50,ボッチPKアジトを離れる5
裏道を進んでいくと木々が生い茂っていない少し開けた場所に出たので、その場所で準備を整えて迎え撃つ体勢を作っていく。追手がなぜ二人なのかわからないが、油断せずに行こうと自分に言い聞かせる。レベルとか装備とかでは相手より数段上だという自負があるが、<人魔大戦>の対人戦ではあまりレベル差はあてにならずレベルが30違う相手に負けることだって普通にあるのだ。このゲームでの人と魔獣の一番の違いは何かというと体力(HP)である。魔獣にレベルとかの概念が設定されていないので推奨レベルモンスターの平均体力(HP)で比べることになるが、人だとレベル20から30の体力(HP)の差は職業にもよるが20~40くらいの差だが、魔獣だと400から500くらいの差があるのだ。これは普通に出てくる魔獣のものでボスクラスのモンスターだとさらに倍かけくらいで多くなる。なのでこの世界では敵の攻撃は、防具や盾もしくはスキルで防ぎ極力食らうダメージを抑えた立ち回りが求められる。
そして対人戦ではその体力の多い魔獣にも対抗できる能力を持った武器で戦うのである。ある程度の差などはあってないようなものである。俺自身こういう仕様でなければあっという間に狩られていたと思う。
<人魔大戦>時代には散々助けられたシステムだが、いざ現実にこの条件で戦うとなると命がかかっているぶん緊張感もゲーム時代の比ではなく、このゲームシステムを作った人間を呪いたくなる。
こういったことから序盤で戦ったはずの敵だからと言って全く油断できないのだ。しかも彼ら<レイジングソード>はディオニスのお気に入りということもあって(ゲームの仕様上必要なのかもしれないが)ボスの魔獣と遜色ない体力(HP)を誇る。あまり時間をかけたくはないが、こちらの世界で初めての強敵との戦闘である、長期戦も視野に入れて考えるべきで、焦らず戦おうと思う。願わくば彼らの体力(HP)がけた違いに多くありませんように。
準備を整えて気持ちを落ち着けて深呼吸をしているとこちら向かってくる足音がどんどん大きくなっていく。その音は距離が近づくほどどんどん大きくなっていき、こちらと接触する直前にはちょっとした地響きみたいになっていた。明らかにこの世界で使われている馬などとは異質な足音だ。明らかに魔獣だろう。そいつらも戦闘要員として連れてきているのだろうからこれで四対一である。ただでさえ不安材料でいっぱいなのに、どんどんこちらにとって不利なことが増えていく。
、、、もう帰りたい、、、。
そんな俺の思いとは関係なく大きな足音とともに、魔獣アーマードレイクに跨った燃えるような赤い髪をした少し背の低めな男がこちらに突進してきた。男の右の手には細身だが不釣り合いなほど長い炎をまとった剣が握られている。
「ゲハハハハッ!ゴミはっけーーん!! 焼き尽くせっ!モラルタ!!」
その言葉に反応するように彼の持つ剣の炎が一気に大きくなる。そしてその剣を炎と一緒に振り下ろしてくる。
ザンッ! と剣が地面に突き刺さり周囲の草を焼き大きな火柱を上げる。しかしその中心に俺はいない。そしてそこに赤い髪の男はいない。そこにあるのは地面に突き刺さった剣と、それを握っていた彼の剣だけだ。赤い髪の男は少し離れたところで方向転換をして左手でなくなった右腕の出血を抑えるように右肩を抑えてこちらを忌々しげににらんでくる。
俺がやったのは彼の振り下ろした剣を持っていた剣で横に弾いて逸らしてそのまま返す刀で下から上へ振り上げすれ違いざまに彼の腕を落として素早くその場から離れて炎の燃える範囲から離脱したのだ。彼らは俺のことを知らないが俺は彼らのことをよく知っている。
今攻撃してきた赤い髪の小柄な男は火の魔剣士のカペラという<レイジングソード>の一員で気分に任せて突っ込んでくるだけのイノシシ野郎である。
彼自身普通に戦えば卓越した剣技と魔剣の膨大な炎でこちらを苦戦させるだけの能力を持つが、いかんせん彼の短絡的で短気な性格がすべてを台無しにしている。頭で考えるより先に手が出るような人間だ。
さっきの攻撃も彼にとっては不意をついたつもりかもしれないが、あれだけ大きな音で迫ってきてたら誰だって身構える。それに加えて俺はゲームで彼と何度も戦っている。攻撃を見て対応するのもそこまで難しくない。攻撃のモーションもゲームとあまり変わっていなかったので正直助かった。
先ほどレベルの差は対人戦ではあまり意味をなさないといったが訂正させてほしい。30のレベル差が覆されることもあるが、これはごくまれな事である。苦労して積み上げてきたもの、時間と苦労を掛けて身に着けたものはどんな時でも頼れる。それに俺の<人魔大戦>時代に積み上げてきたものはとりわけ濃く、重い。今の攻防ではっきりした。こんな奴らに後れを取るようなことはない。




