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51,ボッチPKアジトを離れる6

シグマこと橘 悠人一行を追ってきた<レイジングソード>の二人は名を、それぞれ赤い髪で小柄な男のほうがカペラ、緑がかった青色の髪でこちらはやせ形で少し背が高い印象の男がハダルである。それぞれ髪の色に象徴されるように、火と風の術を得意としている。

 彼ら<レイジングソード>の面々がこちらに来たのは、十年近く前のことである。気が付いたらこの世界にいてディオニスの指示で動いていた。カペラもハダルも、ここに来る前のことはほとんど覚えていないどこで生まれて何をして過ごしていたのかもすっぽりと記憶から抜け落ちてしまっているのだ。

 何か大切なことを忘れているような、何か思い出せと頭の中で声が響いている感じがするが、思い出そうとしても、よくわからない自分の記憶なのかあいまいな映像が頭に浮かぶだけで、すぐに消えてしまってその記憶を追うこともできない。なので考えるのをやめて、自分の心に従うことにした。

 自分たちの心にはディオニスの使徒として、この世界の人族を根絶やしにしてしまいたいという憎しみしかなかった。その憎しみがどこから来るのか?、それがもし終わったらそのあとはどうするのか?そういった疑問について考えるより、心の奥から湧き上がる衝動に任せて暴れていたほうがずっと気持ちが楽で簡単だった。

 なのでディオニスの指令をこなしながら、気の向くままに人を殺しいろいろな仕事をこなしてきた。

 そんな中で自分たちと同じような事情でこの世界に来たという人間たちと手を組むことになった。<レイジングソード>の面々は人族に強い恨みを持って行動しているものがほとんどだが、必要な時にお互いに利用する関係だとしても我慢して手を組んで行動するだけの器量は持ち合わせている。

 この協力関係は目を見張るほどの効果をもたらした。表からは彼らプレイヤー集団と呼ばれる者たちが活躍して信用を得て、裏では自分たちが敵対者を葬っていく。

 この協力関係が功を奏して、アルバンス帝国はほぼ手中に収めたといっていいほど自分達の影響力は浸透していた。

 そして次はライル王国を取り込もうと画策を始めたころに今回の依頼が来た。今手を組んでいるプレイヤーと呼ばれている者たちと同じ事情でこちらに来た人間だが、この人間はこちらにとって最大の障害になりかねない可能性があるらしい。

 今は情報が少ないので確認とついでに自分たちに敵対している組織に、手痛いダメージを与えておくために自分たちが派遣されることになったのだ。

 今回の追跡に際して、多くの部下や魔獣が同行することになっていたが、それはやめてもらった。

 こういう追跡に必要なのはスピードだと思うので、ぞろぞろ多くの配下を連れていてはスピードが落ちるし、小回りも聞かなくなる。それにそんな大勢で行ったら自分たちの出番が削られて、自分たちが楽しめなくなってしまう。

 この世界に来る前のことは覚えてないが、少なくともこの世界に来てからはピンチらしいピンチもなく、手を組んでいるプレイヤーといわれる者達もそこまでの差はないように感じた。さすがにリーダーらしき人物とその側近らしき人物は自分達ではかなわないだろうと思えたが、それでも逃げに徹すれば逃げ切れるだろうという見立てがたつくらいの強さに感じた。

 そういった理由から、自分たち二人で行くことを決めたのだ。ただ予定では先行した部隊が交戦している間に後ろから突っ込み、敵を蹂躙するはずだったのだが、どういうわけかはぐれたのか3人だけで進んでいる気配を感じた。二人の反応はかなり小さく強さ的に何も問題なく始末できるように感じた。問題は残る一人の反応だった。気配隠ぺいをかなりの高レベルで展開しているらしくかなり反応が薄く、強さや得意属性などの情報も全く分からない。わかるのはかろうじて一緒に進んでいるであろうことだけだ。

 この時、自分たちはあまり深刻には考えていなかった。斥候職の人間は強さに比べて気配隠ぺい能力が格段に高いことが多い。なのでこの時には、高レベルの斥候がはぐれた仲間を合流させているんだと思った。それなら斥候職の人間はそこまで強くないと考えていた。

 しかし襲い掛かった男は今まで見たどのプレイヤーと呼ばれた人間よりも異質で、強かった。

 自分たちはかなり大きな音で追っていたので迫ってきていたのには普通に気付いていたとしても、あれだけの炎をまとった剣で攻撃されれば多少は、焦りや動揺が見られるはずである。

 ところが、目の前のこの男にはそれが全くなかったのだ。まるでその攻撃が来るのを待っていたかのように、振り下ろされた剣を静かに横に弾いて返す刀でカペラの腕を切り落としたのだ。まるで予定調和のようなこの出来事に戦慄していた。この世界に来て初めて死を覚悟した。この男は自分たちと違うベクトルでイカレている。自分から手を出すことはないが、自分たちのことを脅かすものには一片たりとも許さない、どんな手を使っても切り抜ける。そんな思考を感じた。そしてその敵意は今自分たちに向けられている。

 強さ的には手を組んだプレイヤーのトップくらいの強さに感じるのだが、こいつからは全く逃げ切れるビジョンが思い浮かばない。

 これは奥の手を使うしかないか。ハダルはそう考えて腰にぶら下げていた筒に手を伸ばす。

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