11.ボッチPK冒険者時代を振り返る9
森に入り、昼過ぎには湖のほとりのドレッドノートベアがいるというあたりまで来たが、食い散らかされた魔獣の残骸があるだけだった。
仕方がないので散開して辺りを調べていると一人の団員が見つけたと、慌てた様子でこちらに走ってくる。なぜ慌てているのか疑問に思ったがとりあえず全員を集めて現場に向かった。
そこでライアン教第十一師団の団員たちが見たのは彼らの想像を絶するものだった。
Aランクの冒険者でないと一人では絶対に対峙すべきではない魔獣のドレッドノートベアとオルトロスハウンドが争っているのだ。そしてそれを数十匹のスノーハウンドが遠巻きに見ている状況だ。
そしてその間に話に聞いていたBランクの冒険者が両者の攻撃をうまくいなしながらドレッドノートベアに攻撃を加えていた。しかも状況は冒険者が優位に立ち、ほどなくしてドレッドノートベアは狩られるという状況だった。どういうわけかオルトロスハウンドはドレッドノートベアだけを敵視していて冒険者のほうはお互いに無視している? ような状況だった。
このライアン教第十一師団のメンバーは団長のクルドと副団長のイズバルがBランクで後の団員はCとDが半々といった編成である。<人魔大戦>の基準だと微妙な戦力に感じてしまうが、この世界ではそこそこ頼りにされるほどの部隊である。しかもこれが十一番目である。これはライアン教がこれ以上かこれに匹敵する戦力を最低でもあと十師団持っているということである。この戦力から考えるとライアン教は新参の宗教団体でありながら、そこそこの影響力を持っているということになる。
普通ならばこの状況でライアン教の聖騎士団が割り込んでいくことはない。そんなことをすれば周りのスノーハウンドも参入してくるからである。スノーハウンドはCランクなら一人でもなんとかなるがDランクだと一人では厳しい相手だ。それがオルトロスハウンドの指揮のもと襲い掛かってくるのだ。そうなれば数の優位などすぐにひっくり返され全滅の危機に陥ることになる。
しかし、このとき団長のクルドは内心焦っていた。この直前に討伐に向かっていたケルピーの群れはギルドの受付の手前ああいったが、実際は冒険者が前線でほとんど片づけてしまい後方支援を担当していた彼らの出番は全くと言っていいほどなかったのだ。つまり何もしていないといわれても仕方ないような結果だったのだ。そして今回の討伐で何もせずに戻って遠征を終えて戻ってしまうと今回の遠征は何の意味もないものになってしまう。
ライアン教はここ数十年で広まってきた新興宗教である。この新興宗教であるライアン教が影響力を持ってきたのはアルバンス帝国が国教に指定して広めてもらっただけでなく、緊急性の高い依頼やレベルの高いモンスターや盗賊団などを狩ることによって名声を高めてきたからである。
つまり何が言いたいのかというとこのまま手ぶらで帰ると団長であるクルドの立場はよくない方向に向かっていくことになるということである。
そしてクルドはそれを当たり前ではあるが望まない。だからここで通常ではありえない行動をとる。
「全員、剣に魔法をまとわせろ。それが終わり次第突撃する!」
小声だが全員に伝わるようしっかりした口調で告げる。
「しかし!この状況ではギルドとの協定違反になるのでは?」
副隊長のイズバルが諫めようとするがクルドは
「このまま何もせずに帰るわけにはいかんのだ。そうなれば俺たちは全員左遷されかねんぞ?いいのか?ここはやるしかないんだ。冒険者には当初の予定通り死んでいたことにすればよい。ドレッドノートベアはもう瀕死の状況だ残りのオルトロスハウンドとスノーハウンドは全員でかかればなんとかなるだろう。やるぞ!」
クルドの言葉に全員が覚悟を決めて剣に魔法を思い思いにまとわせ準備を進めていく。
彼らは知らない。彼が望んだわけではないが<人魔大戦>というゲームで最も恐れられたPKであったことを、、、。




