61,ボッチPKアジトを離れる16
………それは小さな気まぐれだったのかもしれない。
…………それはただ気づかなかっただけかもしれない。
……………あるいはただ単に間違えただけかもしれない。
………………もしかしたら何も知らない人の小さな気遣いだったのかもしれない。
確証なんて何もないし、確かめようもないことではある。それらは本当に些細で微妙な手助けでいまだに自分自身でも、俺を助けてくれたのかただの偶然だったのかわからないほどだ。
だがそのほんの些細な偶然か故意かわからないような手助けのおかげで、あの二年にわたる地獄を切り抜けて今に至っているのだ。
俺は確かにどちらかというとつまはじきにされるであろう側の人間である。それは<人魔大戦>時代に俺に味方してくれる人間がほとんど現れなかったことからも明らかである。
しかしそれでも、偶然かどうかわからないが手助けをしてくれた人はいた。そのおかげで今の自分がいるのだ。その事実を忘れることはできない。
これは俺が俺であるために必要な事なのだ。その結果がどうなろうと自分を貫くだけだ。
俺の答えにいよいよ苛立ったのかカペラはさらに激しい言葉を浴びせてくる。
「お前は馬鹿か!?今の状況が分かってんのか?お前の相手はすでに西の帝国アルバンス帝国の中枢を掌握してライル王国にも影響力を強めていっている輩だぞ!?お前は確かに強い。俺の知っているプレイヤーどもよりもずば抜けてな!
だがしょせん個の力だ。相手は国をも率いる集団の力だ、勝てるわけがねぇ。いつか力尽きて終わるぞ?今の相手の戦力の半分も削れればいいほうだな。そんな戦いに意味はあるのか?」
「どんなに強い光だとしても、どんなにたくさんの方向からの光だったとしても、すべての影を跡形もなく消し去るのは無理だろ。それが偽物の光ならなおさらな!」
カペラの言葉はいつの間にかこちらを気遣うようなものになっていた。彼らにも何か思うことがあり、抱えているものがあるのだろう。
さらにカペラは続ける。
「お前らの正義は常に悪意につぶされ、相手の正義は数に物を言わせた人海戦術で広がっていく。つまりお前らはこれから常に人から悪党と蔑まれて行くんだぞ?しかも時間がたてばたつほどにそれはひどくなっていくということだぞ?それでもすべてをひっくり返すことができるというのか?」
「すべてをひっくり返せるかどうかはわからない。だが俺を陥れたやつらは必ず全員ぶち殺すつもりだよ。」
俺とカペラは何か通じ合ったようにハハッと短く笑った。
そしてカペラは笑いながら
「じゃあその覚悟を証明してもらおうかっ!!」
そういいながら横っ飛びに飛びのき距離を取る。その開いた正面には詠唱を終えたハダルが魔法を放とうとしていた。
その魔法は見たことがある。極大呪文のハイトルネードスラッシャーだ。
この魔法は数千のエアカッターで構成されたトルネードが襲い掛かってくるもので、本来は五本のトルネードになるのに一本であるところを見ると、五本のトルネードを一つにまとめてぶつけようということなのだろう。
しかもこの魔法は魔法防御貫通効果という極大呪文にふさわしいいやらしい特殊効果を持っている。なのでこの魔法の前にはどんな魔法防御も意味をなさず、純粋な耐久力勝負になってしまうということである。
こちらにとってはほぼ必殺効果の魔法なのである。
彼らの時間稼ぎは狙いどうり成功した。しかし時間を稼いでいたのはこちらも同じなのだ。




