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蓬莱人と亡霊の姫

作者: 永夜 藤月

初投稿です。よろしくお願いします。

 

 永遠にも思えるような、明けない夜が明けてから数日後の、満月の夜。私、藤原妹紅は、家に見知らぬ気配が近づいてくるのを感じ、外に出た。少し進んでいくと、殺気立った妖精たちが、二人の人影に向かって攻撃していた。


 私がその二人組に近づいていくと、妖精たちは私から離れていく。すると、二人組のうち、長さの違う二振りの刀を構えた銀髪の少女が口を開いた。


「急に……、攻撃が止んだ。こういうときが一番怖いです」


 よく見ると、少女の横には霊のようなものがあり、その先は少女の体につながっている。もう一人も気配からして霊のような存在なので、この二人組はここまで彷徨ってきたのか、はたまた冥界の関係者なのかもしれない。


 そう結論付けた私は、二人組の前に出た。


「一際異彩を放つ、幽霊の姿。こんな満月の下の草木も眠る丑三つ時。幽霊は珍しくは無いけど、その確かな形、目立つわね」

「うわ、出た!」


 私の姿を見た途端、銀髪の少女は大声をだして驚いた。一方、もう一人の桃色の髪の少女は冷静そのものだった。


「妖夢、出たわよ」


 どうやら、銀髪の少女は妖夢というらしい。そんなことを考えながら桃色の髪の少女を見た私は、固まった。


「幽霊に、出た、言われてもねぇ」


 言葉がつまってしまったが、私には、そんなことを気にする余裕はなかった。なぜなら、その少女の顔は、髪色こそ違うものの、千年ほど前に会った少女に、そっくりだったから。


























 ───あの夜も、満月だった。


 確か、私が蓬莱の薬を口にして、200年ぐらい後だったと思う。


 そのころの私は、各地を彷徨いながら、視界に入った妖怪を片っ端から退治し続けていた。最初は不老不死になってしまったことへの八つ当たりとしてやっていたことだったが、そのことを受け入れ始めてからも、なし崩し的に続けていた。


 そんなある日、とある人里で、こんな噂を耳にした。なんでも、近くの山奥に屋敷があるそうなのだが、そこには、近づいた人間を殺してしまう、呪われた娘が住んでいるらしい。


 その噂を聞いた私は、その日の夜に、その屋敷へと向かった。もしその娘が人間ではなく妖怪だったとしたら、退治しなければならない。そんなふうに考えていたと思う。しかし、今考えてみれば、私は心のどこかで、その娘が自分を殺してくれるのでは、という期待を抱いていたのだろう。


 私が屋敷に着いたのは、満月が最も高くなろうとする時間だった。その屋敷は、山奥にあるとは思えないほど整っていて、瓦が欠けたところも見当たらない。源氏と平家の争乱が続く時代になってから、これほど浮世離れした建物を見たことはなかった。


 当然ながら門は閉まっていたので、屋敷の裏手に回った。すると、木々の間から、一人の少女が縁側に座っているのが見えた。


 その少女は、ただぼんやりと、月を見つめていた。肩のあたりで切り揃えられたふわりとした黒髪が風に揺れている。そこそこ上質そうな着物は、とても庶民のようには見えない。


 草をかき分ける音でも聞こえていたのだろう。少女はふとこちらに顔を向け、その黒い目で私の姿を捉えると、まるで世間話でもするかのように、私に話しかけてきた。


「こんな時間に、何の用かしら?白いお嬢さん」

「………あんたが、この屋敷の主?近づいた人間を殺すっていう」

「ええ、そうよ。あなたも、私を殺しにきたの?」


 そう話す少女の顔には驚きさえあるものの、恐怖や諦めといった感情は見られなかった。


「あんたが妖怪なら、そうしただろうね」


 少女は多少異質なところもあるようだが、まぎれもなく人間だった。だったら、もう用はない。そう思って少女に背を向け、そこから去ろうとしたのだが、少女は納得したような顔をすると、さらに話しかけてきた。


