30,ボッチPK盗賊団を殲滅する4
「いくよっ!!気合を入れなっ!!」
そういいながら女頭領であるスカーレットは普通に騎士剣を装備したお供のレギルととも向かってくる。レギルは中肉中背で茶色の鎧を身にまとったいかにもな騎士である。見た目通り騎士剣でのごり押しを得意としているのだろう。動きに迷いがない。
その後ろに控えていた筋骨隆々のいでたちで大きなウォーハンマーを持った、これまた赤色の重鎧に身を包んだ男イーバスは力をためていた。その後ろでは魔術職であるドルガンが魔法をいつでも放てるように詠唱をしていた。
そしてイーバスが溜めた力でウォーハンマーを地面に振り下ろす。それにより地面に振動が走り地面が揺れる。その影響を受けないようにタイミングよくジャンプしていたスカーレットが、風の魔法をまとわせた剣を振り特大の風の衝撃波を作り出す。その衝撃波が俺に襲い掛かってくる。
スカーレットと同じタイミングでジャンプしていたレギルは俺がどう動いても対応できるように力を溜めながらこちらのすきを窺う。離れたところにいる魔術職のドルガンはフォローのための魔法を待機させている。
足を止めて攻撃をして、残りは相手の動きに合わせて動く。大体の魔獣に対応できるとてもいい連携攻撃だと思う。しかし魔獣討伐目線で考えすぎではないかい?
俺は魔獣ではないし、魔獣のような単純な存在ではない。まあ魔獣も高度になるほど考えが高度になっていくから、一概に魔獣が単純とは言えないが今はそのことは置いておいて、これは対人戦である。ウォーハンマーを振り下ろすイーバスの動きが丸見えなのである、これでは俺にかわしてくれと言っているようなものだ。これ自体が罠の可能性もあるが攻撃に回っていない二人がすきを窺う見に回っている時点でこの線も消える。この攻撃が連携の起点になるのなら、前に出てきている二人はイーバスのほうに注意が行かないように工夫するか、彼の姿を隠して見えないようにする必要があったのだがそれをしていない。
つまり彼らはこちらを今まで討伐してきた魔獣と同じに考えて同じ攻撃をしてきているのだ。
こちらが自分たちがすきを窺っているのと同じように全員の動きや表情をつぶさに観察して行動を予測しようと考えているとは思ってもいない。
部下たちをあっという間に全滅されたというのに、彼らの心には自分たちのほうがまだ戦力的には上であるという慢心からくる相手への侮りがあった。彼らの心にはもう相手の存在への関心はもうない。彼らの頭はすでにこの状態の後始末をどうするかとか、上へはどう報告するかとか、立て直すにはどのくらいかかるだろうかというこの戦闘が終わった後のことでいっぱいであった。
ここまで鮮やかに部下たちを全滅されたのに、このような驕りが出るのは残った5人が一人を除き全員上級職だったからである。
通常上級職同士の戦いではそこまで差は出ない。大体ステータスも隔絶したものがあったりするわけでもなく、皆似たり寄ったりである。だから単純に上級職同士の戦いは結局数の多いほうが勝つものだと短絡的に考えてしまっていた。この考えは間違ってはいない、一対二、一対三、一対四、、、数が増えるほど一人の勝率は低くなる。大体一対三でもう勝利は絶望的であるといってよい。
しかしこの世界ではスキルや魔法があり、どんな状況でも逆転の目はある。しかも彼はこの世界に来る前にこのような状況をいやというほど経験している。
そんな彼にとってこの攻撃は、いくらでも対処が思い浮かぶような稚拙な攻撃であり、どうとでもできるようなものであった。
彼女たちは仕方のないこととはいえ、侮ってしまった代償を支払うことになる。
スカーレットがジャンプして攻撃を放った瞬間、相手の周りから影でできた人間のようなものが何人も湧き出て、それと同時に彼の姿を見失う。
慌てて辺りを見回し後ろを振り返ったときに、後ろで最後に残っていた下っ端の人間の胸に剣が付きたてられているのが見えた。
着地と同時に後ろに踵を返し向かおうとしたときには彼はもう次の行動を起こしていた。
イーバスの振り下ろされたウォーハンマーを紙一重で躱し、そのままその両腕を持っていた剣を振り上げて切り離し、そのままの勢いでイーバスに近づき首を落とす。
その次の瞬間、また彼の姿を一瞬見失う、気付いた時にはその後ろに控えて魔法を放とうとしていたドルガンの胸に剣が深々と突き刺さっていた。
この一瞬で五対一が二対一になってしまった。ことここに至って初めて彼女は、自分が置かれた状況を理解して青ざめた。




