35,ボッチPK盗賊団を殲滅する9
強化されたワイバーンだから強化ワイバーンと呼ぼうか。その強化ワイバーンだがやはり強い。
横薙ぎに鋭い爪を備えた右腕を薙ぎ払い、その勢いを利用して尻尾を体をひねって叩きつけてくる。2メートルの体長に1メートル50ぐらいありそうな不釣り合いに長いしっぽだ。叩きつけられたしっぽにより地面に大きな亀裂が走る。これにより発生した振動は先ほど戦ったイーバスのウォーハンマーを使った攻撃をはるかに超える振動を生み出した。俺のほうは尻尾をかわすために軽くジャンプして後ろに後退してたから振動の影響を受けなかったが、味方であるはずのグレイルとスカーレットはその振動の影響をもろに受けて、体勢を崩していた。
このチャンスにどちらかを始末しておきたかったが、目の前の強化ワイバーンがそれを許さない。
叩きつけた尻尾を起点にして、弧を描くように飛びかかってくる。
それをバックステップで躱すと、強化ワイバーンは鋭い風の刃のようなブレスを放ってくる。咄嗟に持っていた剣で受けるが、勢いを殺しきれずに大きくは弾き飛ばされて背後の壁にたたきつけられてしまう。着ていた防具のおかげでほとんどダメージはないが、大きく距離を開けられて仕切り直しになってしまった。
やはり何かおかしい、普通に考えてこれだけの魔獣を従えるには魔獣の特性上、相応の強さが必要になってくるはずである。
基本こういう魔獣を従えるには戦って勝つか、小さいころから使役して育てるかの二択になる、後者の育てるのは膨大な時間がかかり、経験もうまく積ませないとここまでの強さにはならない。彼らの連携の拙さからそれは絶対ないと断言できる。次に戦って勝つという方法だが、これは一対一で勝たないと意味がない(これがテイマー職が大変な職であるゆえんである)大勢で囲んで倒してもそれは普通の討伐で、相手に認めさせたことにはならないのだ。それを踏まえて考えてみると、彼らにこの魔獣に一対一で勝てるほどの実力は到底ない。それならどうやってこの魔獣を使役しているのかということかとになる。
あらためて強化ワイバーンを注意深く見て視ると、真ん中の首の付け根に銀色で中央に赤い宝石が付いたとげとげしいデザインの首輪が目に入った。これはディオニスの信徒である裏の職の外法錬金術師が使う”隷属の首輪”である。
俺は、グレイルに大声で問いかける。
「偉そうに正しいことしてる風に言ってたくせに、結局はディオニスの信徒とつながってる悪党かよ!」
「何を言っている!?」
「とぼけるなよ、その首輪は”隷属の首輪”だろ。ディオニスの信徒以外にそんなもの使うやつはいねぇよっ!!」
「これから死にゆくお前には関係のないことだ!」
「そうかな?」
ディオニスの信徒は<人魔大戦>でことあるごとに裏で暗躍していた、全プレイヤーにとって不倶戴天の敵ともいえる輩で、このゲームの目的の一つにこのディオニスの信徒のせん滅があるほどだ。
ディオニスの信徒はディオニスの直属の部下の悪魔たちとつながっていてそういったイベント戦闘は過去に何度も行われてきた。そしてそのたびに”隷属の首輪”で無理やり従わされていた魔獣の群れと戦うことになったのである。
なのでこういう魔獣の扱いは心得ているし、”隷属の首輪”についても同様である。
”隷属の首輪”は”奴隷の首輪”を改造させて作られるもので、”奴隷の首輪”が厳しい戒律と規則にのっとったうえで作られるのに対して、これにはそこまで厳しい制約はない。というか違法な奴隷にはたいていこの”隷属の首輪”が使われていることがほとんどである。
”奴隷の首輪”は厳しい規則と戒律によって作られているぶん拘束力が強く、首輪も本人はおろかほかの誰も破壊がまずできない頑丈な代物である。だから強制されている契約を完了させるまでは絶対に外せない。その分つけるときにも厳しい規則が付きまとうが、、、。
たいして”隷属の首輪”はそこまで厳しい制約がない代わりに、突けるための条件が厳しく、それに加えてその首輪は本人には絶対外せないだけで、外からの攻撃に関しての強度は術者本人の力量に依存する。なのでよっぽどの実力差がない限り壊すことは可能である。
まあ動き回る相手の首についている首輪を破壊するのがどのくらい難しいかはさておき、この場合はこの首輪を破壊するのがベストだろう。




