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楽しいの選択肢

「こんばんは」

「お姉さんこんばんは」

「高校生活はどう? 上手く行ってる?」

「はい。中学までの知り合いが誰もいない学校だったので不安でしたけど、ちゃんと友達もできて楽しいです」

「そうなんだ」

「あ、でもちょっと今悩んでいることがあって」

「どんなこと?」

「その、部活はどこに入ろうかなって迷ってるんです」

「部活動かあ、それは悩むよねえ」

「うちの学校、必ずどこかに所属しないといけない決まりなんですよ」

「あるある、そういうところ。気になる部活とかはないの? 中学の時に入っていた部活とかは?」

「中学の時は、一応バレー部だったんですけど」

「一応?」

「ずっと補欠だったので……。うちの高校、この辺りではそこそこ強いらしくて、入ってもまたずっと補欠になりそうだなあ、と」

「運動、苦手なんだ?」

「苦手ってほどではないですけど、得意ではないです」

「ふふっ、おかしな自信」

「だから運動部よりは文化部かなあとは思ってるんです」

「文化部にはどんなのがあるの?」

「たしか美術部に吹奏楽部、合唱部、軽音部、写真部、囲碁将棋部、パソコン部、えーと、あっ、あとボランティアクラブやアマチュア無線同好会なんてのもあります。他にもいくつかあったと思いますけど、だいたいこんなところです」

「へえ、けっこう色々あるんだね。そうだなあ、軽音部なんてどう? モテるよ」

「それって部活紹介の時に部員の人も言ってましたけど、本当ですか? ただの誘い文句じゃないんですか?」

「うーん、私がいた学校ではそれなりにモテてたと思うよ」

「そう言われると、ちょっと心惹かれますね……。でも、楽器とかやったことないんですよねえ。ああ、そうすると吹奏楽部もなあ……」

「ふふっ」

 腕を組んで悩む僕を見て、お姉さんはおかしそうに笑った。

「一つ参考に、私が高校生の頃の話をしてあげる」

 僕は悩むのを中断して、お姉さんの声に耳を傾ける。

「私は高校生の頃、天体観測部に入っていたんだ」

「天体観測……。そういえば僕と初めて会った時も月を眺めてましたね。それじゃあ、星に詳しいんですか?」

「ううん、全然」

「あれ?」

「だって幽霊部員だったからね。

 私の学校もどこかの部に入らないといけない決まりだったんだけど、放課後は友達と遊んだりしたかったから、ほとんど活動してない天体観測部に名前だけ入れてたんだ」

「えっと、どこに入るか選べないなら、僕も幽霊部員になればいいってことですか?」

「違う違う。もうちょっとだけ聞いて。

 あのね、私以外にも天体観測部には幽霊部員の子たちが何人かいたんだけど、年に一回だけそういう子たちも集めて、部のみんなで合宿をしたの。顧問の生生が運転するバスで天文台まで行ってね」

「へえ、天文台」

「そう、天文台。そこで職員さんから宇宙の話を聞いて、それから近くのキャンプ場に移動して、みんなでご飯を作って食べたらすぐおやすみ。まだ夕方なのに」

「それ、楽しいんですか?」

「ふっふっふっ」

 お姉さんは人差し指を立てて左右に振る。お酒を持ったままだから、缶の中身がちゃぷちゃぷ鳴った。

「ここからがその合宿の本番なの。夜の十時くらいになったら目を覚ましてね、顔を伏せたまま、テントから少し離れた場所に集合するの。それで、みんな揃ったら『せーの』で空を見上げるっ!」

 言いながら両腕を広げて、お姉さんはアパートに挟まれた長方形の空を見上げた。

「星ってこんなに沢山あったんだって、驚いたよ。街の深夜でも明るい空とは全然別物で、子供みたいに手を伸ばして、よくわかんないこと叫んだ」

 その目は、思い出の星を映しているように輝いている。

「先生や、ちゃんと星の勉強をしてる子は望遠鏡を覗いたり、指で星座をなぞったりしてた。私は全然知らないからそんなのできなかったけれど、それでもね、星空を眺めるのは楽しかったんだ」

 お姉さんの目は星空から僕の目に戻る。

「星のこと知らないからって入部してなかったら、あの星空は見られなかった。だからね、君は『できない』とか『知らない』とかで部活を選ぼうとしているけど、そんなことで選択肢を狭めるのは勿体無いと思うな」

「はい……。あの、僕、もっとよく考えてみようと思います。なんて言ったらいいかわからないけど、考え方を変えて、考えてみます」

「うん。よく悩みなよ。寝不足にならない程度にね」



 それから僕は、布団の中で何部に入るか再び悩み始めたけれど、さっきまでと違って、今度は悩むことが楽しくなっていた。

 あの部に入ったら、どんな楽しみがあるのだろう?

 それじゃあ、こっちの部には?

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