女神の長い話が始まるよ。苦痛が声になったみたいだ。ナメクジを耳に這わせた方がまだマシだろうね。
先ほどまでの弛緩した空気が嘘のようだ。今や女神の話を聞き流す者など居ない。みんな眼をギラギラと光らせて女神の一挙一動に注目している。
「えーっと、それでは…軽く、この世界における異能の立ち位置から話しましょうか。この世界では時折異能を持つ人物が産まれます。その力の源泉は、大気に満つ自然のマナであったり、肉体が産み出す生命力であったりと様々です。これらの分析は人々の研究によって判明した部分が大きく、未だに未知の部分が大きいですね。私は人に加護を与える事で異能を目覚めさせる事が出来ますが、どんな力が目覚めるかは個人の資質によるものが大きく、私にも制御出来ません。異能は大別して3種類に分類されます。1つ目は行使する力。炎や雷を身体から発するような能力ですね。2つ、自らを変える力。獣に変身したり、腕力を高めたりする能力です。3つ、形のない力。念じる事で物を壊したり、人の心の声を覗き見たりする力です。人々はこれらの力を天の恵と捉え、力を持つ者を重用してきました。それにより人類はこの世界リヴァースに大きな棲息圏を築き、全ての知的生物の頂に立ちました。ですがその歴史の中で人は何度も過ちを繰り返しました。その中の最たるものが、人の近隣種たる魔族の迫害です。彼らは一人一人が異能に愛された種族であり、また当時の人間よりも進んだ知識を持っていました。彼らは人間に対して師のように接しておりましたが、人間の棲息圏が拡大するにつれて自らの立ち位置が少しずつ変化していく事に気付けませんでした。目が眩むほどに魔族の力というのは強大なものでした。彼らは人間の力を侮っていたのです。いくら師事しようと人間が魔族に追い付けるはずはないと。魔族がもう少し尊大でなければ、人の事を顧みれば今でも二つの種族は手を取り合って生きてきたかもしれません。しかしそうはならなかった。さる時に魔族は人間に対して宣戦布告を行いました。そうして起こった世界を巻き込む人魔大戦により、魔族は滅んだとされ、人間は世に憚ったのです。しかし千年前に滅ぼされたはずの魔族の生き残りが『魔王』と呼ばれる存在の元、今この世界に再び宣戦布告を行い、第二次人魔大戦を起こさんとしています。しかしそれは滅びへの道標。否、もはや魔族は自分達が人間の後塵を排するならば世界を滅ぼすつもりでしょう。そして、残念ながらこのままでは世界は滅ぼされる運命にあると言えます。栄華栄耀の元において人々の心は昔と比べて遥かに……自分達が過去に滅した魔族達のように尊大で傲慢な物に堕ちてしまいました。この滅びゆく世界には新たな勇者、指針、旗印となるべき存在が必要なのです。それが貴方達の役目となるのです。貴方達の働きによって滅びゆく世界は滅ばず、今後も滅ばなくなるでしょう。私も人類を滅びから救う貴方達の為に出来るだけの事をしたいと思います。その手始めになるのが加護による異能の顕現です。人がその身に受けられる加護には限りがありますが、貴方達には最大限に与えられるだけの加護を与えました。これにより、貴方達の加護はそれぞれが特別なユニークスキルとなります。これらには『二つ名』が付きます。『○○の○○』といった形になりますね。名前如きと思う方もいるかも知れませんが、これが存外大事なのです。そもそもスキルを持つ者自体は今やそこまで珍しくないのです。しかし大概の者が持つスキルの名前は『炎』や『雷』などありふれた物です。スキル名に使われる単語もスキルによって千差万別なようですが、今はとりあえず能力の強さがスキル名の長さに繋がると心得てください。つまり複雑なスキル名を持つ事はすなわちステータスなのです。そう、ステータス。貴方達のステータスは魔術によって文字通り人に読まれます。どんな身分か、どれだけ冒険を重ねてきたのか、どんなスキルを持っているか。先程言ったように二つ名スキルは珍しいものなので、持っているだけで人は圧倒される事でしょう。貴方達の旅路は通りいっぺんの冒険者とは大きく異なるものとなるはずです。力を持つ者だから味わう苦しみもあります。避けては通れぬ困難もあるでしょう。しかしそんな時も私が授けたスキルと貴方達の知恵と勇気と団結によって乗り越えられることを願います。貴方達は一人一人が世界を滅びから救う勇者であり、貴方達一人一人が勇者なのです!」
なんて長い話をするんだ。