68,ボッチPKアジトを離れる23
真っ二つになった炎の鳥はそのまま勢いを失い空に溶けるように消えていった。しかし悪魔のほうはかろうじてまだ生きていた。巨大な紫のオーラが剣に集まっていったのを見て本能的に身をかわそうとしたのだ。だがしかし片足がない状態ではうまく動けず頭から真っ二つは避けたものの首横数センチから左は切り落とされてしまった。バランスを失い地面に倒れ込んでしまう。何とか修復させようと試みるもやはり何かに阻害されているかのように反応がない。何とか起き上がろうともがいていたらもう目の前にシグマが立っていた。魔法で応戦しようにも半身を失った状態では魔法を唱えることも放つこともできない。
最初の一撃目で遥か格下だと認識していた。動きも遅く特殊な防具を身に着けてるっぽかったが、ただ防御が固いだけならやりようはいくらでもあると、完全になめてかかっていた。どの攻撃なら通じるのかとか、どのくらいの強さまでもつかとか完全に自分がやられる可能性を排除してしまっていたのだ。どんなに力の差があっても強いものが絶対に勝つとは言いきれないのが真剣勝負の怖いところである。一つの判断の誤りで戦況があっけなく覆ることなどは枚挙にいとまがない。
しかしだからといって、能力的に勝っていたのに負けてしまったほうが納得できるかといえば、無理だろう。何より彼はまだすべての力を見せてはいないのだ。そんな結末、到底納得できるものではない。怒りと悔しさから未練がましい言葉が口を突いてでる。
『くそがっ!!この俺様がてめえごときにやられるなんてありえねぇ!!てめえなんかなぁ、最初から全力でやれば一瞬だったんだよっ!!』
「できもしないことは言うものではねぇなあ。」
『なんだと!?』
「俺はお前ら悪魔を何匹か狩ってる。だからお前らの弱点も知ってんだよ。だから何度やっても俺が勝つっ!!」
悪魔にはその独自の特性により、全力で戦えない。常に力をセーブして最小限の力で相手を殺そうとするのが常である。それは力の強い悪魔ほどその傾向は顕著である。
彼らは業から生まれて業を糧とするものである。そして人間と同じように彼らは存在しているだけでエネルギーを消費する。そして動いたり魔法を使ったりでもエネルギーを消費する、業というエネルギーを。そしてその消費量は強い悪魔ほど大きくなるし、攻撃や魔法に関しても同様である。つまり彼らは強い攻撃や魔法を使えば使うほど自分の命を削ることになってしてしまうのだ。だからどんなに強い悪魔でも結果的に全力で行ったほうが消費を抑えられるとしてもコンスタントに消費を抑えるために力をセーブした戦いをする。なので彼らは最初から全力で攻撃してくることはない。そのおかげでこちらもどんなに力の差があっても一撃でやられてしまうということはなかなかないし、戦いながら勝機を探すことができる。実際この悪魔が最初から全力で攻撃してきていたらんすすべもなく戦闘不能に追い込まれていた可能性が高い。
おそらくこの仕様はたぶんゲームの仕様の影響だと思う。このイベントはいつ始まるか予想しずらいものなのに、PK職は厳しい枷があるので一回の死がそのままゲームオーバーにつながる。そのためいきなり理不尽に殺されてしまうことがないように調整されているのだと思う。まあそのおかげで何とか悪魔たちと渡り合えているのだ。
俺は影魔法の<影刃>を再度発動して、刃に影をまとわせる。この魔法は<ヘリアンロートの遺産>を手に入れた時点でもう一つ機能が追加される。それはこの魔法をまとわせた攻撃でとどめを刺したときは、その悪魔の 力を取り込むことができるというものだ。あまり恩恵を感じたことはなかったが、やっておいて損はないと思う。
そうして俺は剣を上段に構えて、ものすごい形相でこちらをにらみつけている悪魔に振り下ろす。
ストンとあまり抵抗を感じることなく悪魔の首が落ちる。そしてそこから悪魔の全身が黒い粒子になって<刃影>をまとわせた剣に吸い込まれていく。
「ふぅ…。やっと終わったかな。」
気が付くと辺りはすっかり夕焼けになっていた。




