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28.身勝手な保護者登場 クラレイ

小さな背中が遠ざかっていくのを眺めながら、何度か躊躇う素振りを見せた後、ディナルドは決心したのか、俺に問う。


「クラレイ、事情を聞いてもいいか」

「……あぁ。話す。授業が終わってからでもいいか?」

「構わない」


ディナルドの耳にも、噂は入っているだろう。

俺とリーリアに婚約の話が持ち上がっている事や、休日に二人で出掛けていた事など。

本来なら、すぐにディナルドに言うべきだったのかも知れない。だが、ディナルドがリーリアに想いを寄せている事を知りながら、婚約者候補に乗り上げた事実を正直に伝えるには、心の準備がどうしても必要だった。

いつか、と先延ばしにしていた結果がこれだ。


表情があまり変わらず、寡黙なディナルドは何を考えているのか分かり難い。

以前はうまく言葉を引きだし、その心情を推測していたが、今回はそうもいかない。

ディナルドが素直に想いのままを語ってくれるとは思えなかった。


幼い頃から、家同士が仲良く、自然と共に過ごしてきた。

成長と共に、体格に差が開いていった。正直、鍛えても鍛えてもディナルドの様に目に見えて逞しくなれずに、彼に嫉妬した事もある。

真摯に、鍛練に打ち込み、真面目で頑固なところがあり、口下手故に異性はおろか、同性からも遠巻きにされがちなディナルドのことを、友として尊敬しているし、好きだ。

だからこそ、彼がリーリアへの気持ちを自覚した時、応援するべきか悩んだ。けれど、譲れなかった。俺も、リーリアが好きだったから。


お互い、何も喋らず、次の授業で使う教室に向かう。


授業中もディナルドの視線を感じた。気になるのだろう。

申し訳ない気持ちを抱えながら、どう説明するべきか悩む。もっと早くに話すべきだった。情けなくうじうじ考えている間に時が流れた。


ディナルドは良い奴だ。

回りくどい俺と違い、真っ直ぐで素直だ。正直、リーリアとお似合いだとも、思う。

結局自信が無い。元々リーリアがディナルドを見つめていたのを知っているから余計に。

だから、敢えてディナルドにも、リーリアにも何も言わなかった。

もし、俺とディナルドが並んでリーリアに想いを告げていれば、リーリアはディナルドを選んでいただろう。間違いなく。


リーリアの家族、あの兄二人に気に入られ、婚約者にと推薦されたのは、願ってもない幸運だった。

ディナルドには申し訳ないとも思った。リーリア本人に選ばれるのではなく、彼女の家族に選ばれた。

ヒッポグリフからリーリアを奪い返したのが俺だっただけで、もし俺じゃなくディナルドが助けていたら、きっと彼が婚約者にどうかと持ちかけられただろう。


ただ俺がディナルドよりも先に動けただけの話だ。

ディナルドも騎士を目指して訓練を積んできた身だ。俺とは違い思慮深く、慎重なきらいがあるので、最善を考えている間に、俺が先を越しただけの話だ。


リーリアがヒッポグリフに連れて行かれそうになっているのを目にした時、咄嗟に動いた。

俺なら助けられると思った訳ではない。なにせ相手は日常ではお目にかかれない伝説の生き物だ。

けれど、何もしない訳にはいかなかった。なにもせず連れ去られてしまうのと、なにかをして連れ去られてしまうのでは、その後の後悔の大きさが変わると思った。

手を伸ばしても届かなくても、伸ばす努力はしたかっただけだ。運よくヒッポグリフがリーリアを返してくれたので良かったが、振り返っても短慮な行動だと自分でも思う。


思考の渦に取り込まれ、授業には全く集中出来ない。

惰性で板書をノートに写し、教師の付け加える一言をノートにメモをする。

幸いにも予習をしていた場所であり、教師にあてられることもなかったので、ぼんやりしていることはばれない。


そっと窓に目を向け、雲一つない抜けるような青空を眺める。

開け放たれた窓からそっと入り込む風が髪を揺らす。


ふと、空に鳥にしては大きな影が飛んでいるのを見つけた。

嫌な予感がする。そして、嫌な予感とは大抵当たるものだ。次第に影は大きくなり、羽の生えた馬のような姿が目視出来るようになり、溜め息を飲み込んだ。


(・・・・・・諦めが悪いのか)


リーリアは大丈夫だろうか。彼女の事だから、ある程度は自分の身を守るために行動できるとは知っているが、クラスが違うため、傍にいれないことがもどかしい。


『気にするな。我は見守っているだけだ。あの子に嫌われたくはない』


脳に直接響く声に目を見開いてしまう。今は授業中だ。不審に思われてしまう。

窓から目を逸らし、板書を写すふりをして俯く。間違いなくあのヒッポグリフからだ。心臓に悪いのでやめてほしい。


(気にするなって、気にするに決まってる。また誘拐されそうになったら溜まったもんじゃない)


試しにと、ヒッポグリフを頭に思い浮かべながら、言葉を飛ばすつもりで念じる。

果たして、声は届いた。


『緊急事態以外はもうしないから安心しろ。あと我が見守っていることはあの子には黙っていろ』

(緊急事態でもして欲しくないんだけど? なんかもう我儘だな)

『仕方がないだろう、お前が妥協しろ。それにお前はいずれあの子と番うんだろう、お前の見張りも兼ねてるんだ』


色々と面倒くさそうなヒッポグリフに絡まれている。

なんだか次から次に面倒事が湧いて出てくるのは気のせいだろうか。

元々あるシーンが書きたくて書き始めたのですが、まだそこまでたどり着けてません。書きたいシーンが二つほどあって、どちらもこのヒッポグリフが活躍するある意味キーマンなのですが、なんだかアホっぽくなってきました。

ヒッポグリフのことは追々詳しく書いていく予定です。ちなみにまだ名前は決まってません。

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