生者を仲間に引き込もうとする幽霊への考察
怪談やホラーの鉄板パターンとして、生きている人間を自分達の仲間に引き込もうとする幽霊の話ってありますよね。
代表例としては、白い手の群れが海水浴客を溺死させようとする怪談や、船幽霊の怪談などでしょうか。
生者を道連れにしようとする動機としては、「寂しくて…」とか「友達になりたくて…」とか色々あるみたいですね。
これが悪霊や怨霊の類だと、「他人の霊魂を捕食してエネルギーに変換している」とか、「弱い霊を力で捻じ伏せてマインドコントロールしている」とかいう解釈も出来ますか。
悪霊系はさておき、仲間欲しさで生者を引きずり込むタイプの幽霊譚を聞くと、私の場合は「生者を幽霊の仲間に引き込む必要性ってあるのかな?」って疑問が湧いてきてしまうんですよ。
このエッセイでは、そうした疑問を自分なりに考察してみたいと思います。
寂しくて生者を引き込もうとするタイプの幽霊が死ぬ前にも、人間は沢山死んでいて、そのうちの少なからずが幽霊になっていると思うんです。
素人考えかも知れませんが、生者を引き込む前に、その先輩幽霊と友達になれば良いんじゃないかなと考えてしまうんですよ。
その方が手っ取り早いですし、生きている人にも迷惑がかかりませんし。
それに、自分を呪殺した当人である幽霊と、わざわざ友達になろうと思う人も少ないと思うんですよ。
仮に私が、仲間欲しさで生者を引き込むタイプの幽霊に呪殺されたとしたら、「人の迷惑も考えられない幽霊と友達になるのは、死んでもお断りだ!」と突っぱねて、一刻も早く成仏なり好きな世界への転生なりしちゃいますね。
もっとも、私を呪殺した幽霊が「『死んでもお断り』と言ったけど、もう死んでるやん。」と突っ込みを入れてくれるノリの良い奴なら、少しだけなら付き合ってあげても良いのですが…
まあ、「幽霊同士はお互いを認識出来ない」という石ころ帽子的な仮説も聞いた事がありますが、先の船幽霊や行進する軍人さん達の幽霊、そして「耳無し芳一」の平家一門の幽霊達のように、複数人の幽霊が連携して現れている話も多数確認出来ますので、この仮説は私個人としては採用し難いですね。
仮に幽霊同士がお互いを認識出来ないとしたら、「高貴なお方」の命令で平家の武士が芳一を迎えに来たという「耳無し芳一」の展開が、まるまる成立しなくなってしまうのですから。
-集団で現れる幽霊は、集団全体で1つの精神体になっている。
そんな可能性も考えたのですが、「高貴なお方」の幽霊が武士の幽霊に命令出来ているなら、個という概念が幽霊にも残っている事になりますよね。
前述した兵隊さんの幽霊の話だったら、この仮説も成立しそうなんですけど。
そういう訳で、このエッセイでは「幽霊にも個人の概念は残っていて、幽霊同士は相互に認識し合える」という解釈の元で考察を進めていきたいと思います。
群体型の幽霊も存在しているかも知れませんが、今回は棚上げさせて頂きます。
幽霊の先輩は自分よりも先に死んだ人の幽霊という事になるので、「最近の若い幽霊は礼儀がなっとらん!」とか言われてマウントを取られてしまうのかも知れませんね。
また、自分より先に死んだ人の幽霊という事は、第2次世界大戦などで戦死した軍人さんとか、江戸時代の御侍さんとか、そういう方々が含まれる事でしょう。
現代っ子の幽霊だと、畏れ多くて気を遣う事になっちゃいそうです。
一説によりますと、「幽霊の寿命は400年程度」との事なので、縄文人や平安時代の御公家さんの幽霊にマウントを取られる心配はなさそうなのが、せめてもの救いですが…
そのため、幽霊としての先輩風を自分が吹かせられるように、そして比較的価値観の合う話し相手になるように、仲間を増やすタイプの幽霊は新しい死者を欲するのかも知れません。
幽霊の社会においては年功序列や先輩後輩の関係性が、生きている人間の社会以上に厳しいんですかね。
また、「新規に幽霊になった者には、一定人数の人間を殺して幽霊にするノルマが課せられている。」という可能性にも思い至りました。
そのノルマを達成する事で、幽霊社会の中で偉くなれたり、成仏や望む形での転生が果たせたりと、何らかのメリットが得られるのかも知れませんね。
そして幽霊に呪殺された新たな幽霊にも、同様のノルマが課せられて…
こうして想像してみると、なんだかマルチ商法やネズミ講みたいです。
その場合、もしもノルマが達成出来なかったら、上役の幽霊から発破をかけられたりするのかも知れませんね。
先輩と後輩の序列があって、自分より目下の立場の相手を欲しがったり。
マルチ商法やネズミ講紛いのノルマがあったり。
こうして考察してみますと、幽霊の世界も随分と世知辛いのかも知れませんね。
もっとも、幽霊というのは元々が人間なのですから、それも必然なのかも知れませんね。
本エッセイをお読み頂きまして、誠にありがとうございます。
こちらのエッセイは私の個人的見解でありますので、主観的な考えや知識の偏りなどが予想されます。
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