124,橘 悠人の過去(学生編)4
<聖王国物語>についていろいろ語ってきたが、俺自身が一番楽しかったのは次々と襲い掛かってくる敵をばっさばっさとなぎ倒していく爽快感だった。
それは小さいころにテレビで見て憧れた主人公のような無敵の侍になったような感覚を味あわせてくれた。
今の時代だとすっかり時代遅れの古びた名作という括りにされているが、そこには確かに俺が子供のころにあこがれ理想とした姿があったのだ。
そういった理由から俺はこのゲームを何十回と繰り返し遊び隠し要素もすべて網羅するまでに至った。
しかし、こんな楽しかったゲームにも欠点があった。だがこれはこのゲームではなく俺自身の欠点である。それはパーティーメンバーの存在である。
このゲームはオンラインにも対応していたが、当時は格闘ゲームとかのオンライン対戦以外ではあまり見ず知らずの人とパーティーを組んで戦うようなことはあまり盛んではなかったので、この時点では開発会社の”株式会社パルティア”はオンラインでの共闘はとても限られた状況での戦闘に限定されることになった。
そのため一緒に戦うパーティーは高度なAIが搭載されたNPCと一緒に戦うことになるのだが、俺はここでも仲間との連携は壊滅的だった。
このゲームは、味方にも攻撃が通る仕様になっていてへたなプレイヤーだと見方を殺してしまうこともままあるのだ。
このために俺は敵ごと味方を殺してしまい、一戦闘ごとに味方を蘇生させなければならなくなり、そのうちいちいち蘇生させるのが面倒になり、そのまま放置するようになってしまい途中からずっと一人旅のようになってしまっていた。まあ何十週もしているうちに慣れてきて、パーティーメンバー4人のうち1人か2人は最後まで生き残ってくれるようになった。
このゲームは本当に寝食を忘れるほどに楽しかった、だがこのゲームにハマればはまるほど剣道についての今後について悩むことになってしまった。
どういうことかというと、俺が小さいころに憧れてこうなりたいと思ったのは、大勢の敵に囲まれても一切ひるむことなく、襲ってくる敵を次から次へと切り伏せていくような圧倒的な人物である。俺は確かに中学から高校3年までで4連覇できたが、それは俺が圧倒的に強かったわけではなく運の要素もたくさんあったように思う。それに俺自身この結果をもって世界最強だと思えるほどおめでたくもない。
全国上位の人たちとか道場の人との試合はたぎるものがあるが、勝率が8割を超えてきているので正直周りに目標にできる人がいなくなっていた。
このまま剣道を続けても、子供のころに憧れた存在までの高みに行ける気はしないし、そもそも行けたとしてもその力量を試しようがない。今の日本ではそんな武力は必要とされていないし、かといってその力が活躍するような戦国時代のような世界になっても生き残れる気はしない。
そうして悩みぬいた結果、俺は高校を卒業と同時に剣道をやめて生きていくことにしたのだ。体力づくりと体形維持のためのジョギングはやっていたが、竹刀を握ることは高校を卒業してからはなくなった。
………………そうしてまた新しい生活が始まった………………。




