表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

5.人の趣味に感染されがち クラレイ


雲一つない快晴。吹き抜ける風は火照った体を冷やすのに丁度良く涼しい。

学園内にある、訓練場では卒業後に騎士を目指す生徒が模擬剣を使った訓練を行う。授業を終えた放課後、週に何度が講師が付き、訓練を受けることが出来る。

講師がいない日でも、自由に訓練場は使える。今日は講師が来る日だったので、生徒の数は多かった。

模擬剣を片付け、こめかみを伝う汗をタオルで拭い、友人に目を向ける。


「どうした、クラレイ」

「……いい筋肉してるなぁ、と」


ずっとリーリアの話を聞いてきたせいか、妙にディナルドの筋肉が気になってしまう。

自分にはない、筋肉の厚み。しっかりとした胸板に、盛り上がった肩。がっしりとした腕、丸太の如き脚。どっしりと構えた姿は圧さえ感じる。

お淑やかな令嬢は、ディナルドを見た目で判断し、怖いと言う。


クラレイも、付きまとってくる令嬢たちに何故ディナルドと共にいるのか、あんな怖い人と一緒にいたらクラレイの評判が下がる、云々。

失礼極まりない話だ。人の外面しか見ないのは愚かだ。


リーリアと仲良くなったのは、彼女が外見で判断しないから。

確かに、ディナルドに対しては外見重視ではあった。けれど、じっくりとディナルドを観察していた彼女は、彼の不器用な優しさや、見えないところで努力しているのを知っている。

それに、俺のことも。同性からの僻みや、異性から向けられる歪んだ愛を受け流すために愛想を良くしていることを理解している。


無駄な気を遣わないリーリアとの時間はとても心地いいものだ。

ディナルドとの時間も気を遣わないが、幼い頃からの付き合いが影響しているだけだ。


「……お前も、筋肉はしっかりついているだろう?」

「多少は。骨格の問題なんだろうな。鍛えてもそんながっしりしないんだ」

「家系の問題もあるかもな。うちはみんな厳つい。あぁ、でも俺は脂肪が付きやすい」

「俺は全然脂肪つかない」


筋肉は元々脂肪だ。

鍛えれば脂肪は筋肉に代わり、鍛練を怠ると筋肉は脂肪に戻る。

ディナルドは良く食べる。それはもう、凄まじく食べる。多分リーリアの食べる量の十倍くらい食べる。リーリアが食べなさすぎるだけかも知れない。


学園の鍛練場からは、今日のノルマを終えた生徒達がどんどん帰っていき、最終的に俺とディナルドだけが残った。

とりとめのない話をしていると、俺しか残っていないと思っているのか、リーリアが走ってきた。


「クラレイー! 帰ろおぉあ、ああぁ! ディナルド様!」

「……リーリア落ち着け」


リーリアは俺の横に立つディナルドを瞳に映すと分かりやすく狼狽え、止まるかと思いきや、その場で足踏みしていた。いや、本当なにしてるんだこいつ。

ディナルドは普段見かけるぽやぽやした可愛らしい令嬢の豹変ぶりに目を白黒させている。普段表情を抑えている男が分かりやすく表情を変えているのがなんともおかしい。


「驚くディナルド様も素敵……。じゃない! ごきげんよう、ディナルド様、クラレイ様」


今更取り繕っても意味がないだろうに、漸くその場での足踏みをやめ、制服のスカートを摘み優雅に礼をして見せる。

まだディナルドは混乱をしている様だが、リーリアに挨拶を返していた。


俺とリーリアは仲良くなり、良くお茶を一緒に飲むが、放課後の話だ。

普段はリーリアは一人、空き時間があるとテラスの端を陣取り、通りかかるディナルドを眺めて過ごしている。大体テラスにいるので、授業に出ているのか疑問に思うくらいだ。

リーリアとはクラスが違うので普段の彼女を全く知らない。


「リーリア嬢は、クラレイと仲が良いのか?」

「えぇ、あの日から仲良くさせていただいてます」


にこり。穏やかに笑んで見せるリーリアはとても幼く、可愛らしいが目は全く笑っていない。


ちなみに、あの件とは俺がリーリアを図書室に連れ出した日のことだ。

ディナルドも俺がリーリアを連れ出すのを見ていた上に、その後俺とリーリアが戻ってきて一緒に昼食を摂ったので、すぐに思い出したらしく、小さく「あぁ」と声を漏らした。


「あの日からずっと?」

「あまりにも噂になるので、人目を避けてました。不名誉なので」


じとりとリーリアは俺を睨む。

ディナルドはきっと、リーリアが俺に目を向けただけに見えていることだろう。穏やかに見えて、リーリアは喜怒哀楽の起伏が激しい。優しすぎる顔立ちが覆い隠しているだけで。


彼女の言う不名誉な噂とは、「リーリアがクラレイに恋をしており、奥手ゆえにずっと眺めていただけの彼女に気が付いたクラレイがその手を取った」と言うものだ。

「付き合ってませんよ」と張り付いた笑みに書いてある様だ。リーリアは全身全霊でディナルドに弁解しようとしている。


ところがディナルドは、とても鈍い。

婉曲に伝えようとしても無意味なのだ。長年の付き合いである俺が太鼓判を押す。

人の感情の機微にも疎いので、リーリアの様に表情と感情が伴っていない相手に対し、表面上でしか汲み取ることが出来ない。故に。


「……クラレイは、見た目こそ派手だが、一途で真面目だ。リーリア嬢、諦めるには早いと思う」

「ディナルド様…………。本当にクラレイ様とはただの友人でそういう感情は持ち合わせてないのです」


見当違いな応援をリーリアに送っている。

ちなみに、リーリアは半泣きだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