74.ボッチPKアジトを離れる29
…長い…。
……めちゃくちゃ長い……。
今から1000年前の人魔大戦のはるか前の悪魔の成り立ちから説明しているので、かなり端折ったとしてもかなりの長さになるのは分かるが、ここまで情報が多いと自分でも覚えきれるかすでに不安なんだが……。
しかもまだ続きそうな雰囲気で、激しい戦闘の後にこんな小難しい話をされてもという思いはあるが、この辺りの話ももしかしたら元の世界に戻るための手掛かりになるかもしれない。というかこの一年いろいろ手探りだったのもあるが、手掛かりが全くつかめなかったのでとにかく情報を集めておきたいのだ。
だが少し気になったことがあったので、少し話を遮ることになるが聞いてみた。
「…なあ、少しいいか?ディオニスは深い傷を負って弱っていたといえど、絶大な力を持っていた神様だよな?強力だったといえど眷属の精霊の亜種の悪魔にそんな簡単に乗っ取られるものなのか?」
「そのあたりは実際にできたからされているんだろうとしか言えないが、これは悪魔の特異性にあるのだろうと思う。
悪魔は原種とされているヘリアンロートとアングリフ以外は純粋に業から作られた存在だ。業が多ければ多いほど使える力も強力になり、能力もどんどん万能になっていくが、逆に業がなくなればその存在も消えてしまうほどアンバランスな存在だ。このアンバランスさゆえに業があれば神さえも下せるほどの力を出せるのだと思う。その上ディオニス様のほうも深い傷を負ったのは、業による攻撃だ。そのため弱っている上に、彼の身体も長い年月が経っても体内に業がたくさん残っていて、それも利用されたんだろうと思う。
残念ながらどうやって憑りつかれたのかはわからないぞ。そのあたりは記憶にないのだ。まあ俺たちの主であるディオニス様を意のままに操れたなら、そのまま俺たちを操るのも問題なかっただろうからな。そして監視と保険のために悪魔をつけられた。おそらくそんな感じなんだと思う。
そのあたりの詳しいことは俺もわからん。なにしろ眠りについていたらいきなり悪魔に憑りつかれて操られていた状態だったからな。何とか主導権を取り戻そうとするのに必死で周りの情勢に気を配っている余裕もなかったからな。
それとまだディオニス様は完全に乗っ取られてはいない。あの方もこういう事態になったときのことも想定して、防御策を講じている。だから悪魔が支配できているのは、今は表面上だけでしかない。だから精神体を動かして行動して、眷属であるディオニスの信徒もつかってどうにかして大量の業を集めて力を増してディオニス様のすべてを乗っ取るつもりだろう。
俺たちもディオニス様のおかげで悪魔に憑りつかれてなければ問題なく離れて行動できるようにはなっている。
しかし、ディオニス様が弱っている上に悪魔に支配されまいと戦っている状況では、あの方の眷属である俺たちは碌な力を出せないし、場合によっては足を引っ張ってしまうことになりかねないんだ。だからあの方を離れてほかに契約を移すことで、あの方の負担を減らしてあの方を助けるために行動したいのだ。
長くなってしまったが、これが俺たちが精霊契約を望む理由だ。そして俺たちと契約を結ぶメリットもあるぞ。俺たちの持っているスキルや魔法を使えるようになるし、魔力を消費するが、俺たちを使役して戦わせることもできるようになる。」
俺は若干長い話に情報が追いついていないながらも、この提案は十分に乗っかるに値すると思っていた。
もちろんリスクもある。悪魔が俺の知らない潜伏方法でさらに彼らに潜んでいた場合はかなり厄介なことになってしまう。へたをすればそのまま俺も憑りつかれてそのまま終わりかねない。
悪魔の原種であるヘリアンロートの遺産を受け継いでいる俺が乗っ取られることはないだろうが物事に絶対はない。だが話を聞く限りその可能性はとても低そうな感じがする。
それにこの提案は俺にとってはこのリスクをはるかに上回るリターンをもたらすものだ。俺の能力は前衛よりのスキルビルドで、魔法はそこまで強力なものがない。影魔法は攻撃に使えるものがなく全部補助的なもので、雷魔法も速度重視のものが多く、この世界の人間のレベルだったら問題ないが、この二人や、先ほど戦った悪魔には現状ヘリアンロートの遺産の魔法以外には足止めも難しい火力しかない。なので攻撃の幅を増やせるこの提案は、これからのことを考えると、まさに渡りに船の提案といえるものだった。




