君は可愛い部下だけど君の照れる顔は俺を惹き付ける
俺は彼女の上司である。
だから彼女を可愛い部下と思っている。
俺はもうすぐ三十路のサラリーマン。
嫁なし。
彼女なし。
寂しい独り身だ。
「あっおはようございます」
「おはよう」
俺に元気に挨拶をしてきたこの笑顔が可愛い彼女は俺の部下だ。
彼女はまだ二十代前半の若い部下だ。
「今日も元気だな。イイコだ」
俺はそう言って彼女の頭をヨシヨシと撫でる。
彼女は嬉しそうな顔をした。
「部下に触ったらセクハラですよ」
「君は嫌がってないだろう?」
「そうですけど、誰でもやっちゃ駄目です」
「分かってるよ。ちゃんと人を選んでるよ」
「他の女の子にもやってるんですか?」
彼女は頬を膨らまして拗ねている。
「君だけだよ」
「そういうことを簡単に言わないで下さい」
彼女は照れたように下を向いて言った。
俺は彼女のこの顔にドキドキしてしまう。
彼女の照れた顔はすごく色っぽいのだ。
そして一日が始まる。
しかし、今日はいつもと違った。
俺は残業をして時計を見るともう、夜の八時になっていた。
周りを見ると誰も残っていない。
俺は帰る支度をした。
「あれ? まだ残ってたんですか?」
部下の彼女が俺に声をかけてきた。
全員帰ったはずだが?
「君はまだ帰ってなかったのか?」
「それが忘れ物しちゃって」
「そっか」
「もう帰るんですか?」
「うん。帰るよ」
「一緒に帰りましょう」
「いいけど俺は車だよ」
「えっ、私は電車です」
「家まで送ろうか?」
「そんなの悪いですよ」
「俺、運転が好きだから送るよ」
「でも」
「それなら上司としてコミュニケーションをとるために送るよ」
「どういうことですか?」
「仕事として君の悩みとか何でも相談にのるよ」
「分かりました。お願いします」
そして彼女は俺の車の助手席に座った。
初めて女の子を乗せたかもしれない。
「仕事はどう? 何か分からない所とかない?」
「みなさん優しくちゃんと教えてくれるので分からない所はないです」
「そっか。仕事以外でなんか困ったこととかない?」
「それは……」
「何かあるの?」
「少しだけ気になることがあるんです」
「何?」
「最近、私のパソコンに付箋がついてるんです」
「付箋?」
「何も書いてないんですけど黄色の付箋がいつも同じ場所についてるんです」
「毎日ついてるの?」
「はい。毎日ついてます」
「明日、それを見せてくれる?」
「はい」
「他にはない?」
「ないです」
それから彼女とプライベートの話で盛り上がった。
俺はお酒を飲むのが好きとか、彼女はチョコレートが好きで色んなチョコレートを食べて少し太ったとか。
彼女とのドライブは楽しかった。
そして彼女の家へ着いた。
「ありがとうございます」
「いいよ。また帰る時間が一緒になったら送るよ」
「悪いですよ」
「俺は大丈夫だって」
「あなたは大丈夫でも大丈夫じゃない人がいます」
「えっ?」
「今日は本当にありがとうございます」
「じゃあまた明日」
「はい。おやすみなさい」
そして俺は車を走らせた。
彼女は俺の車が見えなくなるまで見送っていた。
次の日、彼女が言っていた付箋がついているのか見たが今日はついていなかった。
俺は彼女の勘違いじゃないのか? なんて思っていた。
それから彼女からも付箋のことは聞かなかったから俺は忘れていった。
ある日の朝、彼女がいたから声をかけた。
「おはよう」
「あっおはようございます」
あれ?
彼女の顔色がとても悪い。
体調悪いのか?
「大丈夫か?」
「えっ、大丈夫です」
「でも顔色が悪いぞ」
「大丈夫です」
彼女は大丈夫しか言わない。
そしてそのまま彼女は自分のデスクへ向かう。
『バタン』
何か倒れる音がした。
俺は音の方を見ると彼女が自分のデスクの前で倒れていた。
「大丈夫か?」
俺は彼女に駆け寄った。
彼女はうっすらと目を開けて言った。
「もう堪えられません」
「何を?」
「付箋です」
彼女の言葉で俺は彼女のパソコンを見る。
黄色の付箋がついている。
そしてそれには何か字が書いてある。
『俺の大切な君はもうすぐ俺のものになるよ』
何だこれは?
