32,ボッチPK盗賊団を殲滅する6
この時点での立ち位置は、俺が入ってきた時と完全に逆になっていて、相手の後ろ側に出口側の扉がある。なので残った二人がこの拠点を放棄して逃げの姿勢で行動されるとなかなか厳しいことになる。
どうやって逃がさないように始末をつけようかと考えて、周りの状況をそれとなく確認していると、いつの間にか近くに気配が増えているのに気付いた。
やはり俺はこういうところで気配を読みながら行動することができない。そしてボッチの俺にはこんな時に,駆けつけてきてくれる仲間はいないので、確実に相手の増援だということが分かる。悲しいことだけれども。
残った二人も増援に気付いているらしく、おそらくそいつが入ってきたときに、こちらが動揺することを見越して攻撃を仕掛けるか逃げるかしようという魂胆なのであろう。意識がこちらではなくそっちに行っている。
できれば今のうちにどちらかを仕留めたいが、今の状況でへたに動くとまずいことになりそうな気がする。
ここは無理せず合流した相手を確認してどうするか考えたほうがいいと考えてそのまま膠着状態を続ける。
すると突然彼女たち二人の後ろのドアが勢いよく開いて、こちらに向かって漆黒の槍が飛んでくる。躱すこともできたがここはあえてファントムコートに魔力を流してコートをアストラル化してすり抜ける。このコートは物理属性だけの攻撃なら魔力を流している間は、すり抜けるのだ。この槍を投げてきた相手は状況からしておそらく手練れであると思うのでできるだけこちらの動きを見せて情報を与えたくなかったのだ。アストラル状態のものや魔獣は魔力で対処できるというのは、この世界でも常識なのでこの服の特性はすぐに対処されてしまうのでここでばれても問題ない。もともとこの特性は弱体化されて、微妙な性能にされてからそこまであてにできなくなっていたし。
開いた扉から入ってきたのは190くらいの身長の、漆黒の鎧と青い槍を持ったやせ型の男であった。顔には三本の爪痕が左の顔半分に縦に刻まれている。都市は30代後半といったところで、間違いなくこの世界では手練れの歴戦の戦士といえる雰囲気をまとっている。眼光も鋭く、もしも元の世界でこの人に絡まれていたら、間違いなく土下座して謝っていたであろう怖さだ。
だが不思議なことにこの世界ではそこまでの恐怖を感じない。油断はできないが負けそうな感じはしない。
そして、まだ建物の外に気配があるのを感じたのでそちらに意識を向けてみると、ワイバーンという魔獣で、彼が騎乗してきたといった感じだろう。そしてここで俺は、自分の思い違いを認識した。
この世界では長距離の通信手段や早く移動する手段はないと思っていたが、そんなことはなかったのだ。それが今、目の前にいるテイマー職の派生職である竜騎士である。彼らはパートナーである飛竜とともに行動して戦闘なども連携して行う。しかも飛竜に騎乗して長距離を移動することができ行動範囲が広い。通信手段としては速さも申し分ないものである。おそらく俺の情報も竜騎士を使ってやり取りをしたのだろう。この世界に来て冒険者をやり始めた時に、飛竜便という高速の郵便システムがあると聞いていたはずなのに、忘れてました。まあボッチなのでこのシステムを利用することがなかったので仕方ないとも思う。
忘れていたのにはもう一つ理由がある。この竜騎士はプレイヤーがあまりなりたがらない不人気職だったのだ。<人魔大戦>では情報は、ゲーム内でもメールやチャットでやり取りできたし、現実世界でやり取りできるし移動もファストトラベルで町から町へは一瞬で移動できたので、この世界で重宝されるようなメリットがなかったのだ。
そのほかにもドラゴンを捕まえて育てるのにも手がかかるし、いうことを聞いてくれるようになるかも千差万別なのだ。そして強さ的にもプレイヤーの三分の二程度の強さにしかならないので、それなら他のプレイヤーと協力したほうがいいことになるし、テイムしたドラゴンのAIも教え込まないと役に立たない。極めつけのデメリットはプレイヤーが死んだときである。
プレイヤーは死んでもリスポーンがあるがテイムしたドラゴンが死んだときはそうはいかない。一緒に死んでしまったドラゴンは死んだ場所まで行って遺骸を回収して生き返らせないといけない。それにも時間制限があり、期限を過ぎると消えていなくなってしまう。こうなってしまうとまた一から最初の手順を踏んで育てていかないといけなくなり、また膨大な時間がかかる。
つまり、かかる手間に対してリターンが少ないのである。きちんと育てていけば大化けしてとても使えるようになることもあるらしいが、それまでの苦行のような育成がつらいのだ。
こういったことから不人気職で一部の人間しかなるものがいなかった不遇の職なのである。
しかし外から感じるワイバーンの気配はとても強く、目の前にいる人物よりはるかに強いように思える。これはどういうことだろう?




