7.ボッチPK冒険者時代を振り返る5
襲い掛かってきたドレッドノートベアの嚙みつきをひきつけて右横にかわし躱しざまに持っていた黒い刀身の短刀で下から上へ切りつける。この短刀は”新月刀”といい流し込んだ魔力量により刀身が長くなるけっこうなレア武器なのである。だが流した魔力量によって長さが決まる特性により扱いやすい長さの魔力量を感覚で覚えておかないといけないし、魔力を流さないとどんどん元の長さに縮んでいってしまうし、何より自身の魔力がなくなるとただの短刀になってしまうというデメリットも持っている。ゲームではショートカットで決まった魔力量で発動できるように設定できて魔力が続く限り使えたのに、ここでは自分の感覚で制御しなければならない。これが案外難しい。今まで設定に甘えてきた分感覚が全然わからない大きくしすぎてしまったり、刀身を捕捉しすぎたりと実はこの制御だけで1週間もかかってしまったのは結構悔しかったりする。
下からの斬撃をドレッドノートベアは、左に転がり短刀をかわすと同時にその場で腕を振る。すると振るわれた腕の爪の軌跡に沿うように魔法で生成された石つぶてが飛んでくる。その石つぶてを身を低くしてかわし、そのまま向かっていくがアースランスが発動しドレッドノートベアの周りに石のやりが無数に出現してくる。やむなく後ろに飛びのき距離を取り仕切りなおす。
ドレッドノートベアの得意な分野の土魔法の大半が封じられている状況ではあるがAランクでなければ対処は難しいといわれる通り、その状況でも一筋縄ではいかない強さを見せてくる。
ドレッドノートベアが待ちの姿勢で戦うことが多いのは接近戦があまり得意ではないからである。
3メートルを超える巨体に、長い手にくらべて足は少し短く全体的にずんぐりとした印象を与える。そのせいで懐に入られて至近距離での戦闘になると長い手が邪魔をして攻撃が必然的に大振り気味になるので、必然的に掴みや噛みつきやぶちかましなど、予備動作が大きい読まれやすい攻撃が近距離では多くなってしまう。
だが3メートルを超えるこの巨体から繰り出されるこれらの攻撃はどれも一撃必殺の威力を持っており、得意ではないといっても全く安心できるものではない。
俺は新月刀に魔力を流し80センチくらいの長さに刀身を固定し、突きの格好で雷を全身にまとっていく。
(紫電一閃)
身にまとった雷と一体になりそのままドレッドノートベアに一直線に迫りそのまま雷をまとった刀の突きが繰り出される。
そのあまりにも早い突きに完全に虚を突かれる形になったドレッドノートベアであったがとっさに身を右にかわそうとする。だが突きのスピードがあまりにも早く防御する間もなく左の肩に刀が突き刺さる。刀は全体重をもって押し込まれ左腕を肩から切断し通り抜ける。
左腕を失ってもドレッドノートベアに後退もしくは逃走の意思はなく負傷した左肩を魔法で土を作り覆い血を止めこちらをにらみつけてくる。
状況はこちらに有利に傾いたがまだ油断はできない。気を抜けばあっという間に逆転されてしまうこともあり得るし、これは異世界の現実で、ゲームと違いイレギュラーはいくらでも起こりえる。
そしてイレギュラーなことが起こってしまう。
決着をつけようと向かい合った状態から、お互い距離を詰めようと駆けだそうとしたとき不意に、何かが風を切ってくるような音がして横をちらりと見て、音がしたほうを見てみると小さい氷の槍が5~6本こちらに迫ってきていた。
とっさに身を後退させ、氷の槍をやり過ごしてそれが飛んできたほうを見ると、白い頭としっぽが二つになった2メートルほどの狼がこちらをにらみつけていた。
この状況ではあまりうれしくない乱入者である。




