9:『あい』を失った女 より 『さくら』散る春の夜に、『あわき』想いを君に
ジャンル:純文学〔文芸〕
作者:石河 翠
あらすじ
1話完結型の短編集です。
特定の文字を入れないリポグラムなど、制限付きの作品を書いています。
基本的に掌編なので、隙間時間にどうぞ。
第1話から第18話までのルール。
タイトルでカギカッコに入った文字を抜くこと。
濁音、半濁音、促音がある場合にはそれも使用不可。
例えば、第8話の場合には「つ」「て」「づ」「で」「っ」が使用不可。
第19話から第22話まで、特定の部首を含む漢字は使用不可。
第29話は、「紅の秋」企画参加作品です。
第31話は、「初恋」企画参加作品です。
第32話は、ヤオヨロズ企画参加作品です。
第42話は、「クーデレツンジレドンキュン」企画参加作品です。
第44話は、「インド人とウニ企画」参加作品です。
※この作品はアルファポリスにも投稿しております。
キーワード
リポグラム 練習帳 ルビ多用注意 黄昏時コンテスト 実験小説 文字遊び 春センチメンタル企画 告白フェスタ 言葉遊び 「夏の涼」企画 「紅の秋」企画 「初恋」企画 ヤオヨロズ企画 クーデレツンジレドン インド人とウニ企画
掲載日
2018年 01月29日 14時41分
最終投稿日
2019年 07月08日 06時39分
文字数
39,408文字(該当部分は1500字程度)
URL
https://ncode.syosetu.com/n7102en/
感想
この作品は短編集であり、内容は各話独立、ジャンルも異世界、現実世界、転生、SF、恋愛などなど多岐に渡る。
この短編集に共通していることとして、文章を書くのに制限を加えた状態で書かれていることが挙げられる。その多くはリポグラムと呼ばれる技法だ。
リポグラムとは特定の文字を使わずに文を書くという制約である。日本では筒井康隆の作品『残像に口紅を』や、西尾維新らの短編集『りぽぐら!』があるが、一番有名なのはマンガ、『幽遊白書』の海藤の能力、『禁句』による、海藤と蔵馬の戦いであろう。
1文字ずつ使える言葉が減っていくというものだ。
この作品集では例えば表題の「『あい』を失った女」では、『あ、い』の文字を使わずに『愛を失った女』を描いた短編を書くという事になるわけだ。
さて、面白いと思ったであろうか?
そうであるならすぐにでも読みに行きたまえ。
分からないなら、そうだな。この作品集の中に「『バレンタイン』なんていらない」という作品があるのだが、それが我が友人、間咲さんにドストライクだと思い、読むのを勧めた事がある。
彼の書いた感想を一部引用しよう。
正直読む前は、
「リポグラムって本当に面白いのかな? それって野球で例えるならスライダーは投げないで試合しろって言ってるようなもんでしょ? スライダーもアリの方が面白いに決まってるよ」
と思っていたのですが、敢えて文字を制限することによって、小説というのはこんなにもお洒落になるものなのですね。
感服いたしました。
これなのである。
別に文字を制限しただけの短編であるなら、紹介する意味もない。この作品がリポグラムを使っている事による利点は大きく2つ。
まず、この作品集は、「『あい』を失った女」のように、何かを喪失したり、欠落したり、あるいは隠している主人公が描かれている。
『あい』という言葉を使わずに愛を主題に描くことで、その隠された言葉の不在をどうしようも無く浮かび上がらせる、これが作品の最大のメリットである。
次に、普段何気なく使える言葉が使えないことにより、文章の一言一言に、作者の神経が行き渡っていること。間咲さんがお洒落と言うのは当たり前なのである。我々が文章を書くときに、文章全体の一単語毎に使う言葉を精査するか?
リポグラムはそれをしないと書けない文学なのだ。
さて、やっと「『さくら』散る春の夜に、『あわき』想いを君に」の紹介に移ろう。
このタイトル、今年の三月末に筆者の石河翠さんががお題を募集したときにわたしが提示したものである。時期的に季節感あるものにしたのだった。
タイトルを見てどう思うか。あなたなら何を書くだろうか?桜で夜、淡き想い。何を想像するだろう。
桜で淡き想いならいかにもな青春だが、そこに夜を加えてみた。
わたしだとそうだな、花魁が秘めた恋心とかね、和風で歴史風なものを書くだろうか。
だが筆者はお題を出したわたしの趣味に合わせて、これをSFで異種族間恋愛、しかも上位種族と下位種族の身分差ありにしてきたのである。
……ドストライクだよ畜生!
また、浮かび上がる情景も美しい。詳細は語らないが、常夜の世界に咲き誇る桜、その下での想いの交流なのである。
先ほど言った喪失や欠落に関しては、ヒロイン側が欠落した、あるいはまだ知らぬ感情に想いを馳せつつ、彼女がそれを得たときにどうしようも無く悲恋となるであろう運命。
この作品はたった1500字程度の短編であり、ほんの一瞬の出来事と主人公の男の心情が描かれた作品に過ぎない。
だが、空間的には舞台の外側に、心情的にはヒロインの内心に、時間的には過去の出会いや未来の運命に想いを馳せることもできる。
その広がりこそ文学なのでは無いだろうか。
リポグラムの説明からしてたから文が長くなった-。
はい次。次回は日曜日の午前零時台に。
ξ゜⊿゜)ξ ノ ⌒◇ <えいっ、ころころ。
……百合!
ちょっと長めの中編で、エルフ少女が尊すぎて読者が融けてしまう作品です。




