76.ボッチPKアジトを離れる31
「大丈夫だよ。ちょっとボーっとしてただけだから…。」
そういって慣れない笑顔を作るが付き添いの二人の女の子はどこか納得していないようだ。
そして片方の女の子がおずおずと口を開いた。
「…でも,先ほどの戦いでかなりの傷を負っていましたよね?あれほど強力な魔獣や、悪魔と戦ったのですから無理もないことなんですけど………。」
防具の性能に助けられていたとはいえ、今回の敵の強さは自分が戦ってきた中でもトップクラスに入るヤバさだった。特に奥の手ともいえる攻撃はこちらが先制でつぶしていなかったらその時点で終わっていただろう。それ以外でもそこそこのダメージ残っているがそこはそんなに問題ではないので
「そのあたりも大丈夫だよ。俺はサブスキルのリジェネレートがあるから、時間さえあれば傷はふさがっていくから。」
「えっ、そんな発言率の低い幻のようなスキルも収めているんですか。...さすがです。」
今回の戦闘で彼女たちは俺を全面的に信用してくれるようになった気がする。態度がかなり軟化している。
このリジェネレートのサブスキルは<人魔大戦>のゲーム内でも、いまだに条件がはっきりしていないレアなサブスキルだ。このスキルは持っていれば時間で体力を回復してくれて、レベルが上がればさらに効果が上がっていくので、どの職業でもできれば持っておきたいスキルである。
そのためゲーム内でも様々な検証が行われて入手方法の解明が進められていた。体力が少ない状態を維持することが条件の一つであるらしいということしかわかっていない。
かくいう俺自身も、ギリギリの状況で戦い続けて、何とか切り抜けられたと思ったら入手していたという状況なので、体力が低い状況以外の条件は詳しくわからない状態である。
このスキルも体力が減っていればすぐに回復していってくれるが、その間はお腹の減りが早くなるというデメリットも一応ある。それ以外にも出血がひどい場合は、その傷をふさぐのに能力が使われ、それまでは体力の回復がかなり遅くなるし、内臓器官など複雑な器官にダメージを受けるとさらに遅くなってしまう。そのほかにも失われた血液の復元などはできないので、重宝する能力ではあるが万能というわけではない。このゲーム自身どんな能力も一長一短があるというコンセプトで作られているが、この世界ではさらにデメリットが追加されているイメージだ。
まあともあれ今回のケガは一晩寝れば問題なく回復するので問題はないだろう。
そのあとは野営の準備を済ませて、ここで夕食にすることにした。夕食はアジトを拠点とするために作りためておいた料理をアイテムボックスから取り出して済ませることにした。ゲーム世界でもずっとサバイバル生活が続いていたので、俺の料理スキルは無駄に高い。そのため俺の料理は二人の女の子にはおおむね好評だった。
食事のあと今回の襲撃での活躍で信用してくれたのか、彼女たちのこうなるまでの経緯を話してもらった。
その話によると彼女たちの名前はユグとフウラという名前で赤い髪の目がぱっちりしているほうがユグで、青い髪で目は細めで切れ長の目といった感じだ。身長は二人とも同じくらいで130を少し超えるくらいだろうか、髪色以外の見た目は、普通の中学生のような年相応のあどけなさの残る顔立ちである。
彼女たちはアルバンス帝国の南西にあるノトという海沿いの小さな村の住人だったらしい。日々漁業で魚を取りそれを加工して売ったり、いろいろ物々交換などをして暮らしていた。
しかし今から五年くらい前のある日ライアン教の第六師団という集団があらわれ、村人が全員捕らわれた。罪状は特に言われることはなく、抗議の声を上げたものは例外なく殺された。そして全員大きな建物の施設に入れられて、いろいろな実験らしきものをされたらしい。その時の実験で罪科職であるキラーの職になってしまったのである。そして三年前ぐらいに死司天団がこの施設を襲撃した時に助け出されて、それからその一員として戦い続けているらしい。
ちなみに連れていかれた時には百人以上いた村人は助け出されたときには十人もいなかったらしい。なんとも胸糞悪くなる話である。
だがこんなことに俺みたいな転移者が関わっているのだろうか?
今の状況を考えるとほぼ確実にかかわっているといえるのだがこんなことが普通に日本で生活してきた人間にできるのかというと、はなはだ疑問ではある。
だが理由がどうであれこれが転移者の仕業であるなら、同じ転移者として見過ごすことはできない。
ひそかに決意を固める。
同じ転移者を手にかけるという覚悟とともに………




