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ルドヴィル、企む(本人比:少々)

 (わたくし)がエードルフ様を出迎えたとき、明日は空からスライムが降るかもしれないと思いました。


「お帰りなさいませ。随分と遅かっ……!?」


 何故なら、団長のマントを身に纏った女性を横抱きにして魔の森から戻られたのですから。

 そのまま息が止まって二の句を継げず、情けなくも腰が抜けそうになってしまいました。


「ああ、ルドヴィルか。今、戻った。4階の客間使うぞ」


 そのままご自身で4階の客間に連れていき、

「ルドヴィル、これ、ハルナに渡してやって」

 と言って、ご自身の下ろしたての肌着やシャツ、上着とトラウザーズを私に預けたのです。


 な、な、な……、

 なんということでしょうか!!!


 エードルフ様は少々図体が大き……いえ、身長も高く、騎士として鍛え上げた肉体は大分ガッチリしていて基本、貴族女性には怖がられるか、避けられる事が多いお方。

 平民人気は高くても、貴族女性にはあまり持て囃されるタイプではありません。

 元々貴族同士の付き合いが不得意なため、ますます社交界から遠ざかっていたエードルフ様が、あのように自分から女性の事を気にかけるなんて、本当に久しぶりの事だったのでとても驚いてしまいました。


 ご理解頂けますか? 私の衝撃が。

 降るのはひときわ(たち)の悪いブラックスライムかもしれません。


 いけません。取り乱してしまい、大変失礼致しました。

 自己紹介が遅れ、申し訳ございません。


 私はルドヴィル・グリューネヴァルト。気楽な貴族の四男坊です。

 継ぐべき家もないので、こうして騎士兼エードルフ様の相談役のような事をしております。


 お連れになった女性はハルナさんと言い、傷だらけの身一つで()()魔の森の真ん中にいたのに、魔物どころか獣にさえ襲われた様子がなかったそうです。


 ああ、これは……彼女が聖女でしょうね。


 エードルフ様は何も持たない彼女にマントを貸し、その際、ちょっとした不手際でブローチと契約してしまい、聖女様を放っておけるわけもないので、とりあえず塔へお連れしたそうです。


 エードルフ様はご自身の着替えをしながら、エードルフ様は言いました。


「ハルナを着替えさせたら、執務室へ連れてきてくれ。疲れているようなら無理はさせなくてもいいけど、少し話を聞きたい。ルドヴィルも付き合ってくれ」


 私はその言葉に頷き、深刻そうな顔と同情心で半々の複雑な顔で執務室に向かうエードルフ様を私は引き止めました。


「承知しました。エードルフ様、私も少々お話がございます」


 エードルフ様は私の発言に立ち止まって振り返り、青い目がじっと私を見つめます。


「彼女が聖女かどうかか?」


 私はゆっくりと頭をふり、答えます。


「いいえ。彼女とは契約解除のお話をしましたか?」

「いや、それはこれから話すけど……どうして?」

「それは良うございました。では、今回の話はすべて私がします。エードルフ様は決して口を出さないでください」

「いいけど……。何を企んでるのかは後で話してくれよ」

「もちろんお話致します。エードルフ様の協力も必要ですので」


 あれほど女性を避けていたエードルフ様があの反応です。

 これを逃す手はありません。

 異世界人ならエードルフ様の素性もしばらくは伏せておけるでしょう。


(ハルナさんはともかく、エードルフ様が私にうまく説得されてくれれば良いのですが……)


 いいえ、されてくれればではなく、説得せねばなりません。

 こんな大きなチャンス、もう二度とないのかも知れないのですから。

 私は緊張で身震いを一つして、エードルフ様からの着替えを持ってハルナさんの元へ参りました。


 ※ ※ ※


 エードルフ様のシャツや上着はハルナさんには大きすぎたようで、小柄な彼女の膝丈まであり、一緒に渡したトラウザーズは履かれずに返ってきました。

 袖は随分とまくり上げ、シャツから覗く下履きすら折り返されています。

 おかげで執務机でエードルフ様が赤くなり、横を向いて咳払いを一つしました。

 これ、上着がなければ完全に商売女の姿ですねぇ。彼女はわざとそうしたのでしょうか。


「えーと、ハルナさん? 何故、下は履かなかったんですか?」

「ええ!? シャツの丈、これだけあれば、十分膝丈ワンピースだし、あの皮パンツ、ゴワゴワして着るのに時間かかりそうだったので。何か不味かったですか?」


 ひらりひらりと裾を左右に揺らして、ハルナさんはにっこりと微笑みます。

 彼女には慎みという概念はないのでしょうか?


「失礼ですが、ハルナさんは未成年なのでしょうか?」

「いえ、成人済みですが……。あ、そっか。こっちにはこういう短いスカートとかなかったりします?」


 ハルナさんは思い付いたように、上着をつまんで裾を太ももの真ん中まで引き上げました。

 エードルフ様は鼻息も荒くジロジロ見たかと思うと、我に帰り更に赤くなって机に突っ伏してしまい、私も片手で頭を押さえました。


「あのですね、ハルナさん。貴女のその下履き姿も素足を見せる仕草も、商売女が『私と寝台を共にしましょう』と男性を誘う行為なんです。軽々しく男性の前でやるべき事ではありません。自分の品位を下げる振る舞いですよ」


 ハルナさんは少し考え込み、はたと思い当たった様子で私に


「しょ、しょっ、商売女…商売女ってもしかして……?」

「ハルナさんのご想像通り、()()()()……お仕事をされている女性の事です」


 一瞬の間があり、彼女は絶叫しました。


「えーっ!! せっかく若返ったのにミニスカ禁止なのーー!!」

「もういい、ルドヴィル。話を進めろ」


 今度の聖女様は中々逞しい聖女のようです。

 帰りたいと泣かれるより、ずっと楽ですね。

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