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4.その感情はなんなのか クラレイ


「今日もディナルド様素敵だった……」


目の前には紅茶をそっちのけで頬を紅潮させる令嬢が一人。

いつもながら、毎日毎日噛み締めるように想い人に恋い焦がれる熱量にはただただ関心の一言に尽きる。

この目を、表情を、感情を、自分に向けてくれないかと焦がれるが、目の前の女は一途にただ一人だけしか瞳に映さないのだった。


リーリア・ハールデント。

同年代の令嬢と比べ、随分と低い背丈は出会った頃からまるで変わらず。まるで動く人形の様だ。

手足は細く、体には余分な脂肪など全くついていない華奢過ぎる体型。

若葉色のふわふわとゆるくカールした腰まである髪と、黒目が大きく、目尻が垂れた、紅葉色の瞳、唇はぽてりとしており、丸みのある頬はいつも薄く色付いており一見すると穏やかでぽやぽやした敵意を感じさせない癒し系にも見える。


背が低いため歩く速度はかなり遅く、よくぽてぽてと、またはとてとてと可愛らしい効果音が聞こえてくる様な、微笑ましい様子を見かける。本人としては必死に歩いているのだろうが、周りからは小さな子供が歩いているようでついつい頬が緩む。


リーリアと友人と呼べる関係になって暫く経ったが、穏やかな見た目と反し口は悪い。

普段は上手く隠しているが――隠すと言うよりもただ喋らないだけだが――俺と二人きりの時はまるで隠すつもりはないらしい。リーリアと友人になった日、ディナルドと共に昼食を摂った時も借りてきた猫の様に大人しかった。目だけはきらきらと輝いていたが。

嬉しいかと聞かれたら、微妙だ。必要以上に気を遣う相手だと認識されていないのは喜ばしい事ではある。


不定期にリーリアと二人で茶を飲む。

それは三日に一回だったり、一週間に一回だったり、はたまた二日に一回だったり、まちまちではあるが。

学園のある王都の貴族向けの店が集まった、通称貴族街にあるカフェにどちらかが誘い、時間が合えば紅茶を飲みながら話をする。話すのは主にリーリアだが。


「ディナルド様って本当に寡黙だわ。表情が変わるところ見たことないもの」


リーリアがディナルドについて語る時、俺が聞いていても、聞いていなくても構わないらしく、相槌を打たなくても勝手に話は進む。

皿に盛られたクッキーを一枚取るとリーシアはさくりと食んだ。


ディナルドの次に甘いものが好きな彼女は目をキラキラと輝かせ、頬を緩ませ、なんとも嬉しそうに顔を蕩けさせた。

全体的に幼い彼女が、時折、やけに色気を放つ時である。


ディナルドを眺める時と甘いものを口にした時。

つい生唾を飲み込んでしまう程に、色香を放つのだった。


入学当初、ディナルドに向けられたその表情を自分に向けられていると勘違いしていた。

自意識過剰も甚だしい。彼女を呼び出してお前じゃないと言われたのが懐かしい。


「クラレイはムカつくくらいモテるよね。外面がいいから?」

「外面に関してはリーリアに言われたくないんだけど」


いつの間にやら、リーリアの話はディナルドから俺に移ったらしい。

軽口に応対すると、にまりと笑むリーリア。

友人としてお互いを認めて早数か月。リーリアはどうやら気軽に軽口を叩ける俺との会話を気に入ったらしい。本人は認めないだろうが、表情が物語っている。

とはいえ、仲良くなったから区別が付くだけで、何も知らない人間が見たらリーリアの楽しそうな笑みは穏やかに笑んだ程度にしか見えないだろうけれど。


「私は黙っているだけ。周りが勝手に穏やかだとかおっとりだとか癒し系だとか言っているだけだわ」

「確かに実際は口が悪くて筋肉好きの変態だとは思わないな」

「筋肉が好きなのは変態ではないでしょ! あれは芸術! そう、芸術なのよ!」


瞬間的に目の色を変えて抗議するリーリアに思わず吹き出すと、頬がぷくりと膨らんだ。

眉を吊り上げ、頬を膨らませて口をへの字にして、怒っているアピールをする姿はとても可愛らしい。


また筋肉の、いや、ディナルドの話に戻ったリーリアは俺の返事を聞かず、待たず、一人で喋り出した。

俺は、同い年と思えぬ幼い顔を眺める。にやけそうになる口元を、必死に引き結んだのだった。


誰にも、この気持ちはばれたくなかったから。


すみません、視点はわりところころ変わります。

練習にと書き始めたもので、色々と稚拙ですが、今後も宜しくお願い致します。

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