あまりにも理不尽な理由
俺、男鹿誠は真っ白な空間に浮かんでいた。
いや、立っている?感覚が覚束なくてどっちかわからんが、上もしたも分からない真っ白な空間にいた。
「は?」
そこで、目の前にいる輪郭のボヤけた光の玉に向かってそう言った。先程衝撃的な事を言われたからだ。
今なんつったこいつ。
『だぁーかーらー、間違ったんだって、めんごめんごー。神様にだって間違いくらい一つや二つや三つくらいあるじゃん?』
「間違ったとしても謝罪の言葉が軽すぎません?」
『てか普通、女神が謝ること自体が間違っているんだけど。神様だよ?わたし神様』
「間違いで殺されたんですよ?しかも雷で」
俺はつい先程、この自称女神に殺された。間違いでだ。
何でも、とある存在Xを殺すつもりで雷を落としたら、全然関係のない俺に直撃したらしい。
即死だった。
あんまりにもいきなりすぎてワケわからなかった。
誰が雲ひとつない青空から雷が降ってくると思うかよ。
その雷は心臓を直撃してあっという間に意識を刈り取っていった。痛みがなかったのが幸いだったが。いや、雷が直撃して幸いはねーな。
で、ハッとして我に返ったらこの白い空間にいて、目の前の女神だと言い張る玉にさらっと状況説明されたのだ。
『神様の天罰はだいたい雷なの常識でしょう?』
「知りませんよ。もうめんどくさいから帰してください。神様だからできるんでしょう?」
さっさとこんな悪い夢から覚めて俺は録画したアニメを観たいんだ。最低賃金で毎日サビ残なのに週に一日しかない大切な休日。唯一の楽しみのアニメを観るために、一秒だって無駄にはできない。
今日だって一週間分の食料を買い溜めするためにスーパーに寄った帰りなのだ。疲労で見ている幻覚でも、ただの悪夢でも、本当の現実で手違いで殺されたとしても俺は現実に帰れるのならなんだっていい。さっさと帰って憩いの空間に帰れるのなら何でも許す。だから帰して。
『え、無理だよそんなの』
「神様なのに?」
『むりむり。神様にだって得手不得手あるし。ってかさぁー』
自称女神の気配が変わる。
『…たかが人間の癖にさっきから本当にうるさい。てかあんた何様?ねぇ?』
白い玉が赤く禍々しくなり、見るからに危険を報せるランプの様に激しく点滅を始める。
なんだ?なんか凄く嫌な感じ。
『あんた達人間なんて私たちから見たらただの虫よ?虫。
こっちの都合で捕まえて弄んで手足千切って飽きたら捨てるだけの玩具よ?
今回は私の失敗で怒られるの嫌だったし、他の奴等に見られたら恥ずかしいから裏からこっそりここに連れてきてどっか別の所に転生させて無かった事にしようと思ってたのに、やる気失せた』
「ちょっと、まって!待って下さい!!」
今此処で止めないとヤバイ気がする。
本能が告げている。この自称女神はヤバイ。
「うおっ!?」
バシンと体が何かに拘束される。
指ひとつ動かせない。
『このまま魂ごとミキサーで粉々に砕いて処分でもいいけどー』
ニヤリと笑った気配がした。
『せっかく玩具が手に入ったし、アイツらのように遊んでみるのも良いよね』
ヴォン。
体の周りに魔法陣が展開していく。いくつもいくつも、空間を埋め尽くすほど。
『んー、と。外見はどうしよう。性別変えるのも良いけど、後々めんどくさいからそのままにしておくか。でも黒髪だと人混みに紛れ込まれると誰が誰だか分かんないから白にしとこう』
バシンと軽い衝撃が来て、目の前に垂れる髪の毛が黒から白へと変わっていた。
まずいまずいまずいまずい!!!
このままこのくそ女神に好き勝手されたらどうなるか分からない!!!早くなんとかしなければ!!!
『うるさい。黙れ』
「!? ……っ!!!」
声が出せない!?
『くそ女神とか思ったね、絶対許さないから。ここは呪いを掛けてやろう。せいぜい面白おかしくもがいてろ』
バシンと軽い衝撃が体に走る。
外見の変化はない。何をされたんだ!?
赤い玉からニヤニヤと嘲笑う気配を感じる。
『そーだ、せっかくだから争奪戦に放り込んでやろう。加護は付けない。でも勇者の資格は付けといて…、よし!これで参加資格おーけー』
必死に抵抗するが、声も身動きも取れない俺を無視してくそ女神はどんどん設定をしていく。
『さて、哀れな哀れな雑魚人間くん?君はこれから過酷な争奪戦に参加してもらいます。複数の“勇者”による“人の願いを叶える器、通称《聖杯》”の争奪戦です。ちょうど遊びでやろうと思ってたけど人数不足で開戦できなかったらしい世界に、仮初めの勇者として召喚陣の中に放り込みます。ぽいってね』
ぽいっとされるイメージが転送される。
『属性は、うーん、どうしよう。特に決めてないなぁ。武器も特に決めてないし、うーん』
視線がこちらに注がれる。
『ま、なんとかなるでしょ。素手での攻撃力皆無だから自力で合う武器見付けてね。あ、簡単に死なれたら困るから耐久値は上げといたよ』
ふざけんな!!
『召喚者はーっと、うん?こいつでいいか。魔力はギリギリなのが痛いけど、今こいつしか召喚準備してるの居ないみたいだし。契約します、と。ふふっ、あれ思ったよりも楽しいなこれ。もっと早く参加すればよかった』
チリチリと胸の中心に焼ける痛みが走る。
『こんなもんかな。あ、そうそう。基本知識みたいなのはインプットしておいたから暇なときに確認しといてね?きいてなーい!とかカッコ悪い姿を晒してくれても全然良いんだけど、やっぱりある程度知っておいた方が長く生き残ってくれそうだしね。よし設定完了!』
周囲の魔法陣が次々に体に吸い込まれていく。
体が作り替えられていく不快感に吐きそうだ。
『もし、ってかあり得ないけど万が一君が聖杯勝ち取って此処にくる鍵を得たときは、一つだけ君の願いを叶えて上げよう! だからさ…』
足元が輝く。体が何処かへと吹っ飛ばされそうな感覚が襲ってきた。
『せいぜいわたしを愉しませる為に、頑張ってね』
その言葉を最後に視界は白い空間ごと伸びて掻き消えた。
この作品を手に取っていただきありがとうございます
初めての挑戦をしようと思い書き始めた作品ですので、文章が怪しい箇所などがあると思いますが、随時調整をしながら投稿していきたいと思います。
それでは、どうぞお楽しみください。