源本義人
目を覚ますと、真っ暗な空間に横たえられていた。
淀んだ空気に鉄の臭いが混じってる。
明らかにあの森ではない。
視界の端のアイコンが光っている。
ウィンドウを開くと、色々変わっていた。
男鹿誠 (23)
武器:十字架
属性:聖職者レベル1【特殊スキル持ち】
魔力:レベル8
精神力:レベル3
体力:レベル2
耐久値:レベル82(女神の祝福)
俊敏:レベル2
攻撃力:レベル1[固定](女神の呪い/特殊条件により変動)
勇者資格:有り【磔の勇者】
スキル:《魔術/下級》《鑑識/中級(野草)》《鑑識/下級(魔力)》《投擲》レベル1《跳躍》レベル1《剣術》レベル1《体術》レベル1《投擲》レベル2《魔導書速読》レベル3《■■■術》error《賢者》レベル1《魔力感知》レベル1
魔法:《回復魔法》レベル5《魔導書収納》レベル1《結界術》レベル1
■■■:■■■の解放が可能です。解放するためには条件を満たしてください。
武器の特殊能力:《形状変化》
相棒契約者: 登録がありません。
【バディ・システムが正常に起動出来ません。相棒契約を結んでください。】
……十字架?
武器が十字架って、なに?
チャリ、と小さく音が鳴る。そちらの方に目を向けると、細いチェーンで繋がれた見たことのある形の十字架が首から下がっていた。
思い出した。これ、あの教会にあった大きな十字架だ。
ははっ。まさか十字架が武器になるなんて思わなかった。
そこまで考えてハッとする。
そうだ。ジョンは?
起き上がろうとしたが、うまく腕が動かずに起き上がれない。何でだと、自分の体を確認すると鉄の板で一纏めに拘束されていた。
……ああ、そうか。
そうだった。
「………」
ウィンドウの下方にある【相棒契約者】の欄を見詰める。
そこには当然ながらジョンの名前は無かった。
助けられなかった。
あんなに小さかったのに、いい子だったのに。
俺が、もっと早く武器を手に入れていれば、結末は違っていたのだろうか?
後悔しかない。
あの面白半分で俺を此処に召喚した性悪女神があのまま平和に終わらせてくれるなんて訳無いのにな。頭の中で女神の最後の言葉がぐるぐる回っている。
ちくしょう。
「おーい。起きてるか?」
「!!」
オレンジ色の光が差し込んでいる。
そちらに顔を向けると、剣の男がランプを手に格子の向こうからこちらを見ていた。
一気に怒りが沸き上がる。
何とかして立ち上がり、男に向かって前蹴りを放った。当然格子に阻まれたが、剣の男は予想外だったのが少し驚き、笑いながらこちらに来た。
「なんだ。思ったよりも元気そうだな。てっきり罪悪感に耐えきれずに舌でも噛んでるかと思ってたが」
「てめえこそな。あん時に殺せたと思ったんだが、とても残念だよ」
確実に二人を狙って十字架を落とした。
最後の最後まで、見事に二人を押し潰したところまで見たのだが、甘かったらしい。
その言葉に剣の男は笑う。
「大丈夫だ。あん時ちゃんと一回お前に殺されたさ。ただ、この世界には便利な魔法具があってな、大金さえ払えば命も何とかなるもんだ。まぁ、買ったばっかで破壊された怒りはあるけど、それはそれ、これはこれ。いずれ何らかの形でお前から取り戻す。食うか?」
「いらん!!!」
干し肉を差し出されたが速攻断った。
誰が敵から施しなんか受けるか!!
「あっそ?じゃあ俺が食おうっと」
剣の男はへらへら笑いながら断った干し肉を食った。
「つーか、お前初心者だから知らんと思うが、いくらファムルスとはいえ、契約破棄したらただの人間と同じだ。食わねーと持たんぞ?」
「誰がそうさせたと思ってる!!!よくもあんな小さい子を…っ!!!」
「おっと、待て待て。お前、なにか勘違いしてねーか?」
ピッと人差し指をこちらに向ける。
「なにがだ」
「お前、俺たちがお前のバディを殺したと思ってるだろう?」
その言葉に頭に血が上った。
格子に体当たりする。当然ながら破壊はできないが、やらなければ気がすまない。
「ああ…、そうだ。この人殺しめ!!!」
ぷっと剣の男が吹き出した。何がおかしい。
「はははははははは!!!しっかりバディにグラーテスしといて、俺に向かって人殺しとはな!!はははははははは!!!」
ヒーヒーと腹を抱えて剣の男は笑い、涙を拭った。
「はー、おもしれー。こんなに笑ったのは久々だぜ。
いいか?ひとつ教えておいてやろう。確かに女は殺した。子供も手に掛けた。だが、その瀕死の子供に止めを指したのは、お前だ」
「何を言ってやがる」
「本当になにも知らねーんだな。いいぜ教えてやる」
チリチリと頭の奥が痛む。なんだ?
