37,ボッチPK盗賊団を殲滅する11
スカーレットは呆然とシグマと強化ワイバーンの戦いを見ながらこの状況を傍観しながら、後悔の念に包まれていた。
「さっさと逃げるべきだったわ、、、。」
そう静かにつぶやいた。
小さいころからもめごとばかり起こして、命にかかわるほどの問題になったことも十回や二十回では済まないくらいである。家に助けられたこともたくさんあるが、七割以上は自分で何とかしてきたと自負している。つまり彼女にとってもめごとは日常茶飯事のことであった。
そしてそんな危険な日常を今までこなしてきたのだ。危機管理能力は人並み以上にあるだろう。彼女自身いざとなったら自分だけでもいつでも逃げられるように極秘裏に準備を整えていた。
だがここでの三年にも及ぶ暮らしは彼女の持っていた危機意識を薄れさせていた。この場所はロッツの森の奥深くでその先にはハイアベレージの強さを持つ魔獣の宝庫であるソウハ大森林がある。なのでそこそこの強さを持つ冒険者もソウハ大森林の魔獣を恐れて、ここまで来ることはほとんどないのでほとんど戦闘らしい戦闘がなかったのだ。
ここでの仕事は罪科職に落ちた罪人の捜索であり、そしてそれは下っ端の部下に任せておけば事足りた。なので彼女はここでは部下に指示を出した後は、賭け事をして遊んで暮らしていた。
ごくたまに来る手練れの冒険者集団や王国の騎士団は、事前にある程度の情報が入ってくるので、上役であるグレイルに報告しておけば彼が、強化ワイバーンを連れてきて蹴散らしてくれる。
この強化ワイバーンは、今互角以上に戦えている者がいる状況が信じられないほどの強さを誇り、たいていの敵は腕の一振りで紙のように引き裂かれて絶命し、火のブレスをはけば相手がそこそこの魔法障壁を張ったとしても、そんなことはものともしないほど強力で、ほとんどの敵は何もできずに消し炭になる。そのほかのブレスも強力で、もうこいつだけでいいんじゃないかと思えるほどの強さを誇っている。
こういったことから今回のことも、自分たち以外の下っ端を全滅させられて自分たちの命も危ない状況に陥ったとしても、グレイルが強化ワイバーンを連れてきた時点で、もうこの状況も何とかなると思ってしまった。
今ここで立って居られているのもただ単に運が良かっただけなのに、危機感がマヒしてしまっていた。さきほどの強化ワイバーンのブレスを受けながら放たれた矢は、おそらく狙いがつけやすかったからレギルが狙われただけで、自分が狙われていてもおかしくはなかったのだ。
そして狙われた場合、果たして自分はその攻撃に気付いて躱すことができただろうか?おそらくレギル自身も自身の喉に刺さるまで、全く気付かなかっただろう。自分の場合も同様の結果になっただろう。その事実に気付いた時点でさっさと隙を見て森に逃げ込むべきだったのだ。
もうこの時点では逃げるチャンスはもうない。この状況で逃げることをグレイルは絶対に許さないだろう。力量的には同じか、相手のほうが上になるので逃げきるのは難しいだろう。なのでもうこの状況では強化ワイバーンが勝ってくれることを祈るほかない状況だ。
シグマと強化ワイバーンの戦いはどんどん激しくなり、今まで以上に割って入るのは無謀としか言いようがない状況である。強化ワイバーンの攻撃が振るわれるたびに周りに衝撃が走り、いろいろなものが破壊されていく。
そうしているうちに状況が動いた。強化ワイバーンの尻尾の薙ぎ払いをかわしながらシグマが強力な電撃を放った。これだけでも勝負が決まってしまうかと心配するほどの威力だったが、強化ワイバーンは思っていた以上に頑丈だったみたいで、一瞬動きを止めただけだった。しかしその次の瞬間シグマの姿がブレた。気付いた時には彼は強化ワイバーンの後ろにいて、強化ワイバーンの首輪が真っ二つに割れていた。
割れた首輪が地面に落ちて、変に甲高い音をまわりに響かせる。その瞬間に強化ワイバーンの圧力が倍以上に強まった。
「なっ!なんだとっ!!」
グレイルが変に焦った声を出す。
正直この時はなぜ彼がこんなに焦った声を出したのかが分からなかった。おそらく強さは今までをはるかに凌駕するであろう圧力を感じるので、仕留める可能性がかなり上がったではないかとのんきに考えていた。
しかし強化ワイバーンが雄たけびを上げ、こちらに殺気立った視線を向けた時に自分の愚かさを悟った。あの首輪はおそらく制御装置だったのだ。制御がなくなれば標的は自動的に自分たちに向く、今はまさにそんな状況だったのだ。
「がひゅっ」
一瞬のすきに強化ワイバーンはグレイルとの距離をつめて、横薙ぎに爪を薙ぎ、彼の体を紙切れのように引き裂く。私はただ茫然と見ていることしかできない。
そしてこちらに向かって今まで以上に強力な炎のブレスが放たれる。これも私は呆然と見ていることしかできなかった。
、、、ああ、やっぱり私は失敗してしまったんだ。、、、、
消えゆく意識の中でそんなことを考えていた。




