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2.ただ純粋に筋肉が好き リーリア


クラレイに手を引かれ、彼の長い足が生み出す歩幅についていけず、半ば駆け足になる。

途中でクラレイは私が小走りなことに気が付き、歩く速度を緩めてくれたが、正直そこまでゆっくりでなくていい、とも思った。さっきまでの一歩を三歩で歩くスピードになってしまい、至る所から視線が刺さる。


疑問と興味に満ち溢れた視線。あるいは、嫉妬か。


ようやく着いたのは、図書室の勉強をする為にある個室だった。

複数人でも勉強できる様に少し広めの机と何脚かの椅子が備え付けられている。

勉強に集中が出来る様にと防音も完璧である。なるほど、聞かれたくない会話をするのにもってこいである。

なお、婚約者同士でもない男女が密室に二人きりになるというのは外聞も良くないので扉は少し開けたままである。

聞き耳を立てる度胸のある者は、いないだろうけれど。


お互いの正面に机を挟んで腰かける。

先に口を開いたのは、クラレイだった。


「単刀直入に聞きます。私は、貴方になにかしましたか?」

「いえ、なにも。興味もないです」


口元だけに笑みを浮かべるクラレイは細めた目をぎらつかせる。

対照的に、面倒になった私はそんなクラレイに半目で応戦する。


「……じゃあ、何故あんな顔をして」

「え、どんな顔です?」


眉根に皺寄せ、妙な色気を振りまくクラレイ。顔の良い男は苦悩に満ちた表情を浮かべているだけでも絵になるのか。

まぁ、興味はないけれど。顔が良いな、とは思うだけで。


それよりも、自分のディナルドを見ている時の表情はどんな顔をしているのか。

両手で頬を包んで見るが、何もわからない。幼少期から丸みの取れない頬がぷよんと揺れただけだった。


「あの」


ちらとクラレイを見ると顔に手を当て、横を向いていた。

あまりの頬の揺れに笑いを堪えているのだろうか。なんかむかつく。


頬を膨らませ、両手でふにふにと押して揺らす。

クラレイが気が付くまで、無言で揺らす。

ついにこっちを向いたクラレイは揺れる頬に笑いを堪え切れず吹き出す。


「やめてくれないか……!」

「やっとこっち向きましたね。さ、話を続けましょうか」


話が長くなりすぎると要らぬ誤解を受けそうだ。

落ち着いたらしいクラレイは、私にばれない様にと小さく深呼吸をしてから向き直る。


「改めて、クラレイ・ヴェルベルトと言う」

「あぁ、すみません。まだ名乗ってませんでしたね。私はリーリア・ハールデントです」

「それで、私を見ているときの君の顔は、とても幸せそうだ」

「理想の男性を眺めていたらそうなるかと」


クラレイは不可解そうな存在を見る目つきで私を凝視する。

私はすぐに失言を理解した。


「違いますよ。ディナルド様の方です」


間違いなく誤解しているであろうクラレイに釘を刺す。私の答えが悪かったけれども、勘違いなどしてもらっては困るのだ。

ただでさえディナルドに近いクラレイ。クラレイが誤解したら芋蔓式にディナルドも勘違いしてしまうだろう。


「ディナルド様を! お慕いしているの! で! す!」


ついムキになって机をバンバン叩く。言葉を区切るたびに机を叩く。

令嬢らしからぬ言動をしている自覚はある。

でも、別にクラレイに幻滅されたところで構わない。ほぼ素を出してしまっているがもう関係ない。

今後関わることは少なそうだし。私は今のところ眺めるだけで満足だし。


「本当に勘違いしないでください! いいですか、ディナルド様です。貴方は筋肉が足りませんから!」

「俺も、筋肉ある方なんだけど?」


クラレイは哀愁漂う切なげな表情を浮かべ、斜めに視線を落としていた。

きっと普通の令嬢であれば、その切なげな表情と迸る色気に頬を染めるか腰を抜かすか、はたまた気絶するのかも知れない。


一人称が俺に代わり、敬語が抜けているクラレイは思わず素を出している様だ。

私に釣られたのかも。


「足りません。私の理想は、服を着てもなお主張する筋肉なのです」

「あぁ、だからディナルドね」


うっとりとする私と、対照的にげっそりとするクラレイ。


「こればかりはどうしようもない問題ですね」


ところで、何故クラレイは落ち込んでいるのだろうか。

実はディナルドの体型に憧れているとか? 確かに、ディナルドは惚れ惚れする程素敵な体型だ。



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