。そういうものを蔑ろにしてしまっているような申し訳ない気持ちになってくるのだ。
まあ能天気にこちらを見てくる使い魔には悪気はないし、どっちかというと俺の不手際が問題だろうから、気持ちを切り替えて改めて使い魔のステータスを確認してみる。
……なんと、レベルが98まで上がっていた……。