「感謝は、契約者を即死させる魔法だ。
残念なことに、相棒契約はどちらかが死ぬまで解除できない。しかもバディは三回俺達ファムルスに強制的に命令を利かせられる。三回もだ。不公平この上ない。その代わり、二回目の命令を下されたとき、俺達ファムルスには契約主をグラーテスで殺す権限を得るんだ。録でもない契約主とかいるしな。あ、例外もあるけど、基本はこれ」
頭の中でウィンドウの勇者項目が開かれる。
無かった筈のそこに、そのグラーテスのや三つの願いの概要が増えていた。
男の言葉と同調するかのように脳が勝手に理解を始めた。
まて、じゃあ、本当に俺が──
「いいぜー、グラーテス。そのままバディが死ねば俺達に恩恵は全くないが、グラーテスで殺してやったら、バディの持つ魔力やスキルを全て手に入れることができる。お前のステータスも上昇してたろ?あのガキに感謝しろよ」
「…………」
何も考えられなくなっていた。
もしこれが本当なら、俺がジョンを、手に掛けたと言うことに。
「これでわかったか?あのガキの仇は俺じゃない。お前だ。この人殺しの言葉はお前自身に言えっつーの。八つ当たりするのは止めろよー。てか俺もギリギリグラーテスできたから良かったけど、下手したらグラーテスし損ねて………って、おーい。聞いてる?」
男が覗き込んできたが、今は反応することもできない。
何も考えられない。考えたくない。
「あー、放心してら。まぁいいか。これも洗礼ってやつだ。んじゃ、また後で来るからゆっくりしとけよ」
光が遠ざかる。
真っ暗に戻った空間に、俺は座り込んだ。
「生きてっかー? おおっ、目付き怖っ!」
あれからしばらくこの男は俺の様子を小まめに見に来た。名前を源本義人と言うらしい。勝手に名乗ったのを聞き流したのだが、ステータスが勝手に勇者項目に名前を登録しやがった。
「今日の飯だ。有りがたく食え」
「うるせぇ」
「唸るなよ。獣かよ」
差し出された固いパンを奪い取る。
ジョンと契約していた頃に比べて異様に腹が減る。だが、こいつの手から恵みを貰うのは死ぬほど嫌だったから限界まで食わずにいたのだが、遂にウィンドウから警告がビービー鳴り出し、それでも無視していれば体が動かなくなったのを源本が発見、押さえ込まれて無理矢理喰わされたのだ。
奴は次の奴ともう契約を結んだらしく、力が元に戻っていた。契約者のいない俺なんか片手で赤子を取り押さえるよりも簡単だと言っていた。
あれ以来、もう二度と倒れる訳にはいかないと、食うようにしている。相変わらず味はしないが、くそ不味いと言われているらしいパンを源本を睨み付けながら喰っているのを見て、源本の仲間らしい奴が引いていたのは少し面白かった。
源本は相変わらずヘラヘラ笑ってるがな。
「ほんと獣みてえ。うめーの?」
「貴様をいつでも殺せるように頭の中でシミュレーションしてんだよ」
「俺の殺害方法歯で噛み付いて引きちぎるかよ」
語尾に『www』か『草』が付くんだろうな。
イラつく。
「なぁなぁ、名前教えろって」
「死ね」
「突き離し方変わらねーなぁー。まぁ、野良犬相手にしてると思ってるから面白いけど」
ほとんど毎日のように来る源本は勝手に話し続けていた。
こいつはどうやら前回の聖戦参加者だったらしい。といっても前回のは勇者同士の殺し合いでいいところまでいったが、力及ばずに殺られたらしい。そんで、女神の元で戻るかリベンジかを尋ねられ、リベンジを選択したらしい。
殺し合いに戻るとか意味がわからん。
そうして何日か経った後。
「!」
源本ではない誰かがやって来た。
まだ気配だけだが、源本ではないのはわかった。ファムルスはファムルスの気配を察知する能力に長けている。今日のこれは源本ではなかった。
仮眠をとっていたが、意識が急浮上した。誰だ。
すぐさま起き上がり、扉があるのだろう方向を睨み付ける。
複数の足音がやってくる。
「ほお。これが例のファムルスか」
山賊のリーダーのような男が、たくさんの部下を引き連れやって来た。みんな各々武器を腰にぶら下げている。その中でも、見るからにヤバそうな男が俺をじっとりと品定めをするように眺めていた。
俺の武器である十字架は沈黙している。
源本いわく、バディを登録しなければ武器は本来の力を発揮できない。俺の場合は特にそうで、今はなんの役にも立たないロザリオとなっている。
「男か。まぁ、いい。押さえ付けろ」
牢が開かれ刺叉を持った男達が雪崩れ込んできた。