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13.短気は損気 リーリア


騎士団本部から、二人の男が飛び出して来て、颯爽と私を捕らえた。

私とお揃いで、若葉色の毛先が跳ねた髪に鳶色の瞳を持つのは長男、ハーヴィン・ハールデント。

もう一人は、私とハーヴィン兄様よりも深い、暗緑色の髪に、山吹色の瞳で垂れた目元が私にそっくりな次男、ローレン・ハールデント。

ハーヴィンは、私を抱き上げたまま、上空に降り立つヒッポグリフを睨みつけた。


「あのヒッポグリフ、まだリアを狙ってやがんのか」

「昔追い返したのにな。懲りないやつだな」

「え? 初耳なんだけど」


歳が少し離れている事も手伝い、未だに幼子扱いをするハーヴィンは、降りようと暴れても降ろしてはくれなかった。一応私も貴族令嬢なんですけど。婚約者いないけど、兄妹だけど、外聞悪いと思う。あと、兄様の奥さんにまた死んだ目で「私よりも仲が良いのね」と言われてしまうかも。じたばたしてもびくともしない。


それに、ヒッポグリフに狙われたことあるなんて、全く知らない。


「と言うか、なんで抱きかかえる必要があるの兄様? 降ろして! おーろーしーてー!」

「お、活きがいいな。あと素が出てるぞ」


本気で暴れてやろうか。

ハーヴィンは涼しい顔で私を押さえつけている。ヒッポグリフを見据えたまま、私のことを放置するローレンにも、ふつふつと怒りが込み上げてきた。


「いい加減……」

「よし、やるか」


怒りをぶつけようと口を開いたが、ローレンに言葉は遮られた。

腰に佩いた剣をすらりと抜き、ローレンは力強く地面を蹴り、上空で待ち構えるヒッポグリフに向かう。彼の体を押す様に風魔法が発動している。矢のように一直線に神聖な雰囲気を漂わせる魔獣へと飛び込んでいく。


そして、ハーヴィンは出来るだけヒッポグリフから距離を取るためか、反対側へ駆け出す。

ローレンと同じく、身体を後押しするための風魔法が発動している。

ハーヴィンは背が高い分、足が長い。私の数歩分が一歩だ。確かに、兄が抱えてヒッポグリフから逃げたほうが効率がいい。一旦大人しくすることにした。


ハールデント領は、風属性の加護が強い土地だ。力強くも優しい風が吹く。

其処の領主である父も、子供である兄二人と私も、風属性魔法が使える。


ヒッポグリフは、伝説の存在と呼ばれるだけあり、普通の魔獣と一緒に考えない方がいいだろう。

風魔法が使える魔導師や、魔法使い、騎士が束になって向かっているが、羽を広げて風を起こすだけでかなりの威力がありそうだ。何人かが吹き飛ばされているのが見える。


翡翠城はかなり広い敷地を誇る。王のおわす城なので、狭いわけが無いものの、風魔法で随分と速くなった兄の足でも端までたどり着くにはもう少しの時間を有するだろう。

ちらりとヒッポグリフの方を見ると、早速こちらに向かって来ている。魔導師も、魔法使いも、騎士たちもみんな吹き飛ばしてしまったのだろう。

思わず、顔が引き攣る。


「えっと、あの、ヴィー兄様。来てます」

「あ? なにが?」

「ヒッポグリフ」


まるで空に道があるかのように、逞しい走りを見せている。

距離は徐々に縮んでいる。何故ヒッポグリフに執着されているのかは、全く分からないし、覚えてもいない。

私を何処かに連れ去るのかも知れないし、その場で噛み殺されたり、蹴り殺されたりするかも知れない。ただ、分かるのは、ヒッポグリフの目には私しか映っていない。


「アイツ、本当しつこいんだよ……!」

「昔追い返した時は、どうやったの。あんな無茶苦茶強いのを倒した……とか?」

「リアが怒って、説教して帰らせてた」


待って、昔の私強すぎない? いや、なにしてんだ。

でも、これって、また私が説教かなにかしなきゃいけないって事になるのだろうか。


ヒッポグリフとの距離はもうあと数メートル程しかない。

大きな嘴がぱかりと開き、前足がハーヴィンを襲った。ハーヴィンはなんとか片腕で攻撃をいなしたが、その隙に私はあっさりと腹部を嘴に挟まれ、兄の腕から奪われていた。


「ヴィー兄様、怪我は!?」

「こんなの、なんとも……、リア、待ってろすぐに」


どうやら前足で蹴られた右腕が痛む様で、取り繕ってはいるが、脂汗がにじんでいる。ヒビが入ったか、折れたのだろう。手を伸ばし、聖魔法を発動させる。

私の掌からふわりと、光の球が放たれ、ゆっくりとハーヴィンの右腕に吸い込まれていった。痛みが消えたのか、顔色がましになる。


ヒッポグリフはそれを見届けると、喉を鳴らし、空に向かう階段を駆け上がった。

この魔獣の考えは分からないが、すぐに殺すつもりなどはないらしい。


「何処に行くつもりなのよ」

『――私の住処だ』


頭に直接流れ込んでくる言葉に、思わず目を瞠る。

念話も出来るとは、ヒッポグリフ恐るべし。


「私、行く気ないんだけど?」


嘴に力を入れられて、ばきりと身体を折られてもいいように、いつでも聖魔法を発動できる様に準備をしたうえで、強気に吐き捨てた。


人外要素のヒッポグリフ君です。モテモテだねリーリアちゃん。

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