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52,ボッチPKアジトを離れる7

相棒であるカペラが相手に向かって切りつけながらかけていって、腕を斬りをとされながらすり抜けていったので、今の立ち位置的にはハダルとカペラで前後を取っている状況である。そして相手はいきなり襲い掛かってきたカペラを警戒してこちらに背を向けている。

 これはチャンスだとハダルは思った。まあこちらを全く警戒していないということはないだろうから、いきなり攻撃を仕掛けても返り討ちにあうだろうが、切り札を使うくらいなら距離的に十分できる。しかしカペラの様子を見て焦りが浮かぶ。

 カペラのほうは左手に炎ををまとい、右腕の傷口に当て傷口を焼いて止血していた。彼は短気で猪突猛進な性格である。プライドもそこそこ高い彼は、格下の雑魚と侮っていた敵に思わぬ反撃を受けて右腕を切り落とされたことが相当腹に据えかねているようで、左手の炎がオレンジっぽい赤の炎から青色の淡い炎に変化していた。燃え盛るといった表現がぴったりだったさっきまでの荒々しい炎とは違い今の炎は、淡く揺らめいている。一見炎がおとなしくなったように思うかもしれないが、この炎はさっきまでの炎とは温度が段違いになっている。それこそ生身で触れれば一瞬で隅になってしまうであろう程に。

 普段の彼は敵をいたぶることを楽しみにしていて、全力で戦うようなことはまずしない。そんな彼が全開の力で攻撃を仕掛けようとしているのだ。どれだけ怒り心頭なのかわかってもらえるだろう。

 だがハダルには、そんな本気の彼の攻撃も目の前の相手には通用するようには思えなかった。そいつは仮面をかぶって表情は見えないが、微動だにせずただ相手の攻撃の間合いと行動を観察しているように思える。こちらからも全力で攻撃を仕掛けて、挟み撃ちで攻撃しても打ち取れるビジョンが思い浮かばない。悔しいがこの敵とは二人係でもかなわないということだろう。

 そのための奥の手だが、それを使う前に怒り心頭のカペラが仕掛けて返り討ちにあってしまってはこちらが不利になってしまう。カペラに思いとどまらさせるために、牽制

この呪文はウィンドカッターの上位版でウィンドカッターよりもさらに圧縮された空気の刃が五メートルにわたって透明な刃の膜を形成し、それが三つ横並びに並んで飛んでいく。普段はこの半分くらいの大きさの刃を縦横無尽に走らせ相手を追い詰めるのだが今回は牽制と、カペラを落ち着かせるためなので、躱しやすいようにしたのだ。

 しかしそれは自分の意図とは違った結果をもたらした。

 何とそいつは体を半歩ひねり、身体を90°こちらに傾けてこちらから見て右手に持った剣をこちらに向ける形で横向きになった。そして持っていた剣でこちらの魔法を切り裂いたのだ。

 この魔法は魔力で空気を圧縮して覆いコーティングして放っているものなので、魔力のコーティングを切り裂けば確かに形を失い霧散する。しかしそれは剣の攻撃が普通に通った場合である。うまく刃が通らなかったり、タイミングを間違えればその攻撃をもろに食らうことになる。

 先ほどのカペラとの攻防を見る限り身のこなしの鋭さは目を見張るものがあったので、わざわざ危険を冒して剣で切り裂くよりよけるほうが楽なはずだし、自分もそう考えて攻撃したのだ。

 へたに動いて隙をさらすのを警戒したのかわからないし、予想外だったがとりあえずカペラが先走るのを止めることはできた。ここで奥の手を使うことにして先ほど手を伸ばそうとしていた筒を手に持ち

「ハダルの名において命ずる。汝の力解き放てっ!」

そう唱えて筒をほおり投げる。すると筒が割れそこからころい靄が広がっていく。そしてその靄の中から、大きな角を鼻先に着けたトリケラトプスのような魔獣が出てきた。

「こいつは禁域種の魔獣だっ!これでてめえも終わりだなっ!」

そういいながらハダルは持っていた杖を構えて、戦闘態勢をとった。

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