31,ボッチPK盗賊団を殲滅する5
相手の手が読めたので、まずセオリー通り後衛から始末していく。ウォーハンマーの振り下ろしに合わせて(シャドウレギオン)を発動して自分の姿をとらえにくくする。地面を打ち抜くことによる地震はくるとわかっていれば体勢を崩されることはない。なのでそのまま(紫電一閃)で一気に間合いをつめてイーバスを貫く。
ここで予想外のことが起こった。全くのノーマークだった一人残った下級職の生き残りが、イーバスを身を挺して守ったのだ。これにより行動が自分の予想より一手遅れることになる。
この一手の遅れによりイーバスはこちらに気付き素早くウォーハンマーを振り下ろしてくる。この攻撃を紙一重で躱してそのまま剣を振り上げてウォーハンマーを持った両腕を切り飛ばす。そのままの勢いで回転してイーバスの首に向かって剣を振りぬく。これで予想より二手遅れることになる。
イーバスの首を落とした俺はすぐその奥にいる魔術職のドルガンに攻撃のしようとするが、彼はもう魔法を発動させようとしていた。咄嗟に(ライトニングアロー)を発動して彼の行動を阻害する。この呪文は威力は弱いが、その分詠唱が短く発生も早いので、こういう時に一瞬しびれさせて動きを止めることができる。
(ライトニングアロー)によってできた一瞬の間に縮地で一気に近づき、そのままの勢いを利用して、ドルガンの腹部に左の拳をたたき込む。そのまま剣で貫くことも考えたが相打ち狙いの魔法を使われる可能性を考えて、まず魔法の詠唱を完全に中断させた。
そしてその左手で彼の胸ぐらをつかみ、崩れ落ちそうになっている彼の体を引き起こして彼の胸に右手に持った券を突き立てる。これで予想より四手遅れることになった。
当初の予定では、このあともう一人の前衛職であるレギルも始末して、女頭領のスカーレットと一対一になる状況を作り出そうとしていたが、完全に当てが外れた。あの一人残った下級職の人間のファインプレーである。もう何もできないと放置していたのがまずかった。まさかあそこで間に割って入ってくるとは思わなかった。
この遅れのせいで残りは二人になってしまった。残り二人の表情には逃走の色も浮かんでいる。速さは俺の生命線なので負けることはないと思うが、仮に一人がおとりになってここで粘りこちらを引き付け、残り一人が森に逃げ込むという事態になれば、地の利は完全に向こうにあるので、見つけ出すのは困難になる。なのでここは慎重に行きたいところではある。相手もどうするか迷っていることだしどうするか、、、。
裏の仕事は表の仕事と危険度が段違いである。その分実入りが多いことも多いが、ばれたらその場ですべてが水の泡になり残りの人生も、どん底になることが確定する。なのでこういう仕事をしている人間はえてしてリスクに対して敏感である。自分の命がかかっているから当然ではあるが、そういった点では、彼女らにもその心得はあったはずである。
しかし彼女たちが、この仕事について3年の月日がたっていた。その間何も取り立てて慌てるようなことは起きなかったのである。時々偶然ここを知ったであろう手練れの冒険者が来ることもあったが、少しの被害で撃退できていた。もともとここは森の奥のほうなのでなかなかこういったことはなく本当に順調だったのである。
だからこういった慣れからくる油断が、生まれてしまっていたのかもしれない。
それでも一般的な冒険者よりはよっぽど用心深く行動をしていた。今回のように一日に四~五組の三人編成の人間が戻ってこないことは異常事態である。
なのですぐこの事態を重く見て、上役の人間と協議して明日からいろいろ始めようと決まった矢先のことであった。
このような事態になって初めて、自分が犯した失態に気付いて、後悔と自責の念がわいてくるが、その前に今の現状をどうにかしなければとスカーレットは考えを修正する。
もうこの状況では森に逃げるのが、一番生存率が高そうだが相手もそれに気づいているようでこちらの様子を油断なく窺っている。この状況では逃げるのも厳しい、かといって戦うのは論外である。せめて何か相手の気をそらせられるようなものがあればいいのだが、なにも浮かんでこない。頭の中が詰みという言葉で埋め尽くされるようなプレッシャーのなかで抜け道を必死で探す。




