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「ユリウス率いる過激派が、ついにルチアを軟禁したらしい」


  書類を届けに執務室へ向かえば、アーネストからそんな報告を受けた。

「なるほど。これがアリス様の秘策……なるほど参考になります」

「エリオット様、寝てますか?」

  アリスに向ける尊敬の眼差しが眩しい。

  普段通りの彼なら人を尊敬するなんてしないというのに何があったのか。

「私はちょっと不安を煽ってつついただけなのですけれど、何がどうなってそうなったのでしょうね?」

「君、何をやったの?」

  心底不思議そうに見られたので、アリスは完璧な笑みでもって答えた。

「色々ですわ」

「気になるんだけど」

  まあ、色々と泣いたり笑ったりしたとしか言いようがない。

  ルチアに対して悪意があったのは確かだけれど。

「ユリウス様も含めて一部の方たちの熱が凄かったので、利用させてもらったのです」

「平然とすごいことするよね、アリス」

「窮屈な生活を送る羽目になったのはルチア様のせいですから」

  あれからアーネストの部屋で寝起きすることになっている。

  アリスが知っている限りだと、アーネストは机に向かってばかりで、どこで仮眠を取っているのか分からない程だった。

「そうだ、アリスに話があったんだ」

  ぽつりと呟くと、エリオットがガタリと立ち上がった。

「私は部屋を出てましょうか? 何かアリス様に重要な話があると仰ってましたよね」

「ついでに仮眠室に行って、寝てくれないかな? そうしたら君に任せてなかった仕事も渡すから」

「分かりました」

  ヤケに素直に従って部屋を出ていくエリオットを見ながら思うこと。

  仕事中毒って怖い。交換条件までも仕事なんて。

「仕事を更に渡すことになるのは、泥沼化していく気がするんだけど、まずはエリオットを寝かさないといけないから……。ちなみに寝るまで使用人に監視させることにしている……」

  アーネストは遠い目をしながら呟いた。

  部下が仕事中毒というのも大変そうだ。

  アーネストに聞いたところ、睡眠薬を盛るのも過去にやっているので、エリオットは人の持ってくる食物には警戒しているらしい。

  さらに、仕事をそっと減らした時は、何故かバレたとのこと。

  仕事中毒は本当に怖い。


「ところで、お話とは何ですの?」

  人払いしてまでする話なのだろうか? もしやこれ以上に酷い話があって、その対応に追われるとかだろうかと思い巡らせていれば、彼はアリスに手招きをした。

「あまり他人に聞かれない方が良いと思うから。念の為」

「何でしょうか?」

  アーネストは何から伝えれば良いのか分からなかったようで、少し頭に手を当ててから目を向けた。


「調停者って君は知っている?」


 ──調停者? どこかで聞いたような?


「焚書されたはずの本の写しを見つけた。そこに載っていたのが、調停者なんだけど。どうやらその調停者というのは失竜の化身のことを言うようで、唯一聖女を断罪する力を持っているらしい」

  おとぎ話のような伝説だった。神話の世界のことが今の時代にというのも不思議な気がするが、もはや何でも有りなのではないかと思ってしまう。

「前に殿下のメモを見てしまったのですが、もしかして、その断罪者っていうのは……もしかして」

「その調停者の力を借りて、道を外れた聖女を断罪していたと記録にはあった。もちろん人間だよ」

  国を滅ぼしかねない力を持った聖女を止める力がこの世に存在していた!

  それは救いだ。

  もしも、絶対的な力を持つ聖女が人の道を外れてしまったら?

  その抑止力は確かに存在していたのだ。

  聖女の断罪なんて、精霊を従える聖女に対しては不可能ではないかと思っていたが、そのようなカラクリがあったとは思わなかった。

  まさしく調停者という言葉が相応しい。

  調停者は聖女の力を奪う人ならざる存在で、断罪者は調停者の協力者である人間のこと。

  これは神と人間の1つの契約についての伝承でもあった。

「過去の記録にあった悪なる聖女の末路には抹消されているものがほとんどだけど、その記録の抹消も何者かがやっているんだと思う」

「それは思いました。断罪者がその役をやっているんでしょうか?記録を消すのは人間でしょうから」

  アリスの頭の中に浮かぶのはマティアスの姿だ。彼は聖女の力の影響も受けておらず、且つ事情通に思えた。

  ただ、アリスに協力を頼んだことからして、あまり姿を見せられない理由があるのかもしれない。

  アーネストに事情を伝える前にマティアスと情報共有をしていた方が確実かもしれない。

  何が起こるか分からないから、尚更。

「なんとなくだけど、僕は情報隠蔽は1人じゃないような気もする。断罪者っていうのも情報が少なすぎてね……」

「他にも協力者が居るということですか?」

「それが有り得るかなって。王宮の証拠隠滅は出来ても、民衆たちの方も情報隠蔽や証拠隠滅しないといけないからね。単独じゃ無理じゃない?」

  マティアスが断罪者だと思っていたけれど、他にもいるかもしれない?

「それは新たな情報ですわね」

「それと思ったのは、断罪するには何かの条件がいるのではないかということ」

「確かに……。すぐ出来るなら、もうルチア様は断罪されているでしょうね……」

  あれだけ横暴に振舞ったのだから。


「これだけの情報が隠されていたのは、聖女を守るためと同時に断罪者──普通の人間を守るためなんだろうね」

「それならどうやって伝承されていくのでしょうか?」

「……そこが分からない。もしかしたら、その調停者が語りかけてくるのかもしれないしね」

「その辺りは当の本人でないと分からないですわね」

  マティアスに手紙を出して、少しでも何か聞けたらと思う。

「殿下、私の方も何か分かりましたらお伝え致しますわ。それと、この機会にお願いが……」

「何?」

「今、私はルチア様の身を心配してという体でユリウス様に話を通しましたの。やがて殿下と結ばれて、王妃の立場にルチア様を置いても果たしてそれは幸せなのかと強調致しましたわ」

「そういう話になってたのか。それで軟禁に至ったと」

  だからこそ、アリスとアーネストの雰囲気は幸せであってはならない。

「幸せそうな恋人の演技は終わりにした方が反発はなさそうだと思いまして」

「まあ、妥当かな。……ただ1つだけ付け加えるとしたら、王妃になったところでルチアは幸せになれないというところ」

「はい?」

「僕はアリス以外幸せにするつもりがないから、他の誰が王妃になっても幸せになれないって追加しておいて」


  アーネストがこのように歯の浮くような台詞を言うようになったのは何故なのだろう?

  赤く染まった頬は彼に思い切り見られていた。


  そして、この日にアリスは手紙を出したのだが、次の日になってもマティアスに連絡は、つかなかった。

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