71.ボッチPKアジトを離れる26
「…落ち着いたか?」
「………たぶん………。」
予想外の出来事に自分が思っていた以上に取り乱してしまっていたみたいだ。自分でも何を言っているのかわからないほど取り乱してしまっていた。しかしその取り乱した言動に、心臓に剣が刺さったままなのに冷静に対応していたこいつはただものではないと思う。
………まだ微妙に取り乱しているように思える。俺は大きく息を吸い込み深呼吸する。それを何回か繰り返して気持ちを落ち着けていく。今までもテンパったりしたときはこの方法で気持ちを落ち着けてきたので今回も行けるはず…。
俺の思惑通りに波立った心は驚くほどの速さで平静になっていった。そして串刺しにしたカペラとハダルに向き直り、もう大丈夫だと伝える。
「………いいか?もう一度最初から話をしていくぞ?
まず人としての俺たちはもうとっくの昔に死んでいる。今の俺たちは使っていた武器を依り代にしてディオニス様によみがえらせてもらった存在だ。」
「………?ということはその武器を壊せればお前たちは消滅するってことか?でもなんでそ
んなことを俺に…?それにディオニスが何でお前らを助けたんだ?敵同士じゃなかったか?」
「武器を壊したら消滅するのはそのとおりだが、仮にも神の加護がついている武器だぞ?生半可な攻撃では傷ひとつつかないし、ましてや破壊なんて無理だと思うぞ。そしてお前に頼みたいことがあるんだ。後別に敵対はしていなかったと思うぞ?」
「そうか。それで頼みたいことってなんだ?」
「俺たちに憑いていた悪魔が消えた今がチャンスなんだ。俺たちと精霊契約をしてくれ。」
「……? えっと、精霊契約って精霊術師しかできないんじゃないのか?それに仮にできたとしてもそれはディオニスの意向に逆らうということになるんじゃないのか?そしたら消滅させられるたりすることにならないか?」
「いや、お前はヘリアンロートの遺産を受け継いでいるんだろ?それならこの辺りの事情っていくらか聞いていてもおかしくないはずなんだけど………。説明いるか?」
「………悪いが、頼む。」
俺もはじめのうちはまめにストーリークエストをクリアしてストーリーをこまめに追っていたけれど、PK職になって、いろいろなプレイヤーに狙われるようになって、次第にほとんどの町に入れなくなっていくうちに次第にストーリーを追うことをあきらめるようになっていた。そのため裏のクエスト的な位置づけのPK職の専用イベントを進めていたが、その中でストーリーにかかわる話もいくつか聞いていた気がするが、もうそのころにはストーリーのことから離れていたので、さっぱりちんぷんかんぷんで諦めたのだ。だから次のイベントに進むための情報だけ確認してどんどんすすめていったのだ。なので全くと言っていいほどこういった情報に疎くなってしまっていたのだ。
「じゃあ精霊契約から説明していくが、このことを説明するためには職についてから説明するぞ。そもそも人が神様から与えられた力はこの世界にあるマナという特殊な超常的な力を持った物質の吸収と運用する能力だけだったが、そこからその力を運用していくうちに突出した力や技、魔法を編み出すものがあらわれていった。そういった力が一代限りで埋もれていってしまうことに憂慮した神様は、その能力をカスタマイズして職として昇華してある一定の条件をクリアしたものならだれでも使えるようにした。そしてその職に就いたものからさらに突出した技や魔法などを編み出すものが生まれて、それがまたその職の上の職として作られ、この繰り返しで長い年月をかけて様々な職が生まれていったのだ。ここまでは良いか?ここから精霊術師の説明になるが、この職についてお前はおかしいと思うことことがないか?」
「いや、よく知らないのもあるがこれといってはないような気がするが………?」
「まあそうか、専門じゃないとわかりにくいかもしれないが、この精霊術師は基本見つけれさえすればその精霊と契約を結ぶことができるがそれはすべての精霊ではない、術師のランク関係なく契約できない精霊もたくさんいる。これはおかしいことだと思わないか?精霊術師なのに契約できない精霊がいるってことが?」
「いわれてみれば確かに、これはどういうことなんだ?」
「ここで最初に説明した職が関係してくる。先に説明した通り職は乱暴に言えば、誰か先人が作り出したもののコピーみたいなものだ。つまり精霊術師で契約できる精霊はその先人が苦労して契約していった精霊と再契約しているにすぎないということだ。じゃあこの先人はどうやって契約していったのかというと、まあ直接交渉して相手の要望を聞いてそれをかなえていって契約していったんだ。
つまり精霊契約は、交渉すればだれでもできるということだ。まあ資質や体質も関係してくることが多いがな。」
「ちなみに要望ってどんな?」
「基本的には戦って力を示せっていうのが多いな。戦って従わせろってことだ。それ以外だと千差万別でいろいろありすぎてわからん。」




