35.誰もが皆皮を被っている リーリア
サブタイトルのセンスが欲しいです。
「何がちょっとした怪我ですか! 保健室に行きますわよ!」
「それには及びません」
焦げて嫌なにおいのする腕に、無事な方の手をかざし、聖魔法を発動させた。
患部を覆うように光の粒が現れ、霧散した時にはすっかり怪我は治っている。制服が無残に焼き焦げているだけである。
メリーエンヌは一瞬だけ、眉根に皺寄せたがすぐにそれを解いて、恐ろしいほど冷たい表情に切り替える。
「カリベル。感情のままに魔法を暴発させるなど、酌量の余地もありませんわ。沙汰をお待ちなさい」
「メ、メリーエンヌ、様……」
「私を盾にリーリアを甚振ってやろう、などとお考えなのを私が気が付いていないとでも?」
「それは」
じり、とカリベルは真っ青になりながら後退る。カリベルが責められている今が好機だと思った取り巻き令嬢たちはこそこそと部屋を出ていく。
呆れた様に溜め息をひとつ落とし、取り出した扇を開いて顔を隠し、メリーエンヌは吐き捨てた。
「自分の行いを反省してくださいませね」
喉が引き攣り、声が出せないカリベルは脱兎のごとく足音も騒がしく出て行った。
さらにもうひとつ溜め息を落としたメリーエンヌはぱちりと扇を閉じて、部屋に残った面子を見まわし、小首を傾げた。
「騒ぎを聞きつけて、人が集まり始めましたね。場所を移動しましょう」
異存もなく、私もクラレイも大人しく頷いた。
学園内を少しばかり歩き、辿りついたのは、図書室の勉強に集中する為にと作られている部屋にクラレイが誘導する。
扉を開け、メリーエンヌと私を招き入れるクラレイ。そこには、ディナルドが待ち構えていた。
「……。……レイ、この状況は」
「あぁ、今から話すよ」
溜め息を零したものの、椅子を引くディナルド。メリーエンヌはにこりと微笑んで座った。
私もクラレイが椅子を引いてくれたので大人しく座る。隣に座るメリーエンヌは笑顔を浮かべているものの、刺さる視線は痛い。そして、正面に座ったクラレイからも。
掻い摘んで、メリーエンヌが、そして補足の様に、自分が見た情報をクラレイが添え、お茶会での出来事をディナルドに伝え終わる頃には、ディナルドからもじとりとした目を向けられる。
「なんですか、その視線。私頑張ったのに」
「普通の令嬢は、口だけで凌ぐのですわ。体を張るなんて、貴方が聖属性持ちだから出来る暴挙でしてよ。見てるこっちの身にもなって欲しいわ」
「メリーエンヌ嬢に同じ」とクラレイ。
「さらに同じ」とディナルド。
味方がいない。机に突っ伏したくなるのを、理性を総動員で必死に留める。クラレイと二人きりならまだしも、ディナルドもメリーエンヌもいる。微かに漏れた呻き声は容赦してもらいたいところだ。
「……リーリア?」
地を這うような低い声。それはまるで地獄から響いているかと錯覚してしまいそうにもなる。
机の上に縫いとめていた視線を恐る恐るクラレイに向けると、こめかみには青筋が立っている。うん、これはまずいかも知れない。
言い訳が聞いてくれそうな雰囲気でもなし、助けを求めるように視線を彷徨わせ、ディナルドとメリーエンヌに向けるも、そっと目を逸らされる。
メリーエンヌは微笑みを張り付けたまま。ディナルドは相変わらずの無表情だ。
腹をくくらねばならないようである。
これぞ、四面楚歌。
「いいか、今後このような無理はするな」
「は、はぁい」
「歯切れが悪い。もう一回」
「はいはい」
「ふざけてるのかお前は」
負傷したお前を見て、どれだけ胆が冷えたと思っているんだ、と苛々した口調で吐き捨て、立ち上がってわざわざ私の背後に回り込み、クラレイは私の頭を両手で包み込んだ。
そして――。
「いだだだだ!!!! 淑女の頭よ! 潰そうとしないでくれるかしらこの顔面が綺麗なゴリラ!」
「本当に減らない口だな。さっきの怪我の方が痛かっただろうが」
「いやもうあれは興奮してたから痛みとかそんな次元じゃないし、もうやめていだいいぃぃ!!」
ぎゃあぎゃあと喧しく騒ぎ散らし、クラレイから逃げようと手足をばたつかせていると、「コホン!」と咳払いが響き、私は我に返る。
そうだった、私とクラレイ二人きりなんかじゃなかった……。
「仲が随分とよろしいのね。とりあえず、落ち着いて話しませんこと?」
騒がしいから黙れ。言葉の裏に隠された意味を汲み取り、私は震える口を必死に閉ざした。
今現在、この場を握っているのは、美しい笑みを顔に讃えているメリーエンヌだった。
ここしばらく忙しく時間が確保できずに随分間が空いてしまいました…!
新年早々引っ越し、仕事詰め、体調不良で寝込んでました。言い訳です。
思っているよりも話が全く進まない。亀の歩みです。