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僕のチート能力が概念的すぎる  作者: 土ムカデ
見つける。追う。狩る。
8/10

学校に遅刻しそうになった時があってね。急いで支度をして家を出た所で目が覚めた事があるよ。全部夢だったんだ。遅刻はしたけどね。

気がつくと枯れ木の立ち並ぶ荒野に居た。腐ったヨーグルトのような灰白色の空から、嫌な匂いの風が叩き付けるように吹き付ける。切り立った山々の間に、くり抜かれたような穴が見える。

手で顔を覆いながら、泥の中を歩いた。足元でポキポキと音がする。鳥のような動物の骨が泥に塗れている。鳥だけではない。辺りは動物の骨だらけだ。

「これが、人魔大戦後の世界です」

振り向くと、緑色を僅かに覗かせる、死にかけた木の側に女神が居た。彼女は遠くを見ながら、静かなトーンで話し始めた。

「ここは、豊穣の大地ミトラと呼ばれていた場所です。昔は、この地に生きる何もかもが、新鮮な水や果実や肉で満ち足りていました。人間も魔族も、その恵みに預かっていたのです。でも、だからこそ、あの、忌まわしい人魔大戦の決戦地に選ばれてしまった」

女神は悲しそうに俯いた。

「見れば分かるでしょう。ここはもはや生命の循環から永遠に弾かれてしまいました。いつでも穏やかだった空は荒れ狂うように。美しい泉は毒を垂れ流すように。生命が紡ぐ歌は、死霊の嘆きに変わってしまいました。こんな、こんな過ちは二度と繰り返してはなりません」

何か言ってやりたいが口を挟めない。

「こんな戦いに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思っています。人間は強い。けれど、魔族を圧倒する程ではない。もし魔族が魔王の元で再び力を得たら、戦いが始まる。この世界全てを巻き込んで、長い長い戦いが……そして、今度は世界が、この地のように……」

なるほどそんな事情があったのか。

「……しかし、私は貴方に希望を見出しました。あの、私の空間で貴方が見せた、皆を導こうとする勇気。それこそが、私が勇者に求めるものです。だから、私は貴方にこの世界の傷を見せたのです。私は、貴方こそ勇者、いや、救世主であると思っています。貴方なら魔王に立ち向かい、人魔大戦を未然に防ぐ事が出来るでしょう」

女神がそんな風に僕を評価していたとは思いもしなかったぞ。

「頼りにしていますよ、速水さ──」

「え?」

ずっとそっぽを向いていた女神と眼があった。女神の顔は、柔和なそれから張り付いたような物に変わって、眼だけがあちこちを向いている。

「……速水さんと仲のいい、剣城さん」

「女神様ってとぼける時はいつもその口ですね」

女神は慌ててアヒル口を引っ込め取り繕うようにまくしたて始めた。

「あの決して間違えた訳じゃないです。貴方もきっと魔王と戦うでしょうしこの光景を見ておくべきかなと。というかこの光景を見てなんとも思わないんですか?私が間違えたかどうかが争点ですか?貴方にはやるべき事があり私はそれを伝えたそれだけじゃないですか?」

「ブラボー!うまく言い訳をしながら怒りにすり替えて僕が悪いような気持ちにさせてくれましたねお見事です女神様あんたのどこが人間を抱擁する主神だよ」

「キィー馬鹿にして」

女神が親指を下に向けると地面がパックリ割れて僕は真っ逆さまに墜落した。

「うわあああああ!?」

深い。深い。猛スピードで落ちていく。女神がハンカチを振っているのが見えた。

そして──。

「イットー、うるさい!」

「ああああああああ痛っ!?」

額に衝撃が走って視界に光が入ってきた。

寝巻きに片足だけスリッパを履いたレジーナが僕の顔を見ている。

「こ、ここは?」

「私の小屋!全く、イットーの事は度し難いわ」

レジーナはぷんぷんと怒りながら衝立の中に引っ込んだ。起き上がると額に乗ったスリッパの片割れが落ちた。今のは、夢か。妙な夢だった。だが、あの不快な空間の事はまるで現実のように真に迫ったものだった。

まさかまたあの女神と喧嘩をするなんて。僕あの人嫌いだ。

「イットー、貴方も旅支度を始めてね。今日は貴方の引き取り手を探すんだから」

衝立の向こうからレジーナの寝巻きがベッドにとんだ。次いでカチャカチャと音がする。きっと装備をしているのだろう。衝立の下からレジーナの足がふくらはぎまで見えている。なるほどね。熟練した空手家の拳は柔らかみを帯びるという。野生動物にしたってそうだ。どこかそのフォルムに丸みを帯びる。狩人として野山を駆け巡るレジーナの足は、まさにそのような足に見える。柔らかくしなやかに伸びた、世界遺産級の足だ。

「町に出たら、まずは『白鷺亭』に行くわね」

レジーナが衝立から出てきたので急いで立ち上がった。

「白鷺亭って?」

「……ま、なんでも屋ってとこね。そこでうまく働き口が見つかればいいけど」

レジーナはブーツを履きながら答えてくれた。なんでも屋、か……。

待てよ?働き口?

僕、働かなきゃいけないのか?

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