僕の名前は剣城逸刀。かっこいい名前だろ?
この物語をどこから話そう。まあ始めからがいいだろう。僕たちは学校に居たんだ。帰る準備をしてた。
気がつくと僕たちは妙な空間にいた。そこに居たのが女神だ。
「初めまして、異世界の勇者たち──」
そして、今に至る。
女神は今も自分の世界がどうとか説明をしているが、真面目に聞いている奴など居ない。寝ている奴までいる。
指のささむけを剥いていたら室田が小声で話しかけてきた。
「なあなあ剣城。女神のオッパイでかくね?」
僕は眼鏡の位置を直すふりをして女神の胸元を見た。なるほど確かにデカいぞ。しかし室田みたいな奴はこんな状況においてもくだらないことしか考えてないんだなあ。
見るべきものは足だろう。女神のすらりと伸びた足は僕には国宝級に見える。カモシカのような足という表現があるがあの細さはもはやトムソンガゼルのようだ。きっと走ると速いはずだぞ。野生動物の研ぎ澄まされた機能美を思い起こさせる。そう、足の速さは過去の我々にとって生存する為の力だった。いわば原始的本能に訴えかける魅力なのである。
「皆さん、聞いているのですか?この世界『リヴァース』の成り立ちと貴方達が召喚されるに至るまでの経緯は十分に気を引くはずのものだと思ったのですが……」
胸というのは尻の代替であるという話がある。人類が二足歩行を始めて視点は今までと比べて高くなり世界が広がった。そして代わりに尻を見る機会を失った。尻というのは原始的魅力の源泉、原始から続く我らのセクシーである。いわば胸は尻を視界から失った人間達がやむなく膨らませた妥協の産物。カニに対するカニカマ。カニカマも海外においては一級のスシネタであるが、本場本元の日本ではやはりカニが重宝される。一流の寿司屋で「大将カニカマ!」などと言えば叩き出されるだろう。
「あのー皆さん」
寿司というのは食べ方一つで大きく味の理解度が変わる食べ物だ。食べたいネタだけ食べるという楽しみ方も否定しないが好きだからと言ってウニばかり頼むというのはよくないそれは寿司ではなくウニが好きなのだ。寿司を楽しむならば、やはりさっぱりした白身から入り、しだいにこってりしたネタへと移るというのがいい。こってりからさっぱりでは口に残るこってりにさっぱりが負けてしまう。この理論は焼肉やバイキングなどにも応用できる。もちろん時々ガリを挟んで口をリフレッシュさせるという小技を忘れてはいけない。食べ方一つで
「では今から皆様に与えられる『異能』についての話だったのですが省略します…」
「トムソンガゼルさん今なんて?」
「え…トム…?」
思わず変な言葉が口に吐いて出てしまったが今はそんな事重要ではない。
「今『異能』と仰いましたよね?」
「は、はあ……いきなり召喚してしまった皆様への、せめてものたむけとして、『異能』を一人一人に与えたのですが……」
「それって、小説や漫画でよく見る……チート能力って奴ですか?」
「え、ええ。相違ないと思います」
どよめきが起きた。水面を揺らす雨垂れのようなその声はやがて歓声に。そして嵐のような咆哮に変わった。その咆哮には僕の声も混じっている。誰かの突き上げた手が顔に当たり眼鏡がずれる。室田が肩を組もうとしたので避ける。それでも僕は叫び続けた。
花は咲き乱れ鳥は歌い狂い太陽はカンカン。学校から異世界に。日常から冒険に。お手を拝借拍手喝采八宝菜!チート能力異世界無双!ああ今ここに全ての高校生の夢が叶う時が来たんだ!