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嘘つき達の夜(エードルフ)

 話し足りなそうな兄上を少々強引に振り切り、俺は急いでハルナを迎えに行った。

 月が真上に届くまで、あと少しの時間しかない。

 なのにハルナは広場におらず、その辺を歩きに行ったと肉屋のおっさんが教えてくれた。

 何だと! 迎えに行くまでここから動くなとあれだけ言い含めていたのにこれだ。

 様子を見とけと頼んだアーヴィンもシルヴァンもいないじゃないか。


 ――おいおい、お前ら。俺に吹っ掛けるとは、三人ともいい度胸じゃないか。


 良かろう。団長命令を無視したアーヴィン、シルヴァン、ハルナはそれぞれ次回給金を減らすことに決めた。

 肉屋のおばちゃんは「見つけても野暮な事はするんじゃないよ。団長!」と叫んでるが、はっ、そんなの無視だ、無視。

 ハルナが泣くとこなんか見たくないだよ!

 俺はハルナの気配を辿って、町中へ探しに出た。


  ※ ※ ※


 ハルナはあっちへフラフラ、こっちへフラフラと定まらぬ足で猫と戯れたかと思えば、立ち止まってライラックを眺めたりしていた。

 左手のリボンは結局、誰にも解かれておらず、とても安心したと同時に、思った以上に俺の心はハルナに占められている事に気づかされた。

 まずいな。本当にルドヴィルの言う通りじゃないか。


「こーら。襲うぞ。この酔っ払いめ!」

「へっへーんだ。ハルナさんはぁ…言いつけに背く悪い子だもーーん」


 ハルナは捕まえようとする俺をよけ、石畳をふわふわと歩いて、ふわふわ笑う。

 俺を見る目はトローンとしてるし、顔だって赤いし、何だよ、かわいいじゃないか。こんなの反則だろ。

 他の男が見たら本当に襲われるぞ。けしからん。無防備にも程がある。

 酔いがさめたらちゃんと叱って、もう人前での酒は禁止しないと。


「ねー団長ぉ……。今日はぁ、何があってもなかったことになる日、なんですよね?」

「そうだな。今日の事は明日に持ち越さないのが決まりだ。金を借りてもすっとぼけられるぞ」

「あ、それいい。団長からお金借りて、ルドヴィルさんの借金ぜーんぶ綺麗にして、団長にゆっくり返すの!」

「だけどな、ハルナ。こっちの言葉に、“プルファの日、金を貸すバカ、借りないバカ”ってあって、基本貸す人はいないんだよ」

「あはっ! デスヨネー」


 からからと笑って、ハルナは急に振り向いて、左手をひらひらとさせた。


「ねー。団長はぁ……コレ、解きたい?」


 ――解きたいよ。


「ハルナさんは本当に酔ってるな。もう帰ろう」


 頼むからさ。

 俺以外の男にそんな顔見せるなよ。

 本当は俺、嫉妬深くて独占欲でみっしりの男なんだぞ。

 なんせ俺は、聖女に恋焦がれて強引に契約し、元の世界の記憶を消して閉じ込めた悪い男の末裔なんだからな。


「えー。ハルナさんピッチピチの25歳だよ。そんなに魅力ないかなぁ~~」


 あるよ。

 今からハルナの手、離すことを考えるのが怖いくらいに。

 だから、元の世界に帰りたいって言わないでくれよ。

 こっちに残るって言え。こんなにもハルナの事が好きなんだ。


「解いても、いいのか?」


 こんなに酔ってるなら、きっとハルナは今の会話も明日には忘れているかもしれない。

 月はもう真上で、ほとんど白みかけている、紫の光。

 あと少しで特別な夜も終わってしまう。


「団長なら、いーよぅ~~」


 呂律の回らない調子で、ハルナははい、と左手を差し出す。

 取った左手はほんのりと熱く、リボンを引けば、するりと簡単にほどけた。

 だけど解いたと同時にプルファの夜は終わり、いつもの白い月の光に変わる。

 祭の時間はおしまいだ。


「残念、時間切れだ。帰ろ、ハルナ」


 俺は取った左手を離してポンと頭をひとなでして、そっとリボンを隠しにしまいこんだ。

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