「あなた、私に近づいても、何ともないのね〜。どうしてかしら?」


 そう私に問いてくる少女の顔には、純粋な疑問しか浮かんでいなかった。だからだろう、私はその質問に、正直に答えてしまった。


「………私は、不老不死だからな」


 老いることも死ぬこともない、人が忌み嫌うこの体のことを、正直に言う必要はなかったと思う。しかし、このときの私には、そんな無粋なマネはできなかった。


「へえ〜、不老不死ねぇ」


 そう言うと、少女は少し考えるようなそぶりを見せると、再び口を開いた。


「あなたは、この後に何か用事はあるの?」

「いや、特にはないけど………」


 すると少女は、満足そうな顔をして、私にこう提案してきた。


「だったら、少しお話ししない?」















 私が少女の横に座ったとき、ここに来るときに見えた満月がちょうど、一番高い位置にきていた。少女の方に顔を向けると、またぼんやりと月を眺めていた。


「あんたは、月が好きなの?」

「ええ、とっても〜。あなたは?」

「私は………あまり、好きじゃない」


 私にとって月は、憎き輝夜の故郷だった。このときは輝夜は月に帰ったと思っていたから、あそこにあいつがいると思うと、それだけで憎しみがこみ上げてきた。


 私のそんな気配を感じたのか、少女はこちらを見ずに、話を続けた。


「私の親友がね、月と同じ髪色をしているのよ」


 それを聞いた私は、私を見たときの少女の反応に、ようやく納得がいった。だから少女は、不気味な白い髪の私を怖がらなかったのだ。


 だが、その言葉は、聞き捨てならないものでもあった。


「………その親友ってのは、人間、なのか?」


 この日本には、人間は黒髪しかいない。歳を取れば白髪になるだろうが、月と同じ髪色───金髪の人間なんて、いるわけがない。だとすると、そいつは───


「いいえ、妖怪よ」


 少女は、笑顔でそう言った。まるで、たまたま親友が人間ではなく、妖怪という種族であるだけだ、とでも言うように。私には、それが理解できなかった。


「………妖怪がどんな存在か、あんたは分かってるのか?!」


 妖怪とは、人間を驚かし、人間を襲い、人間を喰らう存在。それは、いつの時代も変わらない、普遍の真理だ。


「ええ、もちろん、分かっているわ」


 しかし、少女は言う。妖怪も、人間と同じようなものだとでも言うように。そんなことは、あるわけないのに。


「だったらなんで、妖怪を親友だなんて言うんだ!」


 しかし、少女は言う。まるで、人間こそが、少女にとって妖怪であるとでも言うように。


「そんなの決まってるじゃない。あの人以上に私に親切にしてくれる人間なんて、いないからよ。だって───




















 ───いつも私のために、お菓子をたくさん持ってきてくれるんですもの!」

「………………………………………は?」


 一瞬、時が止まった。


「この前だって、団子を二十本も持ってきてくれたし、その前も、おもちを十何個も持ってきてくれたし、そのさらに前も………」

「まてまてまて!あんた、どんだけ食うんだよ!」


 結構深刻な話をしていたはずなのに、急にそんな雰囲気は消し飛んでしまった。


「いやいや、それより………ああ、もういいや」


 こうしていると、なんだかさっきの話が馬鹿らしくなってきた。少女の親友が妖怪であるというのは、私には何にも関係のないことだというのに。そう結論付けていると、


「姫さま〜、どちらにいらっしゃいますか〜?」


 屋敷の奥から、若い男性の声が聞こえてきた。


「あら、妖忌が呼んでるわ。それじゃあ、さようなら、白いお嬢さん」

「私は、あんたにお嬢さんと呼ばれるような歳じゃあないんだけど………」

「ふふ、別にいいでしょう?」

「………まあ、ね」


 曖昧に返事をすると、私は立ち上がり、今度こそ屋敷の外に出ていった。


「今日は楽しかったわ、ありがとう。………あなたにも、いずれ、分かるときがくるわよ」


 最後の言葉は、かすんでよく聞こえなかった。















 その後、私はとある竹林にたどり着き、そこで輝夜と再会した。それからは、退屈しない殺し合いの日々が続いた。


 竹林の兎や妖精たちも、最初は攻撃していたものの、徐々に隣人のような関係になっていった。


 そして、数百年後、この「迷いの竹林」は結界に包まれ、幻想郷の一部となった。

























「……」


 桃色の髪の少女は、何も話さない。


