6.ボッチPK冒険者時代を振り返る4
時間はまだ昼まで1時間といった状況だろうか、対象の魔獣を見つけたのは。
ギルドの情報どおり湖のほとりにそいつはいた。そして俺がそいつを見つけたとほぼ同時に向こうもこちらに気づきお互い戦闘態勢に入る。
ドレッドノートベアの周囲の土が1メートルくらいの塊になって浮きそれが半分くらいのボール状の塊に圧縮されてその塊が5つ作られドレッドノートベアの周囲を不規則に回っている。
ドレッドノートベアの足元のまわり半径1~2メートルくらいは見た目にはわかりにくいが魔法で土がドロドロになっていて底なし沼の様相を呈している。
基本的にドレッドノートベアの戦術は待ちである。ボール状の細かい石の塊をぶつけ近づいてきた敵は沼に足を取られその間に爪などの餌食になるし、アースバレットもこれは土が圧縮されたものなので、大きく躱さないと躱した近くで圧縮を解かれて、広範囲に石礫がまき散らされダメージを受けてしまう。
相手の遠距離からの攻撃は周囲の泥化した土を壁にして受けたり、それを突破しても手足についた鉱石状の組織の部位によりはじかれてしまう。なかなかの鉄壁ぶりである。
何も情報がない状態で遭遇するとAランクでも苦戦は免れないギルド受付の反応も納得の強敵である。だが弱点がないわけではない。
俺はドレッドノートベアの放ってきたアースバレット2つをたたき切る。この球が破裂するのは勢いよく圧縮が解かれるからであり、相手の意図しないタイミングで切られたりして状態が維持できなくなった場合はそのまま下に落ちて元に戻る。そうして切り抜けた俺を見てドレッドノートベアは新たに5つアースバレットを作りだした。
俺は踵を返し相手に背を向けて走り出す、ある場所に誘導するためだ。案の定ドレッドノートベアは大声で吠えて追ってくる。俺は全速力で目的の場所まで走り出す。
繰り出されるアースバレットを叩き切ったり俺が持つ低位の雷魔法のライトニングアローで牽制したりしながら30分くらいで目的の場所にたどり着いた。
ドレッドノートベアは追いかけながら内心とても焦っていた。さっきから何度も距離を詰めて襲い掛かっているのに、そのたびにライトニングアローを食らって、しびれて少し動きが止まっている間に距離を開けられいなされている状況だ。
しかしドレッドノートベア自身に諦める気配は全くない。なぜなら彼にとってこれはもう勝敗の決まった追いかけっこであり、あとは距離をつめて襲い掛かって食い殺して、次の獲物を探すといういつも通りの流れであったのだ。だから彼自身誘い込まれているなどとはつゆ知らず一連の行動もドレッドノートベアにとっては苦し紛れの悪あがきにしか映っていなかった。
ドレッドノートベアが相手に誘い込まれていたと気づいたのは、逃げるだけの獲物としか見てなかった相手が、急に振り返って斬りかかってきてそれに慌てて対応した時である。
いきなり頭上に振り下ろされた一撃を、かろうじて手の鉱石状の部位で防いだが、お返しにアースバレットを打とうとして気づいた。自分のいる場所が足元も周りも大きな岩ばかりの岩場であることに。
魔獣が使う魔法は人が使う魔法と異なり、モンスター独自の魔法が多い。それは多くが詠唱がいらないが周りの環境に左右されやすい特性を持つ。
ドレッドノートベアの魔法は土を変化させ攻撃するものがほとんどである。岩や石などを泥上にしたりするのは魔力を倍以上消費して時間も5倍以上かかってしまう非効率なものになってしまう。石を細かくして圧縮して放つアースバレットも同様である。
とっさにアースランスを発動させる。周囲の地面から無数の石のやりが飛び出してくる。とっさに後ろに下がった相手に間髪入れずに襲い掛かっていく。普通なら大半の魔法が封じられることになるこの場所から離れて自分の得意な戦いができる場所で仕切りなおすはずである。しかし今まで自分が追いかけていた獲物としか見ていなかったものにたいして、背を向けて引き返すということは彼の本能とプライドが許さなかったのである。そしてドレッドノートベアは圧倒的に不利になるこの場での戦闘を継続することを選択する。それが相手の狙いだとも知らずに、、、。