気持ち悪い。
こんなものを彼女は毎日、見てたのか?
誰にも言わず。
俺は自分にイライラした。
何故あの時、彼女の言葉を信じなかったのか。
何で付箋のことを忘れたのか。
彼女を横抱きにして俺は車に向かう。
「どこに行くんですか?」
「君を家まで送るんだよ」
「えっ、でも仕事が」
「君は会社に来なくていいよ」
「どうしてそんなこと言うんですか?」
「違うんだ。犯人が誰か分かるまで会社に来なくていいよ」
「でも」
「君は苦しかったんだろう? 君にあんな思いをもうしてほしくないんだよ」
「そんなに優しくしないで下さい」
「えっ」
「あなたには……のに」
「何? 聞こえないよ」
「今日は帰ります」
「うん。送るよ」
そして俺は彼女を家まで送った。
「部屋までつれて行くよ」
「そんな。私は大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないだろう?」
俺は嫌がる彼女をまた横抱きにして彼女のベッドに寝かした。
「少し眠ったらいいよ」
「でも」
「俺は帰るから」
そして俺は彼女の頭をヨシヨシと撫でた。
「傍にいて下さい」
彼女は照れた顔で言った。
俺の好きな色っぽい顔で。
「どうしたんだ?」
「あなたには大切な人がいるのは分かっています。でも私はあなたが傍にいてほしいんです」
「えっと、何を言ってるの?」
「私はあなたには何も望みません。ただ今だけ傍にいて下さい」
「君が傍にいてって言うならいつでも傍にいるよ?」
「あなたは良くても良く思わない人がいるでしょう?」
「ん?」
「あなたの奥さんです」
「奥さん?」
「奥さんです」
「俺っていつ結婚したの?」
「えっ」
「俺、結婚してないし奥さんもいないけど」
「嘘です。あなたみたいな魅力的な人が結婚をしてないなんて嘘です」
「ほら、指輪してないでしょう?」
「最近は指輪していない夫婦はたくさんいます」
「どうしたら信じてくれる?」
「…………下さい」
「え?」
彼女の声は小さすぎて聞こえない。
「キスして下さい」
彼女は照れてあの色っぽい顔で言った。
俺はこの顔に惚れてたんだ。
そして俺は彼女に優しいキスをした。
それから付箋の相手が分かり、そいつは辞めていった。
今日は彼女が久し振りに出勤する日だ。
「おはようございます」
「今日も元気だな」
俺は彼女の頭をヨシヨシと撫でる。
彼女は嬉しそうに笑っている。
「今日は一緒に帰りましょうね」
「ああ、そうだな」
今日の仕事はスムーズに終わった。
彼女と一緒に帰るのが嬉しいのかもしれない。
そして彼女が助手席に乗る。
「今日は上司としてコミュニケーションをとるんですか?」
「違うよ。恋人としてだよ」
「嬉しいです」
「ところで、何で俺を好きになってくれたんだ?」
「あなたは私に言ってくれたんです」
「何か言った?」
「初めて会った時に何か困ったことがあったら言って。俺が君を守るからって」
「そんなこと言った?」
「はい。言いました」
「それならどうして倒れるまで我慢したんだよ?」
「あなたには奥さんがいると思ってたんです」
「俺ってそんなに結婚してるように見える?」
「あなたが格好いいのでもう、誰かのモノになってるのだと思ったんです」
「何で俺に確認しなかった訳?」
「もし確認して奥さんがいたらショックです。それなら知らないままであなたと仲良くなりたかったんです」
「コミュニケーションはやっぱり必要だな」
「そうですね」
「今日は君の家に泊まっていい?」
「えっ」
「嘘だよ」
「びっくりさせないで下さいよ」
丁度、信号が赤になった。
俺は彼女を見て言う。
「でもいつかは君の家に泊まるから。心の準備はしててよ」
「はい」
彼女は照れながら色っぽい顔で笑って言った。
そんな彼女が愛しくて俺は彼女にキスをした。
読んで頂きありがとうございます。
楽しく読んで頂けたら幸いです。