「なんだ、人間か。間違って斬るところでしたよ。って、こんな時間に人間?やっぱり不自然よ!」

「……」


 銀髪の少女───妖夢の言葉に耳を貸さず、私を険しい顔で見つめている。


 このままこうしていても意味がないので、私は妖夢の問いに答えた。


「私は最初からここに住んでいるの。時間はともかく、貴方達よりは自然だわ。で、貴方達は何の用かしら」

「私達は肝試し──って、幽々子さま?」


 肝試しってなんだ、と思ったら、桃色の髪の少女、幽々子が口を開いた。


「妖夢、そいつに近づいてはいけない」

「幽々子さま……」

「そいつは、他の人間とは違う。触れてはいけない。その呪いで穢れてしまう。食してはいけない。その毒で呪われてしまう。何より……、私の術が効かない」

「なんか、酷く嫌われてるようね。()()()なのに」


 そう、初対面だ。この少女───幽々子は、私の知るあの少女ではない。あの少女は、もういない。いるはずがない。


「それに、いきなり術って、何をかけようとしたのかしら」

「幽々子さまは、人間を死なす事が出来る。それが効かないというのは──」

「いきなり取り殺そうとしたの? 物騒な幽霊ね」


 本当に物騒だ。しかし、それよりも、あの少女と同じ力を持っているのか。


「お前は人間ではないな? って、それじゃ幽々子さまが怯えている理由が判らないけど」

「あいにくだけど、人間よ。ただちょっと死なないだけ」

「蓬莱人……。怖いわ、妖夢」


 ………蓬莱人が、怖い理由?


「肝試しに来るまではあれほど平気だったのに……、何か変な物でも食べました?まぁ、この場は私が何とかします。怖いもん無しの幽々子さまが、こんなに怯えるものがあるなんて思わなかった」


 変な物を食べたからといって、怖い物が増える?よくわからないけど………


「幽霊と私では、相性が良くないのかな?なんだか腹が立ってきたよ。もう攻撃開始しようかな~」

「でも、何をそんなに怯えてるんですか? 幽々子さま」

「蓬莱の薬を飲んだ人間は不老不死になる。その不老不死の人間の生き肝を食すと、その人も不老不死になる。その生き肝を亡霊が食すと……?死ねない亡霊が生まれるわ。そして、蓬莱の輪廻は終る。成仏も転生も出来ないし、薬も続かない。
















 ───まぁ食べなければいいんだけどね」

「じゃあ食べるなー!」


 妖夢が、がくっ、という効果音でも聞こえそうなほど体勢を崩して叫んだ。それを見た私は、また固まった。


「全く、ふざけた幽霊達ね。もしかしたら、幽霊になるとこんなにおかしくなるのかしら?死ねない私には確かめ様がないわね」


 本当に、ふざけた幽霊だ。死んでも、変なところは変わっていないなんて。本当に、可笑しい。


「心配した私が馬鹿でした。幽々子さまはやっぱり幽々子さまですね」

「食べるかもしれないよ~。目の前の不老不死の生き肝、美味しそうね」


 幽々子は言う。あの時と同じ、のんびりとした口調で。そのことが何よりも、彼女があの少女である証明だった。


「幽々子さまの手の届かない処で始末します」


 妖夢は気が早い性格なのか、幽々子の言葉を聞くや否や、二振りの刀を私に向けて構えた。


「果たして、死人が私を斬る事が出来るかしら?」


 私は、挑発する。うちに秘めた感情を悟られないように。


「仲間を増やす事は出来ないかもしれないけど、本当に死なないのか試させてもらうよ」


 私は、不敵に笑う。これから始まる弾幕ごっこ(あそび)に、思いを馳せて。


「成仏を忘れた亡霊は新たな生を生まない。死ねない人間は色鮮やかな冥界を知らない。生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に、死んで死の終わりに冥し。死を知らない私は闇を超越する。暗い輪廻から解き放たれた美しい弾幕を見よ!」


 私は、弾幕を放つ。千年を超えた、この出会いへの、花向けに。



お読みいただきありがとうございました。


この作品は、東方の二次創作を書きたいなぁと思っていたときに、ふと頭に浮かんだ「妹紅と生前の幽々子が会っていたら、どうなったんだろう」という妄想に基づいて執筆したものです。


永夜抄のセリフに当てはめて作ったので少し無理があった気もするのですが、自分ではまあまあ納得のいく出来だと思っています。もし気になる点などあれば、感想などでご意見をいただきたいです。


それではまたいつか、お会いしましょう。

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