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  あれからパーティは中止されることになった。

「スイーツをたくさん堪能出来ましたの。魔術師?のおかげですわ!」

  ジュリアが自らの屋敷に帰る前に、言ったのがこれである。

  事情を知らされていない者の認識は皆、この程度なら、今回のカモフラージュは成功だ。

「あの聖女が消えたとかでお開きになったのは残念ですけれど」

  どうやらまだまだスイーツを堪能したかったらしい。彼女の恨みがましい目をアリスはよく覚えている。

  この通り、パーティはお開きになったり、ルチアの捜索は表向き行われているが、貴族たちはそれぞれ元の生活に戻ろうとしていた。

  ジュリアを見送った後に、通い慣れた執務室へとアリスは向かっていた。今は絶賛仕事中だろう。

 ──何かお手伝い出来ることは、ないかしら。

  ルチアなしではあるが、事情聴取は行われることになり、エリオットは我先にとその仕事へと参戦し、アーネストは額を押さえていたり。

  彼らは相変わらず忙しい。

  聖女が消えたことにより、大騒ぎにはなっていたが、アーネストは徹底して鎮火に努め、あくまでも騒ぎを起こさないように捜索隊を編成していた。

 ──ルチア様の行き先に関しては問題ないから、捜索というよりも、調査ね、これは。

  調停者と、何と呼んで良いのか分からないが、創世竜の化身がルチアの行き先を把握しているため、今アーネストたちが必死に洗っているのは、神殿と一部騎士との繋がりだ。

  どうやって接触を持ったのか、どこから接触を持ったのか、などの真実を探るために端から端まで痕跡を調査している。

  コンコンと執務室への扉をノックした。

「どうぞ」

  アーネストの返答を聞き執務室に足を踏み入れた途端に、アリスはある人物の珍しい大声を聞くことになった。



「即刻、処刑!」

「うわあ。殺意が……ダダ漏れすぎだよ、エリオット」

  エリオットが入室して来たアリスの方へとぐるんと目を動かした。

  若干蛇に睨まれた気分だ。


「アリス様は処刑派ですよね? そうですよね? そうなんですね。分かりました」

「えーっと、何のことを仰っているのか分かりませんわ」

「何って、あのクソゴミムシ脳内ぽよんぽよん女の処遇ですよ」

「ええ……。なんとなくそんな気がしていました……」

  そして、相変わらず酷い呼称である。真顔で無表情でこれを言ってのけるため、よりシュールだった。

  寝不足しているから余計に殺意が増しているのだろうか。

  アーネストは遠い目をした後に、机に突っ伏した。

「神殿とのこれからを考えると、無闇矢鱈に処刑は出来ないから、相応の罰を考えないといけないんだけど、エリオットはこんな感じでね」

  ルチアの行き先を把握しているのは一部の者しか知らないため、こういう物騒な会話が出来るのも、一部だ。

「神殿との関係性をどうにかしてからなら、処刑も問題ないけれど──」

  仮にも聖女を大々的に発表した神殿。彼らのメンツにも関わるため、慎重に行動しなければならなかった。

 ──面倒ね。どんなところでも身動きが取れないのだから。


「問題ないって言いましたね、殿下。言っちゃった……つまり、処刑ということで。はい! 決定!!」

「殿下、エリオット様は休憩は取っていらっしゃるの?」

「前みたいに気絶させようと思ったら、あのエリオットが護身術をマスターしていて……」

「ああ……乱闘になったんですね。そしてキリがなくなったんですね」

  その光景が目に浮かんで、アリスもアーネストと同じように遠い目をした。

「そういった攻防があった末に、こうなったんだ。まさか護身術をマスターするとは思わなかったよ」

  護身術を獲得する程、仕事を邪魔されたくなかったのだろうか?

  仕事の何が彼をここまで駆り立てるのか。

  そして仕事をしながら気晴らしに、今後の聖女の処遇について話していたらしい。

「気晴らしに語ることではないような気が……」

「気晴らしにとか言い出したのはエリオットだよ」

「え、気晴らしになりませんか? 御二方」

  エリオットが心の底からそう思っていることが伺えて、ルチアへの激しい嫌悪が感じられる。

  つまりは相変わらずだった。


  さてこの場の収拾をしなければとアリスが重い腰を上げようとした時。


「殿下! 城下町の広場に、おかしな集団が! 民衆たちも続々と集まっています」

 騎士の1人が報告に走って来た。

「は? おかしな集団?」

「神官の服を来た者と、騎士たちの姿も数名。何やら大きな木箱を持っておりました」

「すぐに行こう。エリオット、君は留守番だ。アリスを頼む」

  不服そうなエリオットを見て、気付けば声を上げていた。

「私も見に行きます。状況を把握したいので。エリオット様は護衛としてお連れしても?」

「……分かった。くれぐれも、エリオットから離れないように」

  どうやらエリオットの護身術は相当らしく、アーネストは珍しく即答した。

  本当に彼らは、どんな乱闘を繰り広げたのだろうか。


  アーネストがすぐに護衛の騎士を数名と、自らも剣を手に取り、周囲に合図をして、すぐに出発となった。

  アーネストの長所は、こうして何か事態が変動した折もすぐに行動が出来ることである。

  護衛に借りた騎士の空いた席に、誰を座らせるか、この後の王宮の対応など、全てを一瞬で判断する能力は、王として教育された者にしかない能力だ。


  そして急ぎ足で向かった広場。

  報告にあった通り、民衆たちの中心に立つのは、ルチアを連れていた神官や、その騎士たちだった。

「まさか、あちらから出向いてくるとは」

「あのポンポン女は、どこです?」

「エリオットは、その殺気を消してくれ。本当に。頼むから!」


  中心に居た神官が指し示している。

「つまり此度の聖女は悪魔に誑かされていた被害者などではなく、彼女そのものが悪魔の使いだったのです!」



  耳を疑った。彼らはルチア様を護衛していたのではなかったのか?

  彼女を逃がすつもりではなかったのか?



「そして、ここにも悪魔が実体化して閉じ込められている……。これは浄化しなければなりませんね」

  別の神官が前に足を進めた。

「皆様のお力も貸してください。この悪魔を祓うための力を。ただ、火を投げてこの箱に当てていけば良いのです。多くの火をここに集め、浄化を進めるのです」

  ふとアリスの脳内に恐ろしい考えが浮かんだ。

「殿下、もしかしてあの木箱の中には」

「ああ、あれは悪魔なんかじゃないよ。あの中には──」


  ごくりと喉を鳴らし、その決定的な一言を受け継いだ。

「ルチア様がいらっしゃるのね」


  神殿側が、ルチアを捕らえた理由は、庇うためではなかったのだ。



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