3.恋ではないが友情はあった リーリア
仕方ない。私も鬼ではない。
どこか落ち込んでいる様子のクラレイに私は笑みを向ける。
「ディナルド様の体型は素敵ですものね。前面に押し出された圧は強者の風格を感じますもの」
「俺はあそこまでは求めてないけど」
乾いた笑いを零すクラレイは諦めにも似た表情が浮かんでいた。
生まれ持った物は取り替えられない。努力で補うには限界がある。
もしクラレイが引け目を感じているのだったら、私は彼に酷いことを言ってしまったことになる。
「申し訳ありません、クラレイ様。えぇと、クラレイ様も鍛えていらっしゃるのはわかりますわ」
「斜め上の慰めだから、それ。うん、大丈夫」
慰めはいらない。
しょんぼりした様子に、彼の頭にへたれた耳が見えた気がした。
(小型犬みたいだわ)
ちょっと撫でたい。でも失礼に当たるだろう。
意味もなく椅子に座りなおして気持ちを切り替える。
「君はディナルドの事が好きなんだね」
「はい。貴方は眼中になかったです」
言い過ぎたかも。そう思った時にはまた影を背負ったクラレイの姿。
「わりと直球で言うよね、君」
「あ、すみません」
口を自らの手でそっと抑える。
じゃじゃ馬だと家族には口を揃えて言われるし、極力口は開くなと釘を刺されるし、自覚は十二分にある。入学してから極力人付き合いを避けていたのに、ボロが出た。
「いいよ。取り繕わなくても気にしないから。俺もこっちの方が楽だ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
どうせ今は誰も聞いていない。
目の前の男が許したのだ。後々やっぱり取り消し、なんて言わせない。
私だって人を避け、表を取り繕って我慢していて、少し耐えきれなくなっていた頃合いだ。
「じゃあもういいかしら。ディナルド様に誤解されそうだから戻りたいのだけれど」
「待って、リーリア。お昼ご飯は食べた? ディナルドも呼ぶから一緒にどう?」
「……喜んで!!」
現金だろうが構わない。
立ち上がった私の手首を捕らえ、懇願するように夜空色の瞳をこちらに向ける彼。
ディナルド様と一緒ならいつもの学食のランチも私にとっては素敵な物になるだろう。
快諾した私に、クラレイは嬉しそうに破顔した。まるで花開くような笑みだ。
「エスコートさせてもらえるかい」
「宜しくお願いします」
そっと手を差し出され、手を重ねる。
私の背の高さに合わせ、腰を低く屈んでくれているクラレイはなんだか不格好だ。
彼がモテる理由もなんとなくわかる。この役目を彼に恋い焦がれる令嬢達に明け渡したい気分だ。
私にはむず痒い。学園に入るまで色恋と関係ない生活をしていたせいか。
「腰痛いでしょ」
「うん、まぁ」
「きっといつか私もすらっとした高身長美人になってディナルド様にふさわしくなるから大丈夫」
「君の根拠のない自信はどこからくるんだ」
小さな胸を張ってみる。
呆れた様なクラレイが遠慮なく言葉をぶつけてくる。
初めての学園で出来た友人がキラキラしい男になるとは想像もしていなかったものだ。
「知らないの? 夢は口に出すと叶うものよ」
クラレイがなにかボソッと呟いたが、背の高さが違うので、彼の頭は遠く、何を言ったかは全く聞き取れなかった。
「お互いこれはきついから、私はあなたの裾を掴むことにするわ」
手を離し、降ろされた腕の裾を掴む。これならクラレイは腰を屈めなくて済むし、私は彼の腰を心配する必要もない。屈み続けるのは中々しんどいだろう。
後々、この日の私達を目撃した生徒から親鳥と雛鳥だと揶揄されるのだがまた別の話。
歩く速度を緩めてくれるクラレイは確かに紳士だった。
この後、ディナルドと共にランチを共にした私は嬉しさと恥ずかしさで頬が緩みっぱなしだったことをずっとクラレイにいじられ続ける羽目になるのだった。
ともあれ、私は世話焼きで心配性でいて、少し意地悪な友人を得たのだった。




