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10.秋にも春はやってくる クラレイ


背の高い男二人に詰め寄られたリーリアは仁王立ちしたまま堂々としている。

打ち合いをしていた生徒たちは手を止め、か弱き令嬢を助けるべきか悩んでいるのが、背後から雰囲気で感じ取れる。


「叔父様には今度伝えますわ。ほら、指示を出さないから皆様困っているじゃありませんか。私は邪魔をしに来たわけじゃありません!」

「あ、あぁ、すまない。打ち合いが終わったら走り込みだ。行って来い」


リーリアが毅然と大男に意見を述べる様に、感心したように見つめる男子生徒もいた。大概は「いや、君を助けるか悩んでいただけなんだけど」と顔に書いてある。

弱きを助ける、騎士道が身に染みている生徒たちは立派な騎士へとなることだろう。


ディルックはまだリーリアに構いたいのか、しきりにリーリアを振り返るが、当の本人は肩を怒らせ、「戻ってくるな、仕事をしろ」と目をぎらつかせている。穏やかに垂れた目が鋭い眼光を放つ様は異様で背筋がぞっとした。

顔立ちと中身が伴わないと、見た目に反した感情は時に恐怖を与えるのだな、と悟る。


確かに、厳めしい顔立ちのディルックやディナルドがだらしなく緩みきった表情を浮かべていると何とも言えない気持ちになりそうだ。

ディルックはリーリアを前にすると、よく周りにドン引きされるくらい表情を緩ませきっている。


「で? クラレイ様はいかがされたのです? そういえばディナルド様も訓練の姿が見られませんでしたね」


にこにこと笑みを浮かべてはいるが、纏うオーラはどす黒い。

こちらも対抗するべく、普通の令嬢に向ける笑顔を浮かべ、自分よりも遥かに背の低いリーリアを見下ろす。もし対峙するのがリーリアでなければ屈んで目線を合わせていたところだ。


「君の愛しのディナルドは不調だったので、私が説得し早上がりさせることにしたのですよ。そして、放っておけそうな状況では無かったので私も共に先に帰らせていただくために教官に相談していたところです」

「あら、それは失礼。引き止めて悪かったわね」


わざと丁寧な口調で説明を始めると、リーリアはぴくりと口元を引き攣らせたが、次第に落ち着いてきたのか異様なオーラは引っ込んだ。

すぐに踵を返してどこかへ向かおうとする小さな肩を掴んで引き止める。


「待て。この後暇か?」

「残念ながら訓練に混ざるつもりよ。……いや、剣は持たないわよ。魔法の練習させてもらうだけ」


女騎士を目指す者はいるが、かなり少数だ。しかし、リーリアは剣どころか重たい本数冊も持てるか怪しい細腕なので、思わず険しい顔をしてしまった。すぐさま表情を読んだリーリアは訂正を入れるものの、また疑問が湧いた。


「今まで魔導師を組み込んだ訓練はしていないが……」

「そうでしょうね。宮廷魔法使いを目指すものはいても、騎士団魔導師を目指すものは中々いないでしょ?ずっとお父様と叔父様に反対されていたけど、先日ようやく納得させて、訓練に参加する権利を得たんだもの」

「今まで時折訓練場に顔を出していたのもそれが理由か」

「まぁね。あとはディナルド様見れたらな~とは思ってたわよ。ちょっとだけね」


肩を竦め、無邪気な笑みを見せるリーリア。


「……リーリア嬢」


中々来ない俺に、痺れを切らしてやってきたらしいディナルドは、リーリアの姿を捕らえるとあと数歩の距離を残して立ち止まった。

何故だかいつもより、表情が硬くも見える。俺の知らない間に、なにかあったのだろうか。

対照的に、リーリアは普段通りだ。妙に開いたままの距離に不思議そうにはしているが。


「すまない、すぐに着替えてくる。少しリーリアと待っていてくれ」

「ちょっとぉ、さっきの話聞いてたの?」


更衣室に足を向ける。後ろから非難めいた声をあげるリーリアの言葉を、わざと無視する。

じりじりと焦げそうに刺さる視線は、間違いなくリーリアのものだろう。


ディナルドがリーリアと対峙した時の反応で、なんとなく不調の原因は、リーリアだろうと思った。

俺が着替える少しの間、二人きりの時間を作った。


「敵に塩送ってどうすんだっての……」


ぽつりと呟き、瞬きをひとつ。

敵って、なんだ。誰のことだ?


ディナルドは友人で、幼馴染で、理解者であり、リーリアの片思い相手。

思わず、下唇を噛んでしまう。呻きたくなるのをどうにか堪え、更衣室に入った瞬間に大きく息を吐き出した。


「俺、リーリアのことが好きなのか」


とりあえず、頭を抱えた。


うすぼんやりとした気持ちに名前を付けずにいたクラレイ君、ようやく自覚しました。

